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Vol.14 教えずに見守っているとみえてくる子どもの姿

大人は答えを知っている

チンパンジー親子が登場するドキュメンタリー番組でのこと。檻の柵に大好物の食べ物の入った試験管を設置。柵の外に設置しているので、チンパンジーの手では試験管をとることはできません。

そして、檻の内側にいても柵のすき間から、設置された試験管に細長い棒を差し込むことは可能でした。チンパンジーのそばに形状が様々な棒、木製のもの、針金の先にふさふさがついたものなど、何十種類もの道具が置かれました。試験管の底にある「ごちそう」を食べたい親チンパンジーは、道具一つを何の躊躇もなく手にとり、器用に試験管に差し込み、底にあったごちそうをうまい具合にくっつけて食べました。

道具は、食べ物が取りやすいもの、取りにくいもの、全くとれないものもがあって、その中で、過去の経験から素早く「答え」を選んだ大人チンパンジー。すごい!と驚きました。

親を超えようとするこどもにあるもの

子どもチンパンジーは、そばで親の様子をみていて、自分も食べたくなったのでしょう。親の使った道具も試してみましたが、さらに他のものをあれこれと試し、最後には親が選んだ道具よりも、もっとずっと楽にとれる道具を探し出してゆうゆうと食べていました。
親は子どもの様子にかまうことなく、あいも変わらず苦労して、最初に手にした道具で食べ続けていました。答えを知らないからこそ「これかな?あれかな?」と、気楽に次々と試そうとする子どもの中に、親を超えて、さらに進化しようとする資質のようなものがあるのかも知れない、そう子どもチンパンジーに教えてもらった体験でした。

教えずに見守っているとみえてくる子どもの姿

親子料理教室こどもキッチンでは、大人の方には「けがなどの危険がない限りは、だまって子どもの様子を見守ってみましょう」と伝えています。声をかけると声に子どもの意識が向いてしまい、安全に作業することが難しくなるからなのですが、静かに見守っていると、「子どもが今、何にチャレンジしているのか」がみえることも。「どう持つとうまく切れるのか」包丁の握り方を試している子ども、「薄く切る」にチャレンジしている子ども。

中には、輪切りにしたきゅうりをまな板の上に等間隔で並べている子どもも。こんな時、「並べてないで、早く切って!」と言いたくなるかもしれませんが、実は「一定の間隔をあけて並べる」というのは、人間ならではの知性の働きなのです。何かに没頭している子どもの顔を、こどもの背後からではなく、前からそっとみてみると、研究に没頭する学者さながらです。

誰に教えられたわけでもないのに、体験から何かつかもとしている子どもの表情は、真剣で穏やかです。すでに答えを知っている大人が忘れてしまっている世界を、子どもはみているようです。

筆者:こどもキッチン 主宰・講師 石井由紀子

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