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京都に世界中から6,279人が集合したインターネット・ガバナンス・フォーラムって!?(Part 2 内容編)

前回の記事、Part 1 概要編では、インターネット・ガバナンス・フォーラム(以降IGFと表記)の歴史や会場の様子を見ていきました。このPart 2 内容編では、そこでどのようなことが話し合われたか、参加した私たちは何を感じたか、お話ししたいと思います。


Part 2 目次

  1. IGF2023のテーマは

  2. 閉幕後すぐにアウトプットがネット上に!

  3. 京都IGFメッセージ草案には何が書かれている?

  4. 最後に

1.IGF2023のテーマは

IGFのメインテーマは「Internet We Want – Empowering All People」。

この1年間インターネットの世界を最も賑わせたのは、2022年11月にローンチしたChatGPTでしょう。

AIが身近な存在となったことで、エンパワーされる人たちがいる一方で、新たに危険にさらされる人たちが生まれ、また様々な格差が広がっていく。どのようなインターネットを私たちは求めているのか。安全で人権や環境に配慮された、国境を越えるインターネットは、どのようなグローバルガバナンスによって可能になるのか。こういったことを話し合うため、以下の8つのサブテーマが参加者の意見をまとめた上で事前に決定されました。

  • AI と新興テクノロジー 

  • インターネット断片化の回避    

  • サイバーセキュリティ、サイバー犯罪、オンラインの安全性

  • データガバナンスと信頼

  • デジタルディバイドとインクルージョン

  • グローバルなデジタルガバナンスと協力

  • 人権と自由

  • 持続可能性と環境

2.閉幕後すぐにアウトプットがネット上に!

皆様も是非こちらのIGFホームページをご覧になってみて下さい。

私たちは閉幕後、余韻も覚めやらぬ中開いてみたのですが、それぞれのセッションのビデオや写真、文字起こしされた文章、要約などが既にずらずらと並んでいました。要約は自動機能を使ったのかしらと思いましたが、委託された会社のページを見たところ、多くの人員のお陰もありと記されていたので、テクノロジーと人間の協働だったのでしょうね。

来年位には人間の手はほぼ必要なくなるでしょうか。この情報共有への意気込みと迅速さは、目を見張るものがあります。


出典:https://www.intgovforum.org/en/content/igf-2023-outputs

さて世界の一次情報を皆様にお届けし、その読み解く力「インテリジェンス」を推進している我々オシンテック、国際機関が出した「京都IGFメッセージ草案」の文字を見たら開かずにはいられません!という訳で以下、メッセージの抜粋とそれに対する所感を皆様と少し共有したいと思います。

なおこちら何故「草案」なのかと言えば、10月一杯参加者は自由にコメントを入れたり、別の参加者のコメントに返信できたり、いいねボタンを押せたりしたからなのです。それを踏まえて近々最終版が出る予定です。

3.京都IGFメッセージ草案には何が書かれている?

それでは以下、筆者が気になった箇所を一緒に見ていきましょう。(原文出典:https://www.intgovforum.org/en/filedepot_download/300/26576

(原文)Stakeholders should discuss the continued role of the internet as a global network, identify potential risks associated with the splintering of the Internet and raise awareness about the perils of fragmentation and the need for collective action.
(DeepL翻訳文)関係者は、グローバル・ネットワークとしてのインターネットの継続的な役割について議論し、インターネットの分裂に伴う潜在的なリスクを特定し、分裂の危険性と集団行動の必要性について認識を高めるべきである。

何故インターネットガバナンスが、そしてIGFが重要なのかが明確に分かる一文ですね。現在は「インターネットの分裂」が起きていますが、インターネットこそ世界中を繋ぐことができる希望のツールであり、どうそれを実現させていくのか、知恵の結集が求められています。

(原文)The United Nations could do more to analyse the development of standards and regulations for the assessment of emerging technologies, share knowledge and best practice, and provide a platform for multistakeholder exchanges on how to develop common principles for emerging technologies.
(DeepL翻訳文)国連は、新興技術の評価のための基準や規制の策定を分析し、知識とベストプラクティスを共有し、新興技術に関する共通原則の策定方法について、マルチステークホルダーが交流するためのプラットフォームを提供するために、もっと多くのことができるはずである。

グローバルなインターネットガバナンスを強化するにあたり、国連が求められている役割を現在のところ充分に果たせていないと明記しているのは、評価できる点です。「もっと多くのこと」が具体的に書かれていて、国連の今後のタスクが明確になっていたら更によかったのですが…。国連の立場、影響力の曖昧さがあらわになっている文章とも言えますね。

国連には何ができるのか…そして日本には…

(原文)Labelling AI-generated content will allow consumers to make more informed decisions and choices. Innovative interdisciplinary approaches are needed to develop the necessary approaches.
(DeepL翻訳文)AIが生成したコンテンツにラベリングすることで、消費者はより多くの情報に基づいた意思決定や選択ができるようになる。必要なアプローチを開発するためには、革新的な学際的アプローチが必要である。

この文章に注目したのは、具体的なひとつの解決法案が示されていたからです。というのも、色々なセッションに参加していて私たちが感じたのは、現状説明や問題提起には多くの時間が裂かれているものの、具体的な解決策については誰も提示しなかったり、例え提示されたとしてもそれについてディスカッションをし深める時間はとれていない、ということでした。

