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11月15日 狩猟解禁日 【SS】自己中

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 狩猟解禁日

「鳥獣保護及び狩猟に関する法律」(狩猟法)で、鳥獣の保護と乱獲を防ぐために狩猟がこの日に解禁される。

翌年2月15日まで狩猟ができるが、北海道だけは10月1日から翌年1月31日までと定められている。


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【SS】自己中

 今年も解禁日がやってきた。待ちに待った狩りが出来る日である。この日を楽しみにしていた者たちは、銃の手入れを念入りに行ったり、罠の動作確認をしたり、入念な準備をして待っていた。最近では、食料確保のための狩りというより、ハンティングそのものを楽しむ輩も増加しており、社会問題にもなりつつある。それにも増して、狩られる側の立場のことを誰も考えていない。もちろん、絶滅させないために狩猟を実施してはいけない期間を定めてはいるのだが、狩猟の対象となる動物の選定は、当たり前だが、動物側の意思は反映されてはいない。

「いよいよ、解禁日だな。お前も準備はしてるのかい」

「当たり前だよ。この日のために収入は武器開発費用につぎ込んでいるんだからな」

「そうか。俺は罠の方だな。何しろ生け取りにするスリルがたまらん」

「今年は、去年と違うところに行ってみようかなと思ってるんだけど、お前はどうするんだ」

「俺は、同じ場所さ。去年捕まえた奴らもまだ、我が家で生きてるしな。結構大変なんだよ。寒がりだし、よく食べるし」

「へー、まだ生かしてるんだ。俺は銃で撃つから業者に頼んで捌いてもらってるよ。だから、冷凍庫の中に積み木のように入ってるよ。もう、そろそろなくなるかなぁ。もも肉が美味いんだよな」

「そうか。じゃあ、狩に行く惑星はおなじだけど、ターゲットが違うから向こうで会うことはないかもな」

「ああ、そうだな。戻ってきたら、お前ん家にご馳走になりに行くよ」

 なんとも自己中心的な会話だ。狩に行くことを悪びれることもなく、二人の男性が会話していた。ここは、銀河系の外にある惑星だ。この惑星では自分たちが住んでいる惑星以外の星の生物に対する狩りの解禁日を勝手に決めていた。この惑星では、狩りによって住民のストレス解消を実現し、惑星内での犯罪の減少にも一役買っていたのである。この惑星の文明は遥かに高度であり、他の惑星は逆らうことすらできなかった。そのことをこの惑星の高官はよく理解していたのである。ここ数百年は、狩りのターゲットの人気は地球がダントツに高かった。地球上の動物も去ることながら、人間を狩りの対象にして、傷つけずに惑星に連れて帰り、奴隷のように働かせるのが流行りだったのだ。

 地球上のアマゾンの上空に光る円盤のような物体が出現した。どうやら、狩りに来た宇宙人の乗り物のようだ。円盤は一瞬で降下し、河岸に着陸したかと思った瞬間、その姿が消えた。代わりに、頭が大きく手足が異様に細い宇宙人が立っている。身を保護するように周囲の色によって変化するスーツを身に纏っている。右手首には銃口のようなものが装着されている。やけに落ち着いた様子で川面を見つめているかと思ったら