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国指定名勝や京都の庭園も。2021年に閉園・閉業・消滅した文化財級の日本庭園

2022年最初の投稿。恒例の「庭園のいいね数ランキング」を紹介する前に表題の件について書きたいと思いました。

年々消滅している古庭園と東湖園の話

自分が庭園に興味を持ち始めた頃、岡山の『東湖園』という庭園が解体されマンションになった。

『日本庭園』は高尚なものとして語られがちだし、自分も“総合芸術だ”という声には同意するんだけれど、そう持て囃される?裏でひっそり、歴史があり価値がありそうな庭園は年々消滅している。

そしてその事は、ほとんど話題にならない。
地元メディア(新聞)に取り上げられることはあっても、そもそも京都の庭園以外の地元の庭園って知名度が低いことが多いし、この「話題にならないこと」はとてもネガティブな状況だと思っている。

けど、あまりネガティブな物言いで庭園のことを伝えたくないので、毎年『いいね数ランキング』とかを紹介するんだけど。毎回書いているけど、それは『一部の有名庭園しか話題にならない現状への楔』という意識がある。

表面だけでなく、その背景も伝えられたらな…ということで、今年はランキングの紹介前に2021年に閉園・閉業・消滅した歴史的日本庭園を紹介します。ちゃんと大手メディアで話題になった所もあれば「どこ?」と思われるであろう場所も。

① 太閤園(大阪市)

これは大いに話題になりました。昭和の京都の名庭師・小島佐一も携わった、“藤田財閥”創始者・藤田傳三郎の邸宅“綱島御殿”をルーツとする料亭/レストラン/結婚式場の庭園。惜しまれながら2021年6月に閉業となりました。

②清藤氏庭園(青森県指定名勝)

自治体が「後世に残す・保護するために文化財“指定”した」はずの庭園。それを『解体する為に文化財指定を解除する』ことに至ったニュースは、けっこう衝撃的だった。

…しかし如何せん、知名度が無い庭園だった。昭和~平成年代に出た庭園の本とか一度でも載ったことがあったのだろうか。

“県指定名勝”=県の重要文化財クラスと決して歴史的価値は低くないはずなのだけど、県も市も「税金で保護できない」と判断された。そして、庭園・造園のプロでもここを知っている人はあまり居ないでしょうし。「文化財指定」も万能ではない、今後もこういう事例は増えるんだろう。

③岡崎つる家(京都市左京区)

エリザベス女王チャールズ皇太子とダイアナ妃ブッシュ大統領ゴルバチョフ…そうそうたる国賓が訪れた老舗料亭も2021年春で休業、建物を解体してホテルになると発表されました。

庭園は京都の茶庭の名庭師、“植熊”加藤熊吉
プレスリリースの写真で庭園をフィーチャーしている所からすると庭園は残されるのかもしれないけど、近代数寄屋建築の名士・吉田五十八の建築が取り壊しになるのは悲しすぎる…。

ちなみに同じく吉田五十八が手がけた東銀座の『東京 吉兆』も解体されてて衝撃…。丹下健三、前川國男、安藤忠雄ならば話題になるけれど、吉田五十八では話題にならないのか…?
正直手が届くような場所ではなかったけれど、料亭には逆風の時代。そもそも行くきっかけがないもんなー。(自分は和のものが好きだから興味を持ったけど)

④粟田山荘(京都市東山区)

同じく京都の東山の麓、近代に西陣の織元の別荘として造営され、小川治兵衛作庭?の庭園を持つ粟田山荘も6月をもって閉業。閉業までに行きたい…と思って行けずじまいでした。

⑤西村家庭園(京都市北区)

世界遺産『上賀茂神社』の門前、国の重要伝統的建造物群保存地区の公開施設「西村家庭園」がコロナ禍で閉園していた…。京都市の文化財の穴場庭園。
所有者が変わって、整備の看板が出ていたので庭園は残しながら別の業態に変わるかもしれないけれど、また見られる機会があればいいなぁ。

⑥攬勝亭庭園(福島県会津若松市)

国指定名勝の『御薬園』などと並んで“会津三名園”と呼ばれた江戸時代の庭園。「取り壊して宅地化する」という計画に対し、2020年から署名活動・保存活動が行われてきたものの保存はかなわずに2021年取り壊されました。
この庭園については後半にも少しだけふれます。

⑦藤江氏魚楽園(国指定名勝・福岡市川崎町)

