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”おにわさん”中の人が独断で選ぶ、2021年初鑑賞で素晴らしかった日本庭園名選

昨年もこのセレクションは8月になってから載せていたのですが、2022年ももう夏の終わり…。
今更ですが『昨年2021年に自分が初めて訪れてヤバい!と思った庭園』略して“ヤバT(庭)”を記したいと思います。秋の庭園巡りの参考にしてください。
⇩2020年版の独断で選んだ庭園名選はこちら。

■『おにわさん』は掲載庭園が約1,780箇所、そしてInstagramフォロワー:6.7万人/SNS合計フォロワーは7.5万人を突破しました

こういう数字はいちおう定点観測的に書いておきたい。1年前の記事では「インスタが2.5万人、合計3万人」と書いていた。

昨年と同じ話ですが…そこから倍になったからと言って自分個人の立場に変化が生じてるわけではなく、別にキラキラしたような人種になっているでもなく、むしろ八方塞がり・無力感にさいなまれている状況なので先日「新オーナー募集」を開始しました。

↑の中で《ウェブサイト・SNSを通じて月間で50万人以上のユーザーが「日本庭園」の情報に触れてくれています。》と書いたけれど、この8月に関しては月間150万ユーザーに「おにわさん」の日本庭園の投稿はリーチしている。

■なぜこの様な「編集性のある記事」を無料で公開するのか?それは、ただただ『庭園に足を運んで欲しい』からだ

本記事のような『自分で足を運んで、かつ編集性のある記事』は普通ならばnoteで有料マガジンにしたっていいんじゃないかと。紙媒体なら普通に有料のもの。

なのだけど、無料で公開し続ける意味。それは『庭園に足を運んで欲しい』から。
今こうして居るうちにも、「今日は10人も来なかったな…」という文化施設は想像以上にたくさんあると思う。

(国指定重要文化財の田中本家さんは割とよく赤裸々に入場者数をつぶやいておられる…0人ツイートも何度か。)

誘客に貢献できているかはわからないけど…
『おにわさん』が提供している「日本庭園マップ」はこの8月のクソ暑い間でも平日は2〜3000、週末は4〜5000ぐらい見ていただいている。

↑クリックするとマップに飛ぶよ

マップの中でも京都をズームして見てる方も多いだろうけど、そうした方々が「うちの地元にもあるじゃん」と気付くきっかけになり、全国の庭園の来場者の底上げに少しでも繋がるように。

『おにわさん』はそんな“利他”を大切にしている。今っぽく言うと“シェア”。
庭園の消失が増えているこの庭園シーンにおいてそれが広がっていくことを望んでいるし、それを引き継いでくれる・後押ししてくれる存在を見つけるための「新オーナー募集」です。

…というわけで前書きが長くなってしまったけど紹介していきます!

■おにわさん独断で選ぶ、2021年初鑑賞で素晴らしかった日本庭園

先に紹介した、“いいね数”による『おにわさんInstagramから見る、日本庭園ランキング2021』

ここに含まれない中でも、個人的に『ここはすごい!』と思った庭園が沢山あります。そんな庭園を9箇所+次点を9箇所ピックアップ!
なお、①〜⑨という順番はランキングではありません(昨年は同率1位があったけど)。あと「初鑑賞」という条件の下なので必然的にマニアックなところが多いです。

左上から①〜⑨

①香雪美術館(旧村山家住宅)庭園(兵庫県神戸市・国指定重要文化財)(*通常非公開・申込制)

――阪神間モダニズムの走り。朝日新聞創業者・村上龍平の邸宅だった国指定重要文化財の建築群と茶人・藪内節庵作庭の露地庭。

和館の建築は藤井厚二。昨年も「京都と比べて大阪・兵庫の庭園って語られないけど、阪神間モダニズムは建築だけじゃなくて庭園もすごい」的なことを書いているけど、香雪美術館の庭園はあの御影の住宅街の中にあの森が残っている異様さがすごい。

なんか自分の写真を見直すと写真がイマイチでそれが伝わらないので…ここはぜひ申込制の特別公開に訪れて欲しい場所。

②聚遠亭(兵庫県たつの市・市指定文化財)

――播磨の紅葉の名所は苔も美しい。龍野藩主・脇坂家の屋敷跡に残る、孝明天皇ゆかりの茶室を中心に据えた回遊式庭園。

兵庫県でもう一つ。訪れてみると「公園」のような形で市民に開かれているので「庭園」として推されることは無かったのかもしれないけど…苔も紅葉も茶室も全部いい!

