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夕立ち(物語)

雲が閉じたとき、
おとうさんは
こちらをみて
何か言おうとした。

光の筋にのって
雲の上まで帰ろうとした夕方

わたしは間に合わなくて、
雲のこちら側に、取り残された。

口を開いて、
「まって」といおうとしたとき、
雨がどっとふってきた。

翼がぬれて、
はばたきができない。
息も、できない。
こんなのはじめて。

下を向いていないと息ができなくて、
つばさの付けねが痛くなるほど羽ばたいても、

わたしは、
少しずつ降下していった。


最後はバシャッと
水たまりに落ちた。


空を見上げた。
灰色の空から、
ザアザア降ってくる。



お父さんはときどき、
うっかりしてるの。

今日のうっかりは、
夕立ちの来る時間を間違えたことだった。

大丈夫。さ、急いで上ろう、と
最後に一本だけのこった光のはしごを
急いで駆け上ったけれど、
翼の細い私は、バテてしまって、
登り切れなかった。

雲に乗ったお父さんは、私がついてきていると思っていたようで、
雲が閉じる直前に振り向いて、驚いて、慌てていた。
そして、今までに見たことがないような、哀しい顔をしていた。

今日はこのあと、
みんなで雲の峰までのぼって
夕日を眺めるはずだったのに…


お水って、つめたいんだね。
雲のお布団は、あんなに暖かかったのに。




灰色の空の向こうに、
お父さんとお母さんがいて、みんながいて、
今日も夕日を見に行ったのかな。

私がいなくなっても、心配しないで、
ゆっくり眠ってほしいな。
それで、できれば明日、
迎えに来てほしい。



私の目からも温かい水が
こぼれて
雨と混じって流れていった。

今夜はどこで眠ればいいんだろう。

空を見上げる天使 近景 rf

28years old,2.11,Mizuki

絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。