#54 新規就農の実態
全国では毎年4.5万人ほどの新規就農者がおり、大阪でも毎年30人前後の新規就農者がいます。(参考:大阪府の農業データ)
コロナ禍を経ての自然回帰やテレビでも”耕作放棄地問題”が取り上げられ、「新規就農をしたい」という相談は増えている印象があります。
そのような意思は大事ですが、「新規就農者の実態はどうなっているのか」を把握することも非常に大切です。
今回は全国農業会議所が公開している新規就農の実態調査をもとに新規就農の実態と心構えについて考えてみます。
※半農半X的な就農を考えている人も多々いると思いますが、そういった経営のデータは見つけられないので今回は専業のデータを見ます。
「新規就農して5年目だと所得はこれくらいだろう」と心の中で10秒ほど考えてから読み進めてみてください!
新規就農者のバックグラウンド
そもそも家が農家ではない人で、農業を志すのはどういった人でしょうか。
バックグラウンドの偏りなどあるのでしょうか。
農業関係の高校・大学に通っていた人はおよそ17%で、ほとんどは農業がバックグラウンドではない方が多いです。
また、職業別でも製造業や建設業が比較的多いですが、特に大きな偏りはなく色んな職業から農業を目指されています。
就農準備にかける時間
新規就農するに際して、情報収集から就農までどれくらいの時間をかけているのでしょうか。
70%以上の人が1年以上をかけて準備されています。20代以下の若い人は1年未満で就農する人が比較的多くなっています。
新規就農は、転職ではなく「起業」です。しかも栽培が年に1回しかできない状況を考えると少なくとも1年は準備しないといけないのではと思います。
就農理由
就農するきっかけ、モチベーションは何なのでしょうか。
就農理由としては「自ら経営の采配を採れるから」「農業が好きだから」といった理由が多いです。
逆に「会社勤めが向いていなかった」というネガティブな理由も20%前後あります。
この後に出てきますが、収入面だとかなり厳しいのが農業の実情です。
それを踏まえても農業経営をしたいと思う場合は、「農業でこうありたい」というビジョンをはっきり持っているのが求められます。
就農1年目にかかる費用
農業を始める際にどれくらいの資金を用意しておくことが必要でしょうか。
例えば営農に関する1年目の費用としては施設野菜で650万円、果樹で300万円ほどです。
加えて生活費も必要です。この表では生活面自己資金が150万円前後となっていますが、家族構成などによってはこんなものでは収まらないと思います。
ただ品目によって初期投資は大きく異なり、いちごの高設栽培ではハウスと中の施設も含めると1000万円くらいはかかることが多いので、やりたい品目について詳しく調べる必要があります。
現在の販売金額・所得
そして一番気になる販売金額・所得はどうでしょうか。
就農5年目以上で販売額の中央値は600万円、農業所得の中央値は180万円です。
また酪農がかなり数値を引っ張っており、施設野菜や果樹では所得の中央値は100万円前後となっています。
2つの表を見比べると、施設野菜では売上高に対する所得率が低いことも特徴的です。
皆さんの今の所得と比較していかがでしょうか。
施設野菜や果樹栽培で所得1000万円以上を達成されている方は2%前後、500万円以上でも10%前後になります。
それに伴い、施設野菜などで農業所得で生計が成り立っていると回答された割合は30~40%前後でした。
その他、年間労働日数は年間250日以上が80%を占めるなど、なかなか厳しい現状があらわになってきます。
伝えたいこと
さて、新規就農者の実態はいかがでしょうか。想像と比べて厳しいのではないかと思います。
いろいろと衝撃的なデータもありましたが、これを踏まえてお伝えしたいのは
①メディアできらきらとしている生産者の姿が流れますが、それに惑わされず現状を把握して新規就農を考えよう(報道されていない裏で相当の苦労をされています)
②その上で新規就農をするうえで自分はどこを目指したいのか(所得○○万円なのか、はたまた違う観点なのか)を考えよう
という点です。
色んな生産者の方と接する中で、うまく行かれている方はやはり数字とちゃんと向き合っていて、かつ自分のやりたいこと・目指すことの軸がしっかりされている方が多い印象です。
「新規就農だ!」と突っ走る前に、ちょっと休憩して上の数字を参考に計画を考えてみましょう。
○大阪で新規就農をするにあたり思うこと
それでも大阪で就農したいという熱意のある方もいらっしゃると思います。
色々なところに相談に行くと、(特に行政機関だと)「栽培技術を磨きなさい(栽培の経験を積みなさい)」と言われると思います。
それももちろん大切なことですが、こと大阪に関しては私はそれ以上に「コミュニケーション力」が鍵だと思います。
「農産物を作る」で終わりでなく、「売る」こともしないといけない都市農業では、
多様な販路を自ら切り拓く、消費者のファンを作る、サポーターとなるような企業・関係者と関係を築くなど、様々な関係者と繋がることが特に大事だと思います。
ですので、就農準備期間には様々な生産者のところを訪れてみることをお勧めします。
自分の知識を深める意味もありますが、それ以上に就農後に相談できる仲間や教えてもらえる先輩を確保する意味合いが大きいです。
大阪ですと下記サイトや生産者のSNSから農業体験募集を見つけることができます。
今回のデータでは取り上げていない細かい内容など、下記ページから確認できますので、就農を考えておられる方はじっくりと読み込んでみてはいかがでしょうか。
https://www.be-farmer.jp/uploads/statistics/YV447s7CQjwBYJ3OtEht202203231858.pdf