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12月17日 減塩の日 【SS】高血圧

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 減塩の日

東京都文京区本郷に事務局を置き、高血圧並びにこれに関する諸分野の学術進歩向上と国民の健康増進を目指す特定非営利活動法人・日本高血圧学会が制定。

日付は世界高血圧連盟が制定した「世界高血圧デー」(World Hypertension Day)、日本高血圧学会が制定した「高血圧の日」の5月17日から、一年を通じて減塩を進めることを目指して毎月17日としたもの。高血圧の予防や治療において大切な減塩をより多くの人に実践してもらうことが目的。記念日は2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】高血圧

 塩分の取りすぎは体に良くない。高血圧を引き起こし動脈硬化や脳卒中につながると言われている。胃がんや心臓病の危険も高くなるようだ。日本における一日の摂取量目標は、男性7.5グラムで女性6.5グラムだが、実際には全体の平均摂取量で、およそ1.5倍の数値で推移しているようである。平均なので異常に高い値の人が含まれてはいるのだろうが、将来に不安を感じる数値であることは間違いない。最近の健康ブームで日常の食生活を気にかけるようになってはいるが、ある男にとってそれは一生を掛けるくらい重たくのし掛かる問題だった。

 塩賀好男えんがよしおという四十五歳一人暮らしの資産家の男がいた。体型は小太りでモテそうな体型や顔つきではない。ただ、お金には困っていないので、お金が目当てで近づいてくる女性は後を絶たなかった。好男はそんな言い寄ってくる女性には見向きもせず、毎日食事のために通っている小料理屋があった。

 その小料理屋の女将は未亡人であり子供はいない。夫が残した店を守って生活をしているという女性だった。酒捨飲真実しゅしゃいんまみという変わった名前だったが、お店では真実女将と呼ばれるだけだったので、苗字を気にするお客はいない。女将の亡くなった夫はアルコール中毒となり、肝臓を切除しなければならないほどの重症となり、肺炎を併発して病院で亡くなっていたのである。その時の保険金で小料理屋を開くことができていたので、女将は亡くなった夫に対しある程度は感謝している。

 好夫はこの女将の料理が大好きで、糖尿病を抱えた高血圧症でありながら、独り身で誰からも小言を言われないことをいいことに、毎日通っている。本人としても塩分取りすぎは体に良く無いとは思っていても、女将の笑顔と料理の前では忘れてしまう。すでに店に通い始めて二年が経過していた。年に一度の健康診断では、右肩上がりの血圧と血糖値が危険信号に変わっていた。好夫は悩んだ。

「自分の体のために、女将に会わないとか女将の作った料理を食べないという選択肢はない。でも、早死にするのも嫌ではあるな。一体どうしたらいいんだろう」

「もし、そこの男の方」

 好夫は女将の店からの帰り道、大通りに出る前の暗がりで後ろから声をかけられてギョッとした。思わず振り返ると黒ずくめのキチっとした身なりの男性が立っていた。

「えっ、私ですか」

「はい。あなたです。あなたの心配事を解決しましょうか。美味しい食事を続けたいし、できれはあの店の女将と仲良くなりたいのでしょう」

「えっ、なぜそれを」

「私は魔界からの使いです。あなたの寿命が尽きた時に、あなたの魂をいただけるのなら貴方の望みを叶えて差し上げますよ」

「もしかして、悪魔か死神。でも死んだ後の魂なら好きにしてもらっていいな。あの女将の手料理を僕が独り占めできるのなら、それで本望だ」

「ありがとうございます。では契約成立ですね。明日の夜十時、女将にプロポーズしてください。他のお客様にはお帰り頂いておきますから」

 翌日、夕方になって空腹になるのをチョコレートで我慢して、十時になるのを待った。女将の店の前で深呼吸し、絶対うまく行くはずだと自分自身に言い聞かせ、暖簾をくぐった。何となく緊張している自分を感じながら、カウンター席の真ん中に座った。

「真実女将、日本酒の熱燗といつものようにシャケの塩焼きと女将が漬けた梅干し、そして野菜の煮付けをください」

「はい、いつもありがとうございます」

「真実女将、今日は実は真剣な話をしに来たんだけど」

「はい、何でしょう」

 気のせいか女将の頬が少しピンク色に上気しているように見えた。好夫も緊張で喉がカラカラだったため、人肌の日本酒を勢いで三杯グッと飲み干した。

「真実さん、僕と結婚していただけませんか」

「まぁ、ど直球のプロポーズですわね。私みたいな女でよければお受けします」

「えっ、本当ですか、やったー」

 こうして、真実と好夫は一緒になることになり、よしおの家に真実が入ることになった。悪魔の仕組んだことに抜かりはなかったようだ。好夫は資産家で金銭に困ることはなかった。真実も小料理屋を続ける必要は無くなり、好夫のためだけに料理を作るようになった。好夫は悪魔との契約で塩分が多い食事を摂っても大丈夫なはずだと思っていたので、毎日の食事を大いに楽しんでいた。

 結婚後三ヶ月くらい経過したあと好夫の体重は大きく増加していた。結婚当時は八十キロ程度だったのが百キロを超える状態にまでなっていた。それまでの服も入らなくなり、仕立て屋を家まで呼んで作り直すことが毎月のこととなってしまった。真実はそれでも手を抜くことなく、好夫が美味しいと思う料理を毎日作り続けた。そして、一年近く経過した時、健康診断の結果が郵送されてきて真実が代わりに確認していた。

「好夫さん、健康診断が届きましたので、確認させてもらいました。去年の数値と同じでしたよ。ちょっとだけ太ってきたので心配してたんですけど、よかったわ」

「あっ、本当。じゃあまた来年の検診まで安心して真実のご飯食べられるね」

「そうよ。最近作っているのは全部減塩料理だから、それがよかったのかもね」

 そしてそれから三ヶ月が経過した時、好夫は倒れた。横ではその状況を見守る真実がいる。じっと様子を伺っている。手を伸ばす好夫を悲しそうな目で真実は見つめていた。しばらくして、伸ばしていた手が力尽きて床に落ちた。真実はそのまま三十分ほど経ってから救急車を手配した。程なくして救急車が到着したものの、好夫はすでに息を引き取った後だった。病院に運ばれた時、先生は申し訳なさそうに真実に伝えた。

「ご主人はお亡くなりになられました。あと三十分早かったら助かっていたかもしれません。力及ばずで申し訳ありません」

 真実は大粒の涙を流しながら、先生の言葉を聞き、夫の遺体を引き取って、何とか葬式を済ませることができた。バタバタとした時間が過ぎ、一息ついていた頃、真実の前に悪魔が現れた。

「真実さん、貴方との契約、無事に終了ですね。これで貴方の寿命は十年間延長されますよ。おめでとうございます」

 真実と悪魔は、二年以内に好夫の魂が悪魔の手に渡ることができれば寿命を十年延長する契約を結んでいたのだった。そのため好夫の検診結果には、早急に治療を受けるようにという注意書きが書かれていたことを真実はもみ消し、塩分濃いめの食事を出し続けたのだった。悪魔は、好夫の魂を早く手に入れるために真実と契約したのだった。そして真実は契約を実行し、真実は莫大な資産を手に入れ、寿命も十年延長を手に入れ満足していた。その後、真実は裕福な生活を満喫し十年が経過した時、外出した時に突然交通事故にあって、その生涯の幕を閉じた。事故現場には、ニヤリと笑う悪魔がいた。

 



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