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12月18日 東京駅完成記念日 【SS】地下迷路

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 東京駅完成記念日

1914年(大正3年)のこの日、東京駅の完成式が行われた。この日は「東京駅の日」ともされる。
1889年(明治22年)に新橋駅と上野駅を高架鉄道で結び、その中央に中央停車場を建設する計画が決定されたが、資金不足や日露戦争などで中断されていた。1908年(明治41年)に工事が開始され、6年半の歳月と280万円の費用をかけて完成し、駅名は「東京駅」と名付けられた。



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【SS】地下迷路

 大都市の駅には必ずと言っていいほど地下街が形成されている。地下街と地上は至る所に設けられた出入り口で繋がっているのだが、初めて訪れる駅で地下に潜ってしまうと自分の現在位置を見失うことは誰しも経験していることだろう。ましてや、地下街と駐車場が繋がっている時などは、車を止めた位置を忘れてしまうと大変なことになってしまう。全ての出入り口には番号がつけられ表示されているが、結構忘れてしまうものである。まるで迷路のように感じる時もある。

 そんな駅地下の商店街では豪雨の際の雨水の流れ込みによる水害やガス爆発による被害などが時折、ニュース番組で取り上げられることもある。だが、闇バイトによる強盗事件が地下街で発生したというニュースはあまり聞くことがない。これは逃げ道の確保がこんなんだからなのだろうか。いや、それ以前に貴金属やブランドショップが地下商店街に少ないということなのかもしれない。本屋やアパレル関連、コスメ関連そしてコンビニや食事どころが多く、人も多いため強盗には向いていないと判断しているのかもしれない。もう一つは現金決済がだんだんと減少し、店に現金がほとんどないということも理由の一つかもしれない。そんなことを思っていると、そんな考えを裏切るかのようなニュースが流れてきた。

『各地の駅に直結している地下街で事件が発生しました。地下街に設置されている銀行のATMから現金が盗まれるという事件ですが、ATMには傷ひとつついていなかったそうです。朝一番で現金を下ろしにきた人から、現金を全く下せないという連絡を受けた銀行の職員が確認に出向き、紙幣が一枚も入っていないことに気づいたそうです。実に巧妙な犯行のようで、その手口はまだわかっていません。東京駅、新宿駅に接続している地下街で事件は発生し、犯人はまだ逮捕されていません。どちらも営業時間を過ぎた後での犯行であり、出入り口のシャッターが下りた後に、どうやって地下街に入り込んだのかもまだ解明されていません』

 その頃、月の裏側には数隻の宇宙船が隠れて停泊していた。船内のモニターには地球の世界地図が映し出され、ATMの所在地が映し出されている。日本地図に目を向けると、外部からの侵入を遮断できるようになっている地下街に特化して情報が表示されているようだ。東京駅と新宿は赤く表示されている。その横に広島と福岡が青く表示されている。宇宙人は、日本のATM窃盗のことを知っているようだ。船内で宇宙人同士が話し始めた。

「どうやら、闇バイトの方法をパクった今回の仕事は上手くいきそうだな」

「そうだな。先進装置を持っている我々からすれば、朝飯前の仕事だからな。それにしても闇バイトの募集に応募してくる人数が多いことには驚かされるよ」

「それだけ、荒んでいるんだろうな。最近の人間の若者たちは」

「何だか、人間のおじさんみたいな口調だな」

「ははは、じゃあ、次は意表を突いて広島というところの地下街のATMを狙わせるか」

「広島の地下街は駅とは直結してないけど、大丈夫かな。逃走ルートは」

「地下街を出たところには市電が走ってる大きな道路だから何とかなるだろう。バイトの募集を開始しよう」

『闇バイト募集 安全保証、高額報酬確約、拘束一時間のみ、希望者は免許証のコピー、携帯番号を送ってください。結果はショートメールでお知らせします』

 なんとバイトの応募者は百人を超えた。年齢で絞り込んでも十人ほど対象者がいる。宇宙人は免許証記載の地域の市役所のコンピューターに忍び込み、親族確認をした。そして、一人暮らしの二人を選択して集合場所と時間を連絡した。

