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12月11日 国際山岳デー 【SS】協調・食料倉庫

暖かい日が続きますね。今回も二話連続のお話です。
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 国際山岳デー

2003年(平成15年)の国連総会で制定。国際デーの一つ。「国際山の日」ともされる。英語表記は「International Mountain Day」。

この国際デーは、2002年(平成14年)の「国際山岳年」(International Year of Mountains)の取り組みを踏まえ定められた。国際社会が山岳地域の環境保全と持続可能な開発について考えることが目的。また、総会の決議では、「持続可能な山岳地域の発展の重要性」への関心を喚起するために様々なレベルで行事を行うことが提唱されている。


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【SS】協調・食料倉庫

 気温が一年を通して摂氏十度を超えることのない山岳地帯が国土の大部分を占めている海のない国があった。平地が極端に少なく、街は山岳地帯の麓に、山々と並行になるような形で発展していた。連なる山々を越えた先は、別の国である。狭い領土のため経済的にはそんなに裕福ではない国ではあったが、日々の国民の生活を担保するくらいの食料や衣類の確保は困ってはいない。だが、そんな国の政府はとある問題を抱えて何とか打開策を探っていた。

「我が国のエネルギー資源は非常に乏しい。海外から石油を輸入するためには外貨の準備が必要となる。幸い暑い夏という季節が我が国にはないので、エアコンの需要はそれほど必要ではない。また、極寒の冬もないので、衣服の調整で年中すごすことができる。そのため、この国の電力は太陽と風に頼っているのが実情だ。現在はエネルギー交換比率がそれほど高くないので電気不足に度々陥っている。この問題には早急に対応しないと、国民の今後の生活に影響を与えることになることは必至だ。誰かこの課題をブレークスルーする斬新なアイデアはないか」

 問いかけられ、その場にいた政府関係者は頭を抱えてしまった。エネルギーの輸入は極力避けたい。そのためには、国内でエネルギーを調達するか、エネルギーの使用量を大幅削減するアイデアを捻り出す必要があった。そんな時、なんと学生からの提案が政府に届いた。

「我が国には、年間通して安定した気温を保持できる豊かな山脈があります。国の食料貯蔵庫としてこれらの山に巨大な保管庫を作ることを提案します。少なくとも、電気を利用する低温物流倉庫は不要になると考えられます。また、山で取れた山菜や猟で得た獲物の保管場所としても最適となり、高い位置に解体工場をつくり斜面を利用した輸送路を作ってしまうことで、トラックでの輸送も削減でき、無駄な物流コストも節約できるでしょう」

 このアイデアを受けた政府は、早速山肌に巨大なトンネルを掘り、食料貯蔵庫を作った。基本は巨大なトンネルなので、見た目にはさほど違いはない。出入り口が百メートル間隔で作られているのが、倉庫となるトンネルがあるということを示している。さながら天然の冷蔵庫である。倉庫の奥の方には、氷の貯蔵庫も作られている。天然の洞窟などでよく見かける光景と同じである。さらに、山の幸を継続的に利用させてもらうため、山の管理そのものも徹底された。植林も進み、猟による鳥獣の乱獲も制限され、山としての価値が保全されるようになっていった。食料が山に集まるようになり、麓の街はさらに発展するきっかけとなり、小さい国ではあるが効率の良い街が出来上がったのだ。山肌に作られたトンネルの巨大倉庫は、災害時のシェルターとしての役割も担えるため、人々は倉庫の近くに家を建て集まるようになったのである。

 当初は国の領土の大半が、山であるということで国の発展を妨げていると考えていた政府だったが、その山々の有効活用の道を見出すことができ、山に対する見方が大きく変わった。山々は、住宅地としてあまりにも適さないため、放置されていたのが実態だった。それどころか、山があるから国が発展しないとまで言われていた。それがたった一人の学生のアイデアによって、大きく変貌を遂げることになったのだ。このアイデアを提案した学生は卒業を待たずして、環境大臣に任命され、学生の人生も大きく変わってしまった。学生は自らの将来に対し、国内テレビとネットを通して声明を発信した。

「山の国に住む全ての皆さん、この度学生でありながら環境大臣に任命されたグリーンでございます。私たちの国土の大半を占める山脈の恩恵を最大限に活用するため、山との共存を目指した国づくりが開始されました。そのきっかけを作ることができて大変光栄に思っています。海のない私たちの国において、山は私たちの生活を維持するための資源を提供してくれています。その山を大切に育て、その麓で私たち国民も安心して生活できる場所を維持していきたいと考えています。私たちの国は、決して貧しくはありません。山の恵みを最大限に生かせるような国づくりを目指していきましょう。国民の皆さんの一人一人の協力があれば、もっともっと豊かな国として成長していけることでしょう。人としての優しさを忘れない国民性をこれからも大切にしていける環境を維持していくことに力を尽くします」

 学生にして環境大臣に就任したグリーンの最初の言葉は堂々としており、国民にも受け入れられ、将来の大統領候補の誕生だとまで噂されるようになった。グリーンの大臣就任後は選挙への国民の投票率は九十パーセント以上を記録するようになり、政府の施策への高い関心の現れとなった。国民は口々にグリーンの話をするようになっていた。

「いやー、すごい政策だったなぁ。山菜取りとシカ狩りのためにしか入らない山がこんなに活躍するなんて思いもしなかったよ」

「本当だな。まだ作っている最中ではあるけど、巨大貯蔵庫から山の向こう側までトンネルを掘れば隣の国への輸出もスムーズになるんじゃないかな」

「そんなことは、グリーンさんのホームページにもとっくに書いてあったよ」

「あー、やっぱり。俺が思いつくことくらいは先に思いついてるよな。やっぱり凡人じゃないってことか、グリーンさんは」

「あっはっは、そりゃそうだ、お前とは出来が違いすぎるんだよ。このままだと最年少大統領が誕生する日も近いかもしれないな」

「そうだな。ん、ちょっと待てよ。その前に夫人となる女性を見つけるのが先じゃないのか。まだ独身だったよな、グリーンさんは」

 四方を他の国に囲まれた山国は、どこの国とも敵対せずに平和な国づくりのために、他国依存を極力少なくする政策を中心に発展してきている。しかし、隣国では、宗教の違いによる争いが勃発し始めており、少なからず平和な山の国も影響を受けそうな情勢になってきていた。


明日に続く


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