12月10日 世界人権デー 【SS】平等なのかな
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 世界人権デー
1950年(昭和25年)の第5回国連総会で制定。国際デーの一つ。英語表記は「Human Rights Day」。
1948年(昭和23年)のこの日、フランス・パリで行われた第3回国連総会で「世界人権宣言」(Universal Declaration of Human Rights:UDHR)が採択された。
世界人権宣言は、すべての人民とすべての国が達成すべき基本的人権についての宣言である。また、後に国連で結ばれた「人権条約」の基礎となっており、世界の人権に関する規律の中でもっとも基本的な意義を有する。この宣言は、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」で始まる全30条と前文からなる。
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【SS】平等なのかな
「何人も法の下において平等である。いかなる差別に対しても保護を受ける権利を有する」
これは、世界人権宣言の一部で定義されている内容である。肌の色や出身の違いなどでの差別を無くし、奴隷などの苦役を排除し、人が人として平等に生きていく権利を保護するための宣言である。過去、強国が植民地などを増やし、奴隷に対して苦役を課していたことを改め、地球上の人類は全てが平等として考えるべきであるという素晴らしい考えだ。だが、みんな思っているのではないだろうか。マクロ的に見れば、確かにその通りで、反対はしないのだが、一つの会社とか、その中の組織とか、小さな集団になるに従って、平等を感じないことが多いと。理不尽なことが多いと。
数ある会社の中においては、セクハラやパワハラが横行している会社もあるのだろう。同じ様な内容でも勤務する人によって捉え方は違うのかもしれない。古い小さな建設会社でのやりとりを見てみよう。ほんの数十年前までは、当たり前の光景だったのが、最近では厳しく問いただされるようになり、古株の社員は困惑しているようだ。
「お、ヒロちゃん、相変わらず良いおしりしてるねぇ」
「もう、田尻さんったら。そんな発言は今ではセクハラっていうんですよ。新人の女の子に言うと訴えられちゃいますよ〜」
「なんだ、そうなのか〜。この位はコミュニケーションの範疇じゃないのかい」
「だめです」
「あ、ヒロちゃん、申し訳ないけど、コーヒー入れてくれないかな。ヒロちゃんが入れてくれるコーヒーはうまいんだよなぁ」
「もう、課長は口がお上手ですね。いつも入れてるのはインスタントコーヒーですよ。すぐお持ちしますね」
「あれ、課長、今のは何とかハラスメントには、ならないんですか」
「ああ、田尻さん。まぁ、本人がそう感じなければね。今は男女平等で基本的人権の保護だったりと、色々と気を遣う時代になりましたけど、要は当人がどう感じるかと言うことに尽きるみたいですよ」
「いやー、それじゃあ、わしらみたいな年寄りには対応できないなぁ」
「私たちの会社には、いろんな国籍の人がいるでしょう。日本語がたどたどしい社員もいますけど、そんなことで差別をしてはいけないんですよ。ただ、どうしても仕事のパフォーマンスでは差がついてしまうので、給与は差がついてしまいますけどね。それに、会社なので上司と部下という関係になりますから、どうしても、一方が強くて一方が弱い立場と見られてしまいますよね」
「はぁ、なるほどねぇ。これまで管理職とかいう地位になったことがないから分かりませんが、課長は何かと気苦労が多いということですかね。ご苦労様です」
「ははは、ありがとう。田尻さんに慰められるとは思いませんでしたよ」
こんな会話ができる会社は人間関係がうまくいっている方である。同じ会社の中でも、頻繁に人が入れ替わる部門もあった。道路工事を請け負っている部門だ。この部門では、正規の社員が少なく、日雇いの要員だったり海外からの研修要員が多かった。現場での仕事が大半のこの部門は、日々怒号が飛び交う部門でもあった。
「おい、モタモタすんじゃねえぞ。チンタラやってたら日が暮れちまうじゃないか。さっさと動け。このノロマども」
「監督。お言葉ですが、夜間工事なのでとっくに日は暮れてますけど」
「ウルセェ。いちいち口答えすんな。物の例えなんだよ。ばかやろー。そこっ、クスクス笑ってんじゃねぇ。さっさと動けー。予定通りに進まなかったら、休憩もなし、朝飯もなしだからな。分かってるだろうな」
「監督、そんな無茶苦茶な。労働基準法違反になりますよ」
「うるせえ。予定通りに進まなきゃ、俺を含めてみんなクビなんだよ。そんな時に労働基準法なんて関係ねぇ。働け働け〜」
現場での労働は、劣悪な環境下での強制労働にも似た作業だった。道路を掘り返し新しいアスファルトを流し込んで平らにする。時間との戦いだ。真冬の夜は寒さで凍えそうだが、手を止めるわけにはいかない。外国人労働者も、急遽応募して作業に来た日雇い労働者も、指示されるがままに体を動かし、黙々と働いている。誰も抗議するわけでもなく大人しく指示に従っている。その光景はまるで刑務所の受刑者のようにも見えてしまう。なぜ、こんな劣悪な環境での労働からみんな逃げ出さないのだろうか?
次第に東の空が明るくなってきた。うっすらと朝靄がかかり気温の低さを目でも感じられるような光景だ。目の前の道路が半分だけ綺麗に舗装が完了している。片方ずつ実施するのは交通を遮断しないためだ。夜通し信号が動いて一車線の片側規制を制御していた。それほど車が多いわけではないので渋滞にはならなかった。作業を終えて人々は満面の笑みで朝日を浴びている。工事現場の後片付けをして全員で朝食のために引き上げにかかっていた。
全員事故もなく無事に舗装作業が完了した。残りの半分は二週間後違うチームが実施予定だ。最も監督だけは交代せずに担当するようである。無事に作業を終えた作業員たちは大きな道沿いのドライブインに集まっていた。どうやら全員で朝食を摂るようだ。監督はみんなに感謝の言葉をかけた。
「みんな、昨晩はご苦労様。おかげで何とか朝までに作業を全て予定通りに終わらせることができた。みんなが頑張ってくれたからだ。お礼にはならんが朝飯は俺が奢るから何でも注文してくれ」
「おお、ありがとうございます、監督」
仕事の最中は人を人とも思わない罵声で鼓舞しながら作業を進める監督だったが、実は根は優しい人間だった。そのことを作業員全員が分かっていたのだ。だから、きつい作業でも監督の指示通りに動いてくれたようだった。最も、時給も昼間の作業の二倍もらえることも関係していたのかもしれない。側から見れば苦役のような作業でも、本人たちがそう思わなければ差別でも何でもないのかもしれない。人は感情と勘定を天秤にかけて、自らの行動を制御しているのだろうか。
了
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