 計画実行の日の午前四時。二人は広島の紙屋町シャレオという地下街のシャッターが下りている入り口に集合していた。そこに指示役とみられる男が現れて声をかけた。それぞれがコードネームで呼ばれる。

「レッド、グリーンに間違いないか。私は、指示役のシルバーだ。今日の手順を示す。レッドは南、グリーンは北のATMの担当だ。それぞれの場所に五台ずつATMがある。ATMの前で今から渡す指輪の宝石部分を一回タッチして、指輪をATMの方に向けるんだ。指輪の色がホワイトからブルーに変わったら、次のATMの前で同じ操作を繰り返す。ただそれだけだ。全てが終わったらまたこの場所に戻るだけだ」

「あのー、シャッターが閉まっていて中に入れませんが、どうするんですか」

「心配はいらない。指輪をつけてくれれば、私が二人を地下街の中に転送してやるよ」

「転送?」

「時間だ。手順は解ったな。ではこの指輪を右手の人差し指に付けてくれ」

 シルバーと名乗った男が手元に持っている機械のようなものを操作すると、二人のバイトは忽然と姿を消し、ATMの前に転送されていた。二人は少し戸惑いながらも、指示された通りの作業を実施した。何の実感もなかった。ただ、指輪の石がホワイトからブルーに変わるだけだった。犯罪を犯しているという実感もない。不思議な感覚だった。一通りの作業が終わると二人は元の位置に再転送され、シルバーの目の前に戻ってきた。時間にして十五分足らずだった。シルバーは指輪を回収するとバイト代について話をした。

「バイト代は、君たちの部屋に送ってあるから帰ったら確認してくれ。時給百万円支払うことになっているから受け取ってくれ。それでは私はこれで消えることにする。くれぐれもこの後ドジを踏まないように」

 シルバーは二人の目の前から忽然と姿を消した。二人は狐につままれた感じだった。そして話し合った。

「おい、今我々が経験したことは誰も信じてくれないだろうな。まさか、さっきの操作でATMから現金がなくなるはずも無いし、もしかして騙されていたのか」

「とりあえず報告をしよう」

 実は、彼らは全員一人暮らしの学生に扮した警官だった。闇バイトを摘発するために採用されやすい条件を探り当て、登録していたのだ。万が一に備えて住民登録も架空のものを作っていた。そこまでは良かった。だが、転送されたり指輪でATMをスキャンするだけとは思ってもいなかった。夜間の住居侵入罪には問えるかもしれないが、強盗の立証は困難である。監視カメラの故障としか見てはくれないだろう。二人とも、報告をした後、仕方なく一旦自分たちの部屋に戻った。するとそこには百万円が入った封筒が置かれていたのである。二人は、当然それを持って警察に出向いた。その札束に使われていたお札は東京駅で盗難にあったATMに入っていたお札だったのだ。二人ともその場で逮捕され、厳しく追求されることになった。

 その様子を月の裏の宇宙船ではモニター越しに見ていた。そして、日本の警察が潜入捜査しようとしていたことを知り、宇宙人は高らかに笑い飛ばしていた。そしてつぶやいた。

「そのうちに現金が貯まったら、日本で販売しているマンションとやらを購入して我々の拠点を日本国内に作るつもりだから、もっと驚くことになるだろうね。まぁ、我々の転送装置は今の地球では理解できないだろう。しかも、指輪に仕込んだのは紙だけを転送するテクノロジーなのだからな。頂いた紙幣はこの宇宙船の中に転送されて山のようになっているし、後もう少しで億ションとやらを購入できそうだな。ハッハッハッ、次は福岡あたりをターゲットにしようか」


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