11月21日 かきフライの日 【SS】好き嫌い
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- かきフライの日
香川県三豊市に本社を置き、各種の冷凍食品の製造・販売を手がけ、全国の量販店、コンビニ、外食産業などに流通させている株式会社「味のちぬや」が2011年(平成23年)に制定。
日付は11月はかきが美味しくなる時期で、21日は「フ(2)ライ(1)」と読む語呂合わせから。
「海のミルク」と呼ばれ、栄養価の高いかきを多くの人に食べてもらうことが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】好き嫌い
「いよいよ、カキのシーズン到来だなぁ。今は一年中カキを楽しめるようになったけれど、やっぱり寒い時の方が美味しく感じるんだよな」
「ああ、そうだね。よく英語の月でRが付く月が食べ頃だって言われてるよね。つまり、九月から四月の間ってことかな。ただ、実際には十二月から二月が一番美味しいんだって。でもね、岩ガキは真逆で夏が美味しいみたいだよ」
「へー、流石よく知ってるね〜。海育ちの晴夫はすごいよ」
「いやいや、たまたまだよ。生まれが広島だから親父たちが良く食べてたしね。それよりも、カキが全然食べられなかった幸雄の方が凄いじゃないか。今や、大好物だもんね」
幸雄と晴夫は広島の会社で知り合った男同士だ。幸雄は東京からの赴任。晴夫は広島で生まれ広島で育った生粋の広島人。もちろんカープファンだ。そんな二人が出会ったのは、共に同期入社だというきっかけもあったのだが、それよりも広島赴任時の幸雄の挨拶が大きかった。幸雄は東京での採用で五年ほどの東京勤務を経験して広島赴任となった。晴夫は現地採用でずっと広島支社勤務だった。幸雄は赴任の挨拶でカキの話をしたのだった。
「みなさん、初めまして。このたび東京から赴任してまいりました江戸川幸雄と申します。実は、広島の名物でもあるカキが苦手です。東京にいる時に一度食べたのですが、どうしても好きになれませんでした。でも、穴子は大好きです。広島には美味しい穴子のお店があると聞いていますので、どなたか連れて行ってくれると嬉しいです」
この挨拶を聞いた晴夫は、嫌がらせの意味も込めて幸雄にカキを食べさせてやろうと目論んだのだ。
『フン。東京から来た軟弱野郎か。どうせ巨人ファンなんだろうし、最初が肝心だな。同期のようだし、誘いやすいな。いっちょ、カキ小屋に連れて行ってみるか』
そんなことを晴夫は最初思っていたのだった。ところが、フランクな幸雄の性格は晴夫にも「付き合いやすい奴」という印象を植え付けていったのだった。最初に連れて行ったかき小屋へは、入社同期の他の二人を誘って四人で出かけた。晴夫とよく同期会をしている直美と一平だ。
「よし、今日は江戸川くんの同期としての歓迎会だ。お腹いっぱい食べてくれよ。カンパーイ」
「なぁ、晴夫。ここってカキ小屋じゃん。俺さ、カキだめなんだよ。挨拶でも言ったじゃん」
「ああ、知ってるよ。もちろん、カキ以外もメニューはあるけど。アレルギーじゃなければ騙されたと思って食ってみろよ。心配しないで、なぁ、直美も一平も何とか言ってやれよ」
「東京なんかでカキを食べてたからだめなのよ。ここで食べればきっと変わるわよ」
「そうそう、まずは焼きガキを食べてみればわかると思うよ」
「えー、本当に。なんか気が乗らないなぁ。焼きガキなんて食べたことはないし」
「じゃあ、最初は、カキ小町の焼きガキを食べようか。そのあとで、大丈夫だったらガンガン焼きを頼もうぜ」
「えっ、ガンガン焼き? 聞いたこともないなぁ。だんだん心配になってきたよ」
そこに、湯気がたちのぼる美味しそうな焼きガキを店員が持ってきた。磯の香りが立ち上り、レモンの爽やかな香りもしている。レモンをギュッと絞りカキに降り注いだ。一瞬、幸雄もうまそうと脳内で考えたようだ。ここまできたら、一口くらいはと思い、カキを殻ごと手に取り、つるんと口の中へ滑らせた。熱さのせいでハフハフしながら初めての焼きガキを幸雄は食べた。
「ウワッ。美味い、何これ。こんなの食べたことないよ〜」
「だろう。これが本物のカキさ。これできっと虜になるぜ、広島カキの虜に」
この後、ガンガン焼きが注文された。ガンガン焼きは四角いカンカンの中に殻付きのカキをそのまま入れて、直火で蒸す料理だ。結構ワイルドだが、コスパ最高の料理だ。カンカンの中で蒸すので、殻が熱で跳ねて飛ぶこともない。ただ、通常の焼きガキに比べると磯の香りが強くなる。それだけに酒には良く合うのだ。
これにも幸雄は舌鼓を打った。焼酎にも良く合う。幸雄は東京で食べたカキは何だったんだろうとまで思ってしまった。そして、そのダメおしは翌日に訪れた。
「幸雄。昨日はお疲れ様。焼きガキうまかっただろう」
「おっ、晴夫か。昨日はありがとう。いやぁ、広島のカキ、美味いわ。焼きガキ最高。好きになったよ」
「だろ、だから今日の昼はカキフライだ」
「えっ、カキフライは食べなくてもいいかなぁ。お好み焼きに行きたいと思っているんだけどなぁ」
「いや、ここまできたらまずカキを全部制覇だな。だから、お昼はカキフライ定食にいくぞ」
「はぁ」
半ば強引に連れられて、限られた時間の昼休みに、市内に出てランチを食べた。もちろん、直美と一平も一緒にいる。
「今日は、倉橋のカキだ。カキフライ美味いぞー。ソースでもタルタルでも」
店に入り、全員がカキフライ定食を注文。幸雄は、カキフライの噛んだ瞬間のドロっとした感触が嫌いだった。そのことを思い浮かべながら、広島でのカキフライを口に運んだ。サクッ、フワッという感触にまず驚いた。心配していた感触を感じることはなく、全てのカキフライを一番早く食べ尽くしてしまった。
「カキフライ、美味い。こんなに美味しかたっけ、カキフライって」
「ハハハ、よし、これで幸雄は我々の仲間だ。最初は嫌がらせのつもりだったけど、気に入った。これから仲良くしような」
「あ、あぁ、こちらこそよろしく。しかし、カキ美味いなぁ」
「だろ。じゃあ、明日は待望のお好み焼きで、カキ入りでも食べるか」
「いいねぇ、そうしよう」
大嫌いだったカキが大好きなものに変わってしまった瞬間だった。この後、幸雄は広島の生活をエンジョイしたそうだ。いつの間にか、カープも応援するようになっていたということを風の噂が伝えてくれた。
了
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