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#14|実体験した、コミュニティの力(後編)

コミュニティは、人生をより豊かにする居場所となるー。
「偏愛物語」とは、オシロ代表の杉山博一が「偏愛」を紐解く連載企画。
第14回は、前回に続いて自身が参加しているコミュニティでの体験から見えた、コミュニティの魅力を紹介する。

前回はぼくが参加している3つのコミュニティを紹介したが、今回は4つ目、「新種のimmigrations」についてお伝えする。

通称「イミグレ」の長を務める遠山正道さんは、「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた実業家であり、2017年にオシロに出資してくださったお一人でもある。

右:遠山正道さん

当時から「一緒に何かやりたいね」という話をしてくださっていて、そのときは「乾杯クラブ」というコミュニティを考えていた。
毎月メンバーに投資をし、その人が何か実現できてお披露目する際にみんなで乾杯しよう、というシンプルなもの。しかしお互いに忙しくてなかなか進められずにいた。

そうこうするうちにコロナ禍になり、遠山さんから「そういえば、あの話、覚えてる?」と連絡があった。当初話していた内容とは少しちがう形でやろう、と企画が再始動し、2020年7月に発足したのが「イミグレ」だ。

新しい経済のかたちをつくる

immigrationsとは「移民」のこと。コミュニティを国に見立てて、移民として集まった人たちで新たな国をつくろう、というアイデアから生まれた。

会員を「住民」とし、住民は住民税(会費)を払って”入国”する。経費をのぞいた住民税を使って、住民同士のブレストから生まれたプロジェクトを応援し、なんなら「ただいるだけでもいい」という関わり合いまで含めて、新しい経済のかたちをつくる試みだ。

先日は「ピクニック紀アワード」という、遠山さんが唱える「ピクニック紀」の価値観を体現できる新種のプロジェクトを募集し、出資するという企画が行われた。
立候補者によるピッチイベントを開き、5つ(幸福に資する、自立継続、幸福の連鎖、オリジナリティ、コミュニティ「新種のimmigrations」との連携)の審査基準に基づき、遠山さんが選考をする。大賞に選ばれたのは「世界に通用するアート・ブックをつくりたい」という企画で、100万円が出資され、これからイミグレ住民たちとともにつくっていく予感。

ほかにも名建築を巡ったり、現代アートやフードなどすべて住民が持ち寄るフェスを開いたりと、さまざまなイベントが自発的におこなわれている。

「ピクニック紀アワード」選考会の様子

イミグレには建築好きやアート好きな人たちが多く、こうした共通の価値観で集まった人たち同士で過ごしていると、親友のようになっていくこともあれば、初対面なのになんでも話せてしまうこともある。

ぼく自身もイミグレに参加するなかで、あるメンバーとお互いオンラインで存在は知っていたけれどなかなかリアルで会えずにいた。その方と数年越しにイミグレの忘年会の場で初めて会い、いきなりディープな悩みを話してしまった。

安心・安全が担保されていると感じられて、価値観が近く、信頼できる場の中にいると、初めて会ったとしてもなんでも話せる。まるで昔から知っていたかのような感覚だ。この感覚は実際に自分で体験してかなりの衝撃を受けた。これがコミュニティの力なのか、と。

コミュニティは、一人ではできないことを実現できる

ぼくが体感しているコミュニティの魅力は、大きく分けて2つある。

ひとつは、一人ではできないことが、コミュニティでは実現できること。
前回伝えたように、「Anaguma」ではアナログゲームを開発・販売したり、クルマ好きのコミュニティではレースに出場したりと、初心者でも同志が集まることで叶えることができた。そうやって新しいことを生み出すことができるのは、コミュニティの素晴らしいパワーだと思う。

この現象を、ぼくは「UGC」ならぬ「CGC」と呼んでいる。
UGCとはユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツの略で、SNSやブログサービス、ECサイトの口コミまで、ユーザーが生成したコンテンツのこと。

そしてぼくらが提唱するCGCはコミュニティ・ジェネレーテッド・コンテンツの略で、コミュニティがあるからこそ生まれたコンテンツのことだ。
つぶやき、ブログ、イベントといった一人で生み出せるコンテンツはもちろんのこと、グッズづくりやプロジェクトの実施など、一人では決して生み出されなかった、かつ熱量が高く近い価値観をもつ人同士の集まりだからこそ生まれるコンテンツがある。

こうしたCGCが生まれる一連のサイクルを、「コミュニティの成長スパイラル」と我々は名付けている。

この「コミュニティの成長スパイラル」には4つのステップがある。
はいる→なじむ→はずむ→にじみでる、だ。

コミュニティの成長スパイラルの図

「はいる」とは、共通の価値観をもった同じ熱量の人たちに入ってもらうこと。
「なじむ」とは、安心・安全を感じてコミュニティのメンバーや場、振る舞いに馴染むこと。
「はずむ」とは、メンバー同士のつながりが増えて強まることで、コミュニケーションが活性すること。
「にじみでる」とは、メンバーがコミュニティで生まれたコンテンツを外部に発信していくこと。