これはちょっと毛色が異なるけれど…かの水墨画家・雪舟が作庭したと伝わる国指定名勝庭園『藤江氏魚楽園』が、(所有者ではなく)町による補助金不正受給に使われ閉園。所有者も個人から日田市の会社に移ったようです。

「雪舟」の「国指定名勝」でもこんなことが起こるのか--といったこれもなかなか衝撃的なニュースだったのだけど、いかんせんこれも全く話題になりませんでした。Twitterでは2リツイート。新しい所有者は問題が落ち着けば「公開」する意思はあるのだろうか…?今後の動向にも注目。

ジャパンガーデンツーリズムの「雪舟回廊」が、九州の「雪舟作庭と伝わる国指定名勝」をガン無視してて「なんで???それじゃ意味なくない???」と思っていたのだけれど、こういうゴタゴタも多少なりとも背景にはあったのかなあー…。

⑧時国氏庭園(国指定名勝・石川県輪島市)*追記

【お知らせ】
【令和2年12月5日】  
令和2年11月29日をもちまして公開を休止いたしました。
60年の長きに渡り多くの方々のご来館又当家にご支援、
ご尽力を頂きました方々に心より感謝致しております。
誠に有難うございました。

重要文化財 時國家  時國 信弘

2021年じゃなく2020年に閉園した国指定名勝の庭園をひとつ思い出したので追記。

平家の末裔の邸宅の国指定名勝庭園も、残念ながら2020年の公開をもって公開を終了。
ご当主の名前が出ているということは、公開し続ける労力が厳しくなった…というのが大きいのだろうし、お屋敷が国指定重要文化財なので消滅…というのは無いとは思うのですが、かと言って輪島市のような田舎の自治体が支え続けるのも大変だろうし今後の展開を注視したい所…。

きっと他にもあると思うけど、ひとまずは以上で。

閉業や解体が話題になるのは一握り。庭園は圧倒的に知名度が足りていない

太閤園や、昨年閉館した東京の『原美術館』ほど話題になる庭園は一握り。そもそも、有名じゃないと話題にはなりづらい。

たとえば先述の会津の庭園を例に挙げると…同じく“会津三名園”の一つで国登録有形文化財の『可月亭庭園美術館』が2017年に開館して4年以上が経ちますが、現在のFacebookのフォロワー数は200。

個の庭園の保存活動も大事なのですが(それ自体を否定するものでは一切ありません)、点ではなく面で…『地域の庭園文化の盛り上がり』を作っていかないことには、維持費用がそれなりに掛かる「庭園」を、少子・過疎化が進み文化より福祉の比重が高まる地方で維持するのは困難だというのが現実だと思う。

それでも残すためには。「やはり庭園という存在が圧倒的に地味過ぎる。」というのを庭園シーン(なにそれ)としては解決していかなければいけないと感じているし、もっともっと20-30代の若いファンがコア層に加わってくるようなシーン作りが必要。やっぱお城(鶴ヶ城)と比べると、『江戸時代の庭園』というだけで話題になるのは難しい。

下世話に見える「いいね数ランキング」でも知ってもらうきっかけになれば

冒頭でも書いたけれど、当サイト恒例の「インスタのいいね数ランキング」。見る人によっては「下世話だ」なんて思われそうな企画なのですが、大前提として《一部の有名庭園を除いて、殆どの庭園は知られていないし、消失する庭園は年々増える》と思っている。

そんな、消滅する運命にある庭園も兎にも角にもまず“知ってもらう”ことがスタートだと思う。

まあ個人的には庭園を残したいと言うより、『おそらく、全ての庭園は消えゆく運命だから、今のうちに素晴らしい空間を記録して、目に焼き付けておこうよ』というそれぐらいの気持ち。

台風の被害で見れなくなってしまう庭園もある。来年あるとは限らない。芸術作品としても自然に晒されてるゆえ脆い存在。だから「あるうちに見たいな」と思うし、“良い状態のうちに一人でも多くの人に見てもらえるといいな”という。

そんな中で、いいね数ランキングは《有名だから上位とは限らない。有名じゃなくても「良い」と思われた庭園に、足を運ぶ動機の提案》という試みとして紹介しているもの。

今回紹介した「閉業・消滅した庭園」を見て、もし少しでも《文化財級庭園が価値だと感じてもらえていない、消滅へ向かっている》ことを《マズい》と感じる方が居るならば、庭園シーンを盛り上げるための発信をお互い出来たら、と思います。

てなわけで、次の更新はランキングの紹介!





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