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Vol.19 カニさんごめんなさい!

カニさんごめんなさい! 

ある日「カニ鍋が食べたい」とカニを取り寄せました。
届いた箱を開けてみると、大き目のズワイガニが、まだ生きていて動いています。カニに目がない私は、ワクワクしながらお鍋の準備をしていました。

そこへ次女(当時4歳)がやってきて「何~?わ~!カニさ~ん?動いてる~!」とうれしそう。下ゆでをしようと大きな鍋に湯を沸かしました。
「今日はカニ鍋やでー!」と言いながら、ぐらぐらと湯が湧きたつ鍋にカニを入れました。足をしばらく動かした後、カニの動きは止まり、半透明の茶色だった殻がみるみる赤くなりました。

様子をみていた次女はびっくりした顔に。
慌てた様子で両手をあわせ、鍋に向かって大きな声で、「ごめんなさい!」「ごめんなさい!」「ごめんなさい!」と繰り返しました。鍋のカニに向かって、手を合わせて謝っていたのです。

命に生かされている私たち

命あるものが命絶える瞬時に湧いた「ごめんなさい」。それは、私たちが命あるものをいただくことでしか生きることができない存在であることを知った瞬間でした。
野菜も、魚も、お肉も、私たちがいただくものはすべて、元はそれぞれの命を生きていました。

食事を前に「いただきます。」と手を合わせることは、「あなたの命をいただきます」という命あったものへの敬意と感謝の現れなのです。

料理と食卓を通して子どもたちに育むもの

これをお読みの方の中には、「残すともったいないから食べて~!」と子どもに言うこともあるかもしれませんね。
「もったいない」という日本語は他の言語では類義語のない日本オリジナルな言葉。食事を残せば、その命を無駄にすることになる、その無念さを表す言葉が「もったいない」なのです。

「もったいない」ことがないように、大根を料理する時には、葉も、皮も丸ごとお料理にしていただく。煮魚の魚をいただいた後の煮汁にふかした里芋を入れて煮ころがしにする。茶碗に残った米粒をいただくため、食事のラストに茶碗にお茶を注いで一粒残さずいただく。

そうやって命を丸ごと食べきる習慣を持つ私たち日本人。
古来、大切にしてきた「もったいない」の精神を、料理を通して、また食卓での「いただきます」や「もったいない」の言葉から子どもたちに伝えていけたなら、それは自然と命を大切にする気持ちを、子どもたちに育むことに繋がるだろうと思います。

カニさん、ありがとう

さて、鍋のカニに両手をあわせて「ごめんなさい!」を連呼していた次女はといえば、食卓のお鍋を家族みなで囲むころにはすっかり落ち着いていました。「いただきます。」と手を合わせ、一口食べて「おいしい。カニさん、ありがとう!」。全てを平らげて「ごちそうさまでした。カニさん、ありがとう!」と食卓を去っていきました。

体験は子どもを大きくすることを実感した出来事でした。

こどもキッチン 主宰・講師 石井由紀子


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