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12月9日 マウスの誕生日 【SS】革命は手元から

2022年12月10日から、毎日の記念日でショートショートを綴り始めました。今日は、事実上の365話めです。とはいえ、キリの良い年末まで何とか綴り続けていきます。

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- マウスの誕生日

「IT25・50」シンポジウム実行委員会が制定。

「IT25・50」とは、「インターネット商用化25周年」&「ダグラス・エンゲルバートThe Demo 50周年」の意味である。

1968年(昭和43年)12月9日、アメリカの発明家で「ITの父」ダグラス・エンゲルバート(Douglas Engelbart、1925~2013年)によりマウスやウインドウ、ハイパーテキストなど、パーソナルコンピュータ、インターネットの歴史の出発点ともなるデモンストレーション「The Demo」が行われた。

中でもマウスは、それまで専門家しか操作できなかったコンピュータを誰もが操作できるようになる画期的なもので、その後のIT文化の基盤ともなっている。記念日はそのマウスの誕生日として「The Demo 50周年」を祝い、「ITの過去・現在・未来」について考える日とすることが目的。


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【SS】革命は手元から

 コンピューターが戦争や宇宙開発の計算道具として登場し、その後ビジネス界に進出していった時は、人々の生活とは程遠い存在だった。それが、パーソナルコンピューター、いわゆるPCの時代が幕開けした途端、急速に我々の生活の中に入り込むこととなった。当時からほぼ変わらない入力装置はキーボードである。このキーボード配列が苦手でパソコンを遠ざけていた人もいた。しかし、以前としてキーボードは健在である。一時期、日本語入力を容易にするために五十音の並びにキーが配列されたものも登場したが、最近では見ることもなくなった。

 そしてパソコンのユーザーを劇的に増やしたのは、操作しやすいソフトの登場とマウスの登場だった。マウスもその名が示す通り、パソコンに接続するコードが尻尾のようでマウスという名称が付けられたのだが、時が経つにつれコードはなくなってしまった。それでも名称はマウスのままだ。やはり最初に付けられた名前というのはそれなりに尊重されるのである。

 マウスはパソコンの隣に当たり前のように鎮座する時代になった。次第にパソコンは持ち運びが便利なノートPCへと移行していったが、使い慣れたマウスは以前として人気が高く、オフィスの中では、ノートPCに付いているトラックポイントやトラックパッドをそのまま使うユーザーよりマウスを使うユーザーの方が多いのではないだろうか。

 マウス文化を覆すかのように登場したトラックパッドではあるが、人によって評価も変わるようだ。ちなみに私はトラックパッド派である。マウスは動かさなければならないが、トラックパッドは指を動かすだけで事足りる。実に楽である。そんなことを考えると革命は手元から起きているのかもしれないと考えてしまう。タッチパネルが当たり前になったスマホなども手元の改革である。そして今、指同士をタップするだけで操作できるスマートウォッチまで登場している。際限のない創意工夫に頭が下がる思いだ。こうしている間も、開発者たちは新しいアイデアを出し合っている。

「なぁ、ジョーイ。僕は冬になると手先が荒れるんだよな。だからハンドクリームをいつも使ってる。その手でキーボードとかトラックパッドを触るとベタベタになっちゃうんだよね」

「ん、なるほど。そんなこと考えたこともなかったな。ケンは大変なんだな」

「そうなんだよ。だからさ、キーボードやトラックパッドに触らなくても感知してくれる機能がついているといいなと思うんだ。センサーの工夫次第で実現できるんじゃないかと思うんだけど、どう思う」

「あー、それ映画で時々出てくるやつだよね。空中にキーボードが現れてスマートに操作するやつ。多分、部屋の中ならテクノロジー的には問題なく実現できると思うんだけど、多分使いにくいと思うよ。慣れるまでにそれなりの時間がかかってしまうと思うんだ」

「やっぱりそうかなぁ。確かにトラックパッドだけなら何とかなりそうな気はするけど、キーボードは感触がなくなると打っている感じがしないもんな」

「ケン。でも発想を変えれば解決できるかもしれないよ」

「えっ、どういうこと?」

「要するにキーボードを保護してしまうことができれば良いわけだろう。キーボードカバーはよく市販されてはいるけれどそうじゃなくてさ。使い捨て保護シートみたいなものさ」

「あー、なるほど。ラップみたいなものだね。それは良いかも。ただ、ロールしておく必要があるからキーボードやトラックパッドの厚みと同じくらいにしないと使いにくくなるね」

「いや、そうじゃなくて。ハンドクリームを手につける前にサッと被せるんだよ」

「なるほど、テープのりみたいな感じだな。良いんじゃない。さすが、ジョーイ。でも、我々の会社でその企画が通るかな? 超アナログ商品になるよね」

「確かにそうだな。デジタルを売りにしている我が社からは難しいかもしれないから、ラップを作っている会社に持ちかけてみるか」

 こうして、アイデアを持ってラップ会社に売り込んだものの、残念ながら採用には至らなかったようだ。ラップの開発担当者からはまともな回答を得られた。

「利用シーンを考えると一定の需要はあるかも知れませんが、利益を出せるほどの需要があるとは思えません。それに、思わずハンドクリームを塗ってしまった後にラップをかけてないことに気づいた時の対応が考えられていません。そして、最大のリスクはラップを被せっぱなしで放置される可能性があることです。キーボードとラップの間の空気が熱によって水滴に変わる懸念もありそうですよね。だから、商品化には向いてないと思います」

 ジョーイとケンは、最もな考え方だと思いスゴスゴと引き下がった。自分たちの会社に戻ってみると何やら開発室が騒がしい。

「みんな、何を騒いでるんだい」

「パイナップル社が画期的なキーボードとトラックパッドを発表したみたいなんだよ。なんでも、触れずに操作できる入力デバイスという触れ込みでさ。乾燥の季節にハンドクリームを塗った手でも安心して操作ができるんだって」

「えっ、どういうこと」

「非接触センサーの技術を使ったらしいよ。キーボードの指紋センサーの隣に非接触センサーのスイッチがあって、そこに指をかざすとキーボードとトラックパッドが非接触デバイスになるんだって。キーから大体五ミリ程度の間隔のところで感知するから、直接指が触れなくても良いらしい。すごいと思わないか。やられちゃったよなぁ」

 ジョーイとケンは、顔を見合わせて「やられたな。その手があったか」という表情をした。新製品はアイデア次第である。今日もどこかで手元の革命のためのアイデアが湧き出ているのかも知れない。


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