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村上春樹『パン屋再襲撃』


こんにちは。
何かが狂っているかのような暑さに、
村上春樹の短編集『象の消滅』を手に取りました。

黄色い本です。

この中に収められている『パン屋再襲撃』を、読みます。

パン屋を襲撃するなんて、正気の沙汰とは思えませんが、
狂った夏にはちょうど良いかもしれません。

ページ数にして約17ページ、
小さいけれど、ぎっしりと餡子の詰まった鯛焼きみたいに
食べ応えのある作品です。

「再襲撃」というとおり、この主人公である“僕”は以前にも友人と共にパン屋を襲撃したことがあり、そのことを結婚したばかりの妻に話してしまったことで、今度は夫婦でパン屋を襲撃することになるのです。

クライマックスは、もちろん、パン屋(実際はマクドナルド)を襲撃する場面なのですが、店を襲撃して30個のビッグマックを強奪する、緊迫(!)の場面に至るまで、二人が何故、パン屋を襲撃しなければならないのか、その起爆剤ともいえる「特殊な飢餓」が二人の口から語られます。

今、自分の抱えている飢餓が国道沿いの終夜レストランで便宜的に充たされるべきではない特殊な飢餓であるように感じられたのだ。

そして、いよいよ決行!

二人は中古のトヨタカローラに乗って、午前2時半の東京の街を、パン屋の姿を求めてさまよいます。

しかし、いくら探しても、パン屋が見つからない。
深夜の2時過ぎに営業しているパン屋なんて、そう見つかるものではないのです。

しかし!
道の両側に鋭い視線を走らせていた妻が、唐突に言います。
「あのマクドナルドをやることにするわ」

「マクドナルドはパン屋じゃないよ」夫である“僕”が異議を唱えると、
「パン屋のようなものよ」と妻は言うのです。「妥協というものもある場合には必要なのよ」

二人はマクドナルドの店内に入ります。
「ようこそマクドナルドへ」
カウンターの女の子が言うと同時に二人はスキーマスクをすっぽりとかぶり、散弾銃を構え、要求するのです。

「ビッグマック30個、テイクアウトで」

呆気にとられるマクドナルドの店長以下店員3名を尻目に、
二人は焼き立てのビッグマックがそれぞれ15個ずつ入った
紙袋を手に、店を出るのでした。

“僕”と妻の空腹が、それで充たされたのかどうか、
その答えは二人のみが知るところです。




※写真の白ふくろうは、横浜ズーラシア動物園所属
 ふくちゃん。(星川玲 撮影)



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