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ニューノーマル、新しい観光

コロナ禍は世界を強制終了した。国境は閉鎖され、移動を伴う観光は壊滅的な被害を余儀なくされた。未曾有の危機。苦しい状況には違いないが、再び目線を上げ、この危機を転じて好機とする術を考えなければならない。

2020年8月開催、トークイベント『ニューノーマル、新しい観光』

コロナ禍では、多くの企業が被害を被ったが、一方で、好調な企業もあった。なかでも気になったのがスターバックスとウォルマートだ。

FAST COMPANYの記事によれば、スターバックスは、コロナ禍で店舗閉鎖などの影響は受けたものの、結果的にはコロナに背中を押され、将来に予定していたデジタルオーダー&ピックアップ戦略が前倒しで進んだという。

ウォルマートも絶好調だった。株価はAmazonに迫る。こちらもデリバリーや店舗でのピックアップ、列に並ばずに精算可能なチェックアウトウィズミーなど、コロナ禍の遥か以前から拡充してきたサービスが今回の災禍で後押しされる形となった。

たまたまでしょと言い捨てるのは簡単だが、未来を見据えた計画や取り組みがなければ、こういった結果も生まれなかったに違いない。少なくとも未来を見通すための努力と投資は相当やってきたのではないだろうか。

では、観光はどうか。

コロナ禍以前にどんな未来を描き、どのような準備をしてきたのか。訪日観光では、2020年に4000万人(8兆円)、2030年に6000万人(15兆円)といった来訪者数(消費額)についての目標はあったが、5年後、10年後、20年後の未来に、旅行者の観光体験をまったく新しい次元に導くようなイノベーションは検討されていただろうか。

リーマンショックの後、現在と同じように人々の価値観の変化とニューノーマルが語られた。持ち家をやめる。車を持たず公共交通機関や自転車、あるいは徒歩で移動する。そこにかけていたコストを旅行などの体験に使う。行き過ぎた消費への反動。モノからコトへの価値観の変容だ。環境への配慮もここに加わった。

あれから十年の歳月が経過したが、ニューノーマルとバックトゥノーマルのブレンド加減はどうだろうか。世界の旅行者は8.8億人ほどだった2009年から2019年には15億人に。日本を訪れる外国人は2009年の679万人から2019年の3188万人へと5倍に迫る大幅な成長となった。

日本の風景は外国人観光客とともにある、新しい日常へと変わったのだ。

豊かになったアジアがこの変化を後押ししたと言われるが、それだけではない。ExpediaなどのOTAの広がり、Google Map、Airbnb、Uberなどのテクノロジーベースのイノベーティブなサービスの台頭が市場の拡大を後押しした。成長した市場では、D2CのAwayなどの新しいユニコーンが若者層を中心にあらたな旅のトレンドを生み出している。

観光には、古い産業構造も多く残るが、世界を注意深く見れば、リーマンショック後の十年ほどで、ずいぶんと新しいテクノロジーやしくみにその支柱は置き換わっているのだ。

前回の危機で生じた価値観の変容は、観光の新しい需要を生み出した。新しいテクノロジーやしくみはその成長を牽引し、新しい雇用を創出した。そして、新しいライフスタイルが形づくられてきた。

日本の訪日観光の成長もこのトレンドの中にあったが、どちらかといえば、ひらき切れていなかった門戸を世界に向けてひらいたこと。円安、ビザの発給条件緩和などが成長の下支えとなった。世界の観光市場の発展に貢献するような日本発のイノベーションや新しい取り組みができたわけではなかった。

冒頭に書いたように、コロナ禍によるこの危機を好機へと変える必要がある。それは、疲弊した状況の中で、限られた資金やリソースを投じて、将来の成長や繁栄につなげていくということと等しい。困難を伴う取り組みだ。

2020年8月3日から4日間連続で開催するトークイベント、『ニューノーマル、新しい観光』では、危機を好機へと転ずるための糸口を探る。各回ごとにテーマを設定し、それぞれの登壇者たちとともに考えてみたい。

トークイベント『ニューノーマル、新しい観光』はオンライン配信します。視聴はこちらから

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Hiroyuki Fushitani
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