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夕立ち

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地上に降りて帰れなくなった天使と、 一人、の物語。
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水槽の部屋 (夕立ち 5話)

水槽の部屋 (夕立ち 5話)

↑このお話の続き

***

「いいよ」と応えた。

その子はコク、と頷いたあと、
心から安心したような顔をして、
ぺたりと床に座り込んだ。

よく見ると、震えている。

その子の肩に触れると、
とても冷たかった。

お風呂入る?と聞くと
またコク、と頷いた。

その子は真っ白なワンピースの着物を着ていた。
体にぴったり張り付いて脱ぐのが大変そうな。

脱ぐのを手伝ってあげようと思って手を伸ばすけ

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夕立ち(4話)

夕立ち(4話)

部屋の電球が、
2,3回点滅して、
切れてしまった。

真っ暗だ。

このまま暗いままでもいいか、と思ったが、
まだお風呂にも入っていない。
晩ご飯を食べたところだった。

外は土砂降りで、
不思議な生命の気配が漂っていた。

生暖かい夜に、
霊や魂や、エネルギーたちも、
雨に助けを得て
歩き出しているのかもしれない。

時々吹き付けて、
網戸を越えて入ってくる風が、
ふわっふわっと
頬やおでこを

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夕立ち(3話)

夕立ち(3話)

↑このお話の続き

******

ごめんください…

部屋の中は真っ暗だった。
あの灯っていた明かりは、もう消えてしまったのかな。
夕日が沈むみたいに。

もう眠ってしまいましたか。
私を泊めてもらえませんか。

扉の近く、水槽のさかながパクパクと口を開いた。

ご主人、電球が切れて、
なぜだか静かになっちゃったよ。

君は迷子かい?
迷子だねえ。

あれ。君天使?天使だね?
珍しいこともあるも

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夕立ち(2話)

夕立ち(2話)

↑このお話の続き。

雨粒の天使

雨は雲を離れ、
地上へと向かう。一粒で。
空中に孤独。

音立てることもなく。

波紋をつくり
地上の水の仲間入りをするまで、
ひとりで。

わたしは、雨みたい。
天の世界から離れて、
地上にたどりついて。

でも、雨みたいに浸みていくことは
できないでいる。

濡れた髪。
ぬれた翼。

私にはつばさがあって、
それはこの場所でも変わらないこと。

翼が折れなく

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夕立ち(物語)

夕立ち(物語)

雲が閉じたとき、
おとうさんは
こちらをみて
何か言おうとした。

光の筋にのって
雲の上まで帰ろうとした夕方

わたしは間に合わなくて、
雲のこちら側に、取り残された。

口を開いて、
「まって」といおうとしたとき、
雨がどっとふってきた。

翼がぬれて、
はばたきができない。
息も、できない。
こんなのはじめて。

下を向いていないと息ができなくて、
つばさの付けねが痛くなるほど羽ばたいても、

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