そのことを、当初から毎年IGFに参加している方に話したところ、「現状説明や問題提起は、参加者がその後のディスカッション等に参加するための最低限の知識として必要なのだが、確かに解決法の提示や、発言者同士の意見の戦わせなどはあまり見られない。本来それが望まれるのだが」と意見が一致。

なおその方は、2024年に合意を得る予定のデジタル社会共通原理 Global Digital Compact に向けたワークショップで「私たちが共に成し遂げたいこと、抱きたい野心は何なのか?レポートには多くのページが裂かれているが、決意はどこにも見当たらない」と発言なさっており、その言葉は今回のIGFで最も筆者の心に残りました。
その時会場から大きな拍手が沸いたので、同じように感じている人は多くいる、ということですね。

拍手がこの後沸きました

(原文)It is important that the Compact should provide an opportunity for the technical community to engage constructively with government stakeholders and thereby bridge gaps between technical and policy perspectives.
(DeepL翻訳文)コンパクトは、技術コミュニティが政府の利害関係者と建設的に関わり、それによって技術的視点と政策的視点のギャップを埋める機会を提供することが重要である。

コンパクト(上記所感で言及した Global Digital Compact のこと)の形成には技術コミュニティの関与が重要。そう、IGFで最も聞く言葉は「マルチステークホルダー」です。市民社会、政府、国際機関、民間、技術コミュニティが一同に会して話し合うことを最も大切にしている。IGFホームページのIGF2023アウトプットには統計も出ていて、それによると登録者の所属先は以下の分布であったと。

出典:https://www.intgovforum.org/en/content/igf-2023-participation-and-programme-statistics

とは言え登録者11,145人の内実際に参加したのは9,279人、その内オンライン参加者は約3,000人。残りの6,279人が現地参加者ですが、日本への旅費と滞在費をIGFのために出せるのは…。と考えると、話し合いに主に加わっていたのは現地参加の国際機関や政府関係者ばかり、という様子が目に浮かぶかと思います。

日本の民間企業や技術コミュニティの方々も見かけましたが、ブースコーナーに留まっていらっしゃる方が多く、「医者はルールは作らない」という声がそこから聞こえた程です。

アメリカ大手IT企業はパネリストに入ってはいましたが、彼らが標準的な民間企業の声を代弁できるとは思えません。技術コミュニティに至っては、議論の場にはほぼ見られないと言っても過言ではない状況でした。

一方市民社会は現地での出席が一定数ありました。
市民社会団体は、個人や人間中心といった人権を語る、重要な役割を担っています。

ブラジルのNGO「Data Privacy Brasil Research Association」のレポート「グローバル・サウスからの声:デジタルライツへの国際的関与にかかる視点」(BIONI, Bruno; PIGATTO, Jaqueline; SERVILHA, Mikael; ZANATTA, Rafael. Voices from the Global South: Perspectives on International Engagements in Digital Rights. São Paulo: Associação Data Privacy Brasil de Pesquisa, 2023)に、どの国際会合に注力するかというNGOへのアンケート結果が載っています。

それによればIGFは、 従来のフォーラムでは受け入れられにくいような議論ができる安全な空間、様々なアクターと対話ができる空間と見なされており、アンケートに答えた全てのNGOにとって鍵となる場所だと認識されていました。特にネットワーク構築や提案書の提出に最適な場と考えられているようです。

国連が「マルチステークホルダー」を重視し、なるたけ多様な方面から意見を聞こうとしている姿勢は至る所で感じられます。
しかし国際機関の出席者は毎年同じという声も聞かれ、他のアクターに至っては上述の通り。

如何に市民、民間企業、技術コミュニティの声をグローバルガバナンスに取り入れるか。如何に彼らが当事者意識を持てるよう、国際機関や各国政府関係者は環境を整えられるか。今後の方策を注視したいです。

オシンテックのメンバーがIGFのFacebookページに(右上)。
マルチステークホルダーのイメージにぴったりだったからでしょうか!?
出典:https://www.facebook.com/photo/?fbid=711704434319242&set=a.295562072600149

4.最後に

IGFが行われたのは10月8日から12日。つまり、ハマスとイスラエルの大規模衝突があった翌日から。しかし国際平和を「維持」するための存在である国連の会合にも関わらず、そのことは公には一切語られない。国連の存在が曖昧だから、違う目的のために集まっているから、地理的に遠いから、状況がよく分からないから、世界中では既に多くの武力衝突や非人道的行為が見られるから…。理由は色々あるのでしょう。

そしてIGF、多国籍でまるで日本を飛び出してしまったかのような空間!ですが、アジア系や南半球の人の割合はかなり少ない印象。そして英語が話せないと議論の内容も分からないし、勿論討論もできない。

どちらも世界の現実ですね。でもこれを受け入れることなく、おかしいと疑問を感じ続けることが、例え小さくとも何かの変化のきっかけになりうると思っています。

さて次の記事は番外編。こちらで載せきれなかった京都IGFメッセージ草案の、環境に関する抜粋をお届けします。

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