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岩手県の民俗学(胆沢の民話)

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岩手県の胆沢という地域に伝わる民話や伝説を紹介しています。 民俗学的に価値のあるものだと思うので、目にとまった人の記憶に、少しでも残って伝わっていけばいいなと思います。
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#生贄

胆沢物語『姫と大蛇』【岩手の伝説㉑】

胆沢物語『姫と大蛇』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【六章】姫と大蛇

翌日、吉実の妻は、小夜姫があまりにも美しいので、大蛇の贄(にえ)にすることを可愛想になりました。

そのことを夫吉実に話すと、吉実は顔を変えて、実は贄のことは小夜姫にはまだ話していない旨を告げました。

いづれ小夜姫に話さねばならぬことなのだが、どういう風に話し出したらいいのか、そのことで疲れた割に昨夜はあまり眠っていないこと

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胆沢物語『小夜姫③』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【五章】小夜姫【三節】

旅はいつしか伊達領に入っていました。

千賀の浦からは船でした。

※千賀浦・・・ちがのうら。宮城県松島湾南西部の浜辺。

小夜姫は博多から乗った船の経験があったので、眉をひそめましたが、船の進む波間に、多くの緑の松の生えている島々の浮かんでいるのには驚きました。

そこは松島でした。

小夜姫は、この世にこんな美しい風

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胆沢物語『小夜姫②』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【五章】小夜姫【二節】

筑紫はもう、春が過ぎようとしていました。

博多から馬を捨てて、船に乗りました。

船路は必ずしも穏やかなものばかりではありませんでした。

奈良から再び陸路に変りました。

しかし路銀の都合もあって、馬を雇うことはできませんでした。

したがって吉実一行はもちろん、姫も硬い草履の旅でなければなりませんでした。

慣れぬ

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胆沢物語『小夜姫①』【岩手の伝説㉑】

胆沢物語『小夜姫①』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【五章】小夜姫【一節】

丁寧な挨拶をしながら破れた笠を取った小夜姫の顔を見た吉実は、アッとあやうく声を上げるところでした。

顔は少し汚れて、髪も幾日も櫛(くし)づけていないらしく、麻糸の乱れを思わせるものがありました。

でも澄んだ眼から鼻筋の通り、美しい桜貝を合わせたような唇など、自分の娘を見たのではないかと、いぶかったほどでした。

こん

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