まず「はいる」でいうと、オープンなSNSのように、匿名の相手からの攻撃や誹謗中傷というナイフで刺される恐れがない、安全な環境であることがポイント。OSIROのコミュニティでは、自分が偏愛性を持つテーマについて存分に語れる安心感がある。

また、いきなりオープンな場では投稿しづらいことでも、まずはクローズドな場で発信できるため、本番試合の前に練習試合としてのコンテンツも生まれる。

受け取り手の熱量も高いため、つぶやきやブログの投稿に対しても熱量の高いリアクションが起こるのだ。発信者側には、読んで(見て/聴いて)もらえるという安心感がある。
リアクションという共感してもらえるのも、安心できる要素でもある。こうしたアクションやリアクションを目の当たりにすることで、コミュニティでの振る舞いが自然とメンバーに伝播されていく側面もある。
そうした同じ温度感での交流が増えることで、偏愛性を持つ方々の熱量がコミュニティ全体で保温され、高まっていく。

オープン初期や入会初期は、つぶやき、ブログ投稿、メッセージ投稿など一人で生み出せるコンテンツがメインになるが、メンバー同士がなじんでいくにつれ、メンバー発案の部活動が生まれたり、コミュニティ限定グッズの作成、文化祭や合宿の開催、本づくりといったプロジェクトなど、一人では決してできないコンテンツが生まれてくるのだ。

「Anaguma」のアナログゲーム作りや、クルマ好きコミュニティでのレース出場イベントはまさにそれだ。一人ではできないことがコミュニティだと実現できる。

メンバーの熱量と想いと夢が詰まったCGC

この活性化の状態は数字でも現れている。
一般的に「1%の法則」と言われているものがあり、オンラインコミュニティでのメンバーのアクション率・リアクション率・ロムユーザー率を計測すると、それぞれ「1:10:90」になると言われている。アクション率とリアクション率を足すと10%になる。

それに対してOSIROでは、「10:50:40」、アクション率+リアクション率が60%という驚異的な高さを叩き出している。この数字をお伝えすると大体の方が驚かれる。

これだけアクション率が高いということは、コミュニティのメンバーが交流や活動を心底楽しんでいるという現れでもある。

実際にOSIROでは、盛り上がっているコミュニティではメンバー主催のイベントが多いという特徴がある。部活動のイベント、企画やプロジェクトを実行するためのイベントもあれば、飲み会や雑談するだけのイベントもとても多く、仲がよいことが伺える。

こうしてメンバーがコミュニティの活動を楽しんでいるため、自分が楽しんでいることやそのコンテンツを、コミュニティ外の人にも自然と伝えていく。

これら一連の流れにより、コミュニティ内では多岐に渡るコンテンツが生成されている。消費のためのコンテンツではなく、メンバーの熱量や想い、一人ではできなかった夢といったものがぎゅっと詰まっている。

CGCとは、メンバーの熱量と想いと夢が詰まった、価値ある魅力的なコンテンツなのだ。

人生を幸せにするのは、よい人間関係

もう一つのコミュニティの魅力は、心から信頼できる同志と出会えること。

学校や会社でも仲間はできると思うが、OSIROのコミュニティの場合は、同じ価値観のもとに集まった熱量の高い人たちと出会うことができる。
長年付き合っていなくても、まるで何十年も前から知っていたかのような感覚になる方が多いように感じる。親友のようになっていく人が多いのもあるし、初めて会ったのになんでも話せる人もいる。

仲間とは心から熱中できることに同じ熱量で話せるだけでもうれしいし、ときには家族や友人には話せないような悩みを相談することもある。緩やかな絆(ウィークタイズ)とも言われている。

オープンなSNSでは心配なところもあるが、クローズドなSNSでは機能しやすい。それは、会費が有料なこともあり、安心・安全できる場だという環境も大きいだろう。
例えるなら、誰もが入ってこれるようなオープンな公園ではなく、ナイフを持って入れない場所。誰にも攻撃されることのない、強い城壁に守られているような安心感がある。

家族でもなく、会社でもない、サードプレイスでのつながりでもあることは、多幸感を生む。

ハーバード大学の成人発達研究をまとめた本『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ著/辰巳出版)

コミュニティと幸せの関係については、さまざまな研究が行われているが、有名なのはハーバード大学の成人発達研究だろう。2000人以上の人生を84年かけて調査した研究では、健康で幸せな人生を送るための鍵は「よい人間関係」だと明らかになった。

また、以前対談させていただいた伊藤達矢さん佐藤尚之さんも同様に「コミュニティは孤立・孤独を解決することができる」とおっしゃっていたし、WHOも健康の指標のひとつに「コミュニティがあるかどうか」という項目を入れており、人とのつながりは健康にもつながることを表している。

つまり、自分がフィットするコミュニティがあれば、幸せになり、健康にもなる。

ならば、コミュニティをやろう!と思うところだが、実際には難しいところもある。オシロではこれまでのコミュニティ運営から、うまくいくコミュニティの共通点や、何を持って「失敗」とするのかなどを学んだ。

次回は、8年コミュニティと向き合ってきた経験から学んだ、うまくいくコミュニティ運営のポイントを紹介したいと思う。

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