③桜鶴苑(看松居)庭園(京都市左京区)

――七代目小川治兵衛(植治)と武者小路千家・木津聿斎(木津宗詮)作庭による南禅寺界隈別荘群の傑作庭園の一つ。

京都もまだまだ初めて見る庭園があって、その中でも一番感動的だったのは元・南禅寺界隈別荘群の「桜鶴苑」。昨年も『菊水』は選んでたけど、ここも素晴らしかった〜。
でもこうした料亭・飲食店の庭園も安泰ではなく。2021年、桜鶴苑を所有するワタベウェディングは名古屋の「興和」の子会社になったし、同じ左京区の『岡崎つる家』も休業した。なんかこう、手が届く価格であるうちにぜひ利用して欲しい。

④岡林院庭園(京都市東山区)(*通常非公開)

――2021年に初の特別拝観。この秋京都で見るべき苔の美しい庭園。鳥尾小弥太や田中仙樵ゆかりの茶室“忘知席”も。

2021年秋に初めて特別公開された、京都・高台寺の塔頭寺院。京都にはまだこんな美しい苔庭が隠されていたのか…!
今後の特別公開は未定だそうだけど、公開されたらぜひ静かな気持ちで体験して欲しいお庭。

⑤東濱口家住宅(濱口氏庭園)(和歌山県広川村)(*通常非公開)

――これが庭屋一如。日本遺産“百世の安堵”にも構成される、商家・東濱口家の国指定重要文化財の邸宅と庭園。

前述の香雪美術館や↓の菊屋家住宅、東京の『旧朝倉家住宅』なんかがそうだけど、「建築は国指定重要文化財だけど庭園は非文化財」である事例って結構多い。

そんな中でも…こんなに「庭園(造園)と建築が一体化したお屋敷、稀有じゃない…?」ってのが『東濱口家住宅』。ここはマジで素晴らしい…。
通常非公開で2021年も特別公開は「ハガキでの事前申込み」と狭き門だけど、「庭園を芸術として捉えている」方には一度見て欲しい場所。

⑥菊屋家住宅(菊屋氏庭園)(山口県萩市・国指定重要文化財)

――世界遺産・萩城下町の藩御用商人の邸宅に残る、枯山水の書院庭園と通常非公開の近代日本庭園。国指定重要文化財。

2021年に7年ぶりに訪れた萩。萩がこんなに庭園の層が厚い場所だったとは前回は全く気付いてなかった。中でも菊屋家は↑のサムネイルの座敷庭と、広い芝生の「新庭園」(*期間限定)とあってトータルでは一番かと。

そして萩の庭園の紹介の中でたびたび書いたのは、『(2020年に推した)出雲流庭園との類似性』。そしてその萩のスタイルは長州藩の他の町…山口市や防府あたりの庭園でも感じられる、という点。

青森の『大石武学流』のように学術的な研究の対象になったり文化財になるかはわからない。
それよりも、例えば2022年にイタリアのロック・バンド:マネスキンが世界を席巻し始めているように、『日本庭園の表現・スタイルの幅の広さ』がもっと認知されて盛り上がっていけばいいなーみたいな。

⑦中野邸記念館“泉恵園”(新潟県新潟市)(*秋に特別公開)

――まだある新潟の名庭園!かつて日本一の石油産出量をほこった“日本の石油王”中野家が明治時代に建築した近代和風建築と紅葉の名所庭園。

新潟の庭園もほんとに層が厚い…。文化財文化財書いてるけど、中野邸はすんごいお屋敷も庭園も非文化財。そんなの関係ないっす。すごい。
毎年秋に特別公開される紅葉の名所として地元の方々にも親しまれています。

⑧神仙郷(箱根美術館)庭園(神奈川県箱根町・国指定名勝)

――2021年、新たな国指定名勝に。紅葉の名所として人気の東京圏随一の美しい苔庭と、箱根の山々から相模湾まで見渡す庭園。

そうそう、2021年は2年ぶりに関東に足を運べた…。そして多くの庭園を抑えて2021年新たに国指定名勝になった箱根美術館の庭園はそれにふさわしいクオリティの庭園だった!
隣接する強羅公園の『白雲洞茶苑』も素晴らしいので合わせて足を運んで欲しい。

⑨観音寺市斎場“燧望苑”庭園(香川県観音寺市)

――世界的彫刻家イサム・ノグチの共同制作者・和泉正敏が作庭を手掛けた現代的な石庭・彫刻庭園。(見学は要問合せ)

この後紹介する次点9箇所にも素晴らしい所があるのだけど、2021年の序盤に見て、「こういう庭園のことを話したいな、伝えたいな」と思うのが“燧望苑”。作庭家/造園家の庭園ではないけれど、伝えたいカッコいい庭園!

■次点:

➉江之浦測候所(神奈川県小田原市)

――現代芸術家・杉本博司の集大成は“庭園”。古寺や大名ゆかりの歴史的石造物や建築が点在し、現在も作庭が続く庭園。

「うわあ、すごい!」という感動では次点どころではないのだけど、多分多くの人が気付いている場所なので…。残念ながら写真の通り大雨だったのでまた行かねば。

⑪今治国際ホテル庭園“瀑松庭”(愛媛県今治市)

――愛媛県で一番の高層建築に現代の作庭家・枡野俊明と佐野藤右衛門(植藤)が作庭したホテル庭園の傑作“瀑松庭”。

近年は「庭園」に重き・価値を置くホテルが京都を中心に新築される流れにあると思うのだけど、今治国際ホテルの庭園がすごいのは「地下への庭園の大滝」が建築にとっても重要なテーマだったんじゃないかという点。「後から庭」ではない。
…それでも「今治の大型ホテル」も置かれた立場はなかなか苦しいと思うので宿泊者・利用者が増えることを願いつつ。

⑫加賀屋新田会所庭園(大阪市住之江区)

――ここは磨けばめちゃくちゃ良いはず…池泉に迫り出した懸造の数寄屋建築と庭園。大阪市指定文化財・史跡。

大都市・大阪にありながら、自分が訪れた日は入場者を示す「正」の記入は日曜のお昼過ぎで2人目…でもここは磨けばめちゃくちゃ良いはず…。まずは利用者が増えることを期待して。

⑬遠山記念館(旧遠山邸庭園)(埼玉県川島町・国指定重要文化財)

――日興證券創業者・遠山元一の旧邸。国重要文化財の近代和風建築と、近代の東京を代表する造園家・龍居松之助(龍居庭園研究所)作庭の庭園。

ここも先に書いたような「建築は国指定重要文化財だけど庭園は非文化財」な場所。埼玉にもこんなお屋敷・庭園があったのか!な場所。

⑭掬翠園(栃木県鹿沼市)

――近代日本庭園が好きな方に見て欲しい。ユネスコ無形文化遺産“鹿沼今宮神社祭の屋台行事”の観光拠点で見られる“鹿沼三名園”の庭園。

2021年秋に訪れた栃木近辺の庭園。『古峯神社 古峯園』『廣澤美術館』は有名な作庭家・建築家が手掛けられている通り素晴らしいし、『岡部記念館』も建築と庭園の組み合わせが素晴らしかったけれど、なんか好みで言うとこの掬翠園がすごく好き。
なんだろ、「すごく良いけど広く開かれ過ぎてて“公園”としての認識が強い」…②の『聚遠亭』と同じ感じ。

⑮旧湯川家屋敷(山口県萩市)

――この町で育った山縣有朋“無鄰菴”に影響を与えたのでは?と感じる流水式池泉庭園と武家屋敷。萩市指定史跡。

「菊屋家住宅」の中でも書いたけど、萩の庭園の層の厚さ。すごく良い庭がたくさんあるけど、その中でピックアップしたいのが旧湯川家。
「水をシェアする庭園」「歪曲した流れ」…きっと山縣有朋の頭にはこの庭園があったんじゃないかと思うんだよなあ〜。

京都の庭園はすごいのだけど、「京都の庭園すごい」で終わらずに、そのルーツを結びつけて、より多くの庭園に出会ってもらえたらいいなって思うのです。

⑯西方寺庭園(鳥取県若桜町・鳥取県指定名勝)(*要事前連絡)

――重要伝統的建造物群保存地区・若桜の町並みの水路と繋がる美しい水面の庭園。羽柴秀吉の部下・木下重堅の五輪塔も。鳥取県指定名勝。

ときどき庭園紹介の中に書くけど、《新旧タイプ問わず色々な庭園を紹介するけれど、国ではなく“都道府県”“市町村”の名勝で、新しくないから話題になりづらい、歴史に埋もれてしまいそうな庭園こそ個人的には推したい庭園》。

観光マップには載らないこの庭園もそんな存在。苔も借景も美しい、そして街を流れる清流による池泉も!

⑰上野家庭園(福岡県久留米市・久留米市指定名勝)(*要事前予約)

――久留米藩主・有馬家のお殿様が眺める為に作庭された耳納連山の借景が美しい庭園。久留米市指定名勝、御成間も福岡県指定文化財。

ここも↑と同じで。あくまで観光地ではないけれど、この様な文化財の庭園が個人の生活の営みの中で残されているのは素晴らしい。

⑱岡御殿(高知県田野町・高知県指定文化財)

――土佐藩主・山内家が参勤交代の際に本陣とした豪商の邸宅。江戸時代末期の書院造り建築は高知県指定文化財。

最後に挙げるこちらは庭園として特記事項はないのだけれど、こけら葺きのすごく良い御殿建築で…。
2021年前半にインスタでこのお屋敷を紹介した時には、その時点での『おにわさん』の過去最高の“いいね”数を記録した。

でもやっぱ高知市内からも遠い不利な立地があり年間での入場者数はめちゃくちゃ少ない(数百人)。冒頭の方で書いたような「1日数人も来ない」文化施設だと思う。

それでも素晴らしいものは素晴らしい。ここも知って欲しいし、きっと日本中にそのような施設があるので、そうしたものに注目が集まり、価値を感じられるようになって欲しい…!

■最後に:まとめと想い

18箇所(実際はもう少し多く名前を挙げているけど)に絞ってみたものの、自分の投稿をさかのぼると「ああ、これも良かったなあ、あれも良かったなあ」という庭園がたくさん…。

一方で、この2022年も歴史的かつポテンシャルを秘めた庭園や文化財は解体へと向かったりしている。

庭園・施設によってそれぞれ事情があるので個別の事案にとやかく言うことは自分はしないけれど(新しくなった方が良い事もある)、
少しでも『地元だけど知らなかった』を減らしたい。

そのためには「情報を伝える/シェアする人」「伝える場」を増やしていかなければいけないし、『おにわさん』のWEBやSNSが「その場の一つ」になっていきたい/なって欲しい。(今は自分個人が発信するだけのメディアだけど…)

SNSフォロワー数を増やしたいのは何も「目立ちたい」とか「何者かになりたい」わけじゃなく、『いっぺんに多くの人に庭園を伝えられるから』でしかない。
そしてその塊が、現在・そして将来日本庭園を伝え残す人たちにとって有益であることを願って。↓の件もぜひ宜しくお願いします。

[おにわさんーお庭をゆるく愛でる庭園情報メディア]( https://oniwa.garden/ )の中の人が、庭園について思うことなどを綴ります。 サイトでは日本全国約1400の庭園と2万枚以上の庭園写真を掲載!