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大切なのは郷土料理を途絶えさせないこと〜福島県 久之浜町〜

株式会社おのざき

”僕たちは夫婦でやっているんでマイペースですよ”


優しい笑顔で話してくれたのはいわき市 久之浜で、郷土料理”さんまのポーポー焼き”を作る井出さん。
家業を継いだのかと思いきや、なんと食品を取り扱うECサイトで働くサラリーマンからの転職。
当時いわきの食品関係のECサイト運営会社で、お酒の企画担当をしていたときに出会ったのが先代が作るさんまのポーポー焼きでした。
先代が高齢を理由に工場を畳もうかというタイミングで”井出くんやってみないか?”と事業継承の提案があったそうです。今でも先代が使っていた包丁を大切に使っている井出さんは、作業を始める前に丁寧にその包丁を研いでいました。30年以上も使われ続けている柳葉包丁はかなり短くなっていながらも尚現役であることに、井出さんが先代に対して持つ尊敬の念を感じました。

先代の阿部さんご夫婦

井出さんは子供の頃から魚好きで、住む場所も水辺を意識してきたそうです。学生時代はサンフランシスコへに留学し、プロアングラー(プロの釣り師)を目指した事も。今も海まで歩いてすぐの場所で生活を営んでいます。2年前にいわき市平地区から引越しをした井出さんファミリーは久之浜での暮らしを楽しんでいるようです。

福島県いわき市久之浜の今

”駅までも徒歩すぐだし、海も近いし、スケボーで通勤しているんですけど道もいい感じなんですよね。
こども達も学校生活を楽しんでくれていて、周りの子達もみんないい子なんです。”
と話す井出夫妻。
震災の影響が大きかった久之浜に少しずつ新しい文化が出来始めている事は、実際お話を伺い海までの道を散歩し、新しい住宅が立ち始めている様子を目の当たりにして感じることができました。

波立海岸
久之浜港

福やのポーポー焼きは震災後に建てられた地域の商業施設”浜風きらら”内にあります。
掃除が行き届いているピカピカの作業場は決して広くは無いですが、ご夫婦二人で連携しながらお仕事をするのには丁度良いサイズ感。

手作りのポーポー焼きが出来るまで

半解凍のさんまをさばく事からスタートします。井出さんが仕入れている大きめのさんまは小さいものよりも脂が乗っているのでポーポー焼きの味が良くなるそうです。生さんまを使用すると、叩くときにドリップが出ます。ドリップには旨味も詰まっており、それが逃げ出すのがもったいないので、敢えて冷凍さんまを半解凍にして、2~3℃の状態のうちに(溶けてドリップが発生する前に)手早くたたいていきます。

半解凍のさんま

鮮やかな手つきでサンマの身とハラスを包丁で切り分け、大名おろしで身と骨を分けていきます。苦味の元になる血あいも丁寧に通り除きます。

さんまを柳葉包丁でさばく工程
油が乗った部分も無駄にしない

次に捌いたさんまをこんもりと重ねて一気に包丁を入れます。この時に小骨が刻まれるザクザクという音が作業所に響きました。”魚を食べる時に嫌な思いをするのって骨が喉に刺さってしまうことですよね?美味しく食べてもらいたいんで丁寧に作っているんです。”と井出さん。
この工程で印象的だったのは、尾の部分よりも骨が気になる腹骨部分は念入りに細かく刻み、少しでも骨が気にならないようにされているという気遣い。井出さんならでは、そして手作業だからこそ実現出来る事。

骨はしっかり刻んで違和感をなくしながらも、ごろっとした食感を残すために細かく刻みすぎないのが福やのポーポー焼の特徴です。確かに口に入れた時に程よい食べ応えがあるのを思い出しました。
ここまで手作業に拘っているのは、熱に弱い青魚は機械を使うと鮮度が落ちてしまうから。大量に処理すると機械が熱を帯びるので熱に弱い青魚には向かないから。そしてなにより昔ながらの家庭料理を再現するためだそうです。

いわゆるハラスの部分だけミンサーにかけます。他の部分よりも太い骨が混じっているため機械でしっかり取り除きながら細かくしていきます。

ソーセージを作る機械を使用してさんまをミンチしていく

次に、なめろう状態にしたさんまに調味料を加えます。赤味噌、みりん、生姜、ねぎ、パン粉。至ってシンプルな材料からポーポー焼きが家庭料理だということを再認識しました。いわきの海沿いの街では各家庭によって微妙に味わいが異なるお袋の味的な存在だとか。地元の方とお話をすると、”やっぱうちのポーポー焼きが一番うまいんだよな〜”とお手本のような回答を頂けます(笑)
ちなみに、赤味噌を使うレシピは珍しいので、他のポーポー焼きとの味わいの違いを楽しめると思います。

大きなボールの中でなめろうと調味料を混ぜ合わせる

最後は専用の型にはめて成形し、冷凍庫へ。この型は井出さんのお知り合いにお願いして作っていただいた別注品!型に合わせてタネを埋めていく作業は見ていてとても気持ちが良かったです。

まさにお魚ハンバーグ!

昔ながらの食べ方は甘辛いタレをたっぷり付けた照り焼き風やポン酢でさっぱりと頂くスタイル。
最近だと崩したポーポー焼きをペペロンチーノに混ぜたパスタや、ベーグルサンド、トマトペーストと合わせたイタリアン風、とろ〜っとチーズを溶かしたチーズハンバーグ風など皆さんそれぞれのアレンジを楽しんでいるそうです。確かに癖のないさんまは懐が深いですよね。

10月11日にセブンイレブンで福島県限定のさんまのポーポー焼きおむすびが販売されました。こちらは福やのものと異なるなめらかな食感のお魚ハンバーグといった食感。醤油混ぜご飯部分とポーポー焼きの間に一味マヨネーズが塗ってあり食べ応えがありました。初日は完売する店舗もあったほど大反響!

セブンイレブンのおにぎりを食べながら、少しずつでもポーポー焼きの認知度が上がればいいなと思いました。特に福やが真面目に作るポーポー焼きは1つにつき、さんま丸一尾分が入っていて栄養価的にも申し分ありません。焼き魚は面倒でも、冷凍庫から出して直ぐフライパンで焼くことができるので忙しい夕飯タイムにも助かります。

なにより添加物なし、作業工程が全て手作りなので自信を持ってお勧めできます。さらに、作っている人の顔が見える食品は今の時代とても貴重。井出さんご夫婦は卸先、その先にいるお客様に安心して貰いたい、だから品質には高い意識を持っているとおっしゃいます。機械で作業してしまえば時短できるし楽。でも手作業だからこそ、小さな骨の違和感を手で感じることが出来るし青魚の鮮度も落とさない。こうした背景を知ると価格にも納得できるし、何よりも井出さんが作るポーポー焼きが食べたいと思うはずです。

”郷土料理を次の世代にも繋げていきたい。だから無理をせず、自分達のペースで、くらしを大切にしながら続けているんです。”という言葉がとても印象的でした。
井出さんご夫婦が纏う柔らかな空気感をこのnoteを通じて少しでもお伝え出来たら嬉しいです。そして是非一度さんまのポーポー焼きを召し上がってみてください。皆様のお買い物がいわきの郷土料理を後世に繋いでいく応援にもなります。

おのざきについて

街を面白くする魚屋を目指して4代目が奮闘中の福島県いわき市の老舗鮮魚店です。おのざきに行くと面白い、楽しい、そんな感情価値を提供できる魚屋でありたいと考えています。ミッションは”街をもっと多彩に、もっと面白く。
4代目のインタビューはこちら


ライター:おのざきEC担当 尾浜あづさ
カメラマン:熊田 誠
写真家。福島県内のスナップ写真を中心に撮影。写真集「#霞が晴れたら」(2022/3/6リリース)著者。
※一部写真は福や井出さんからの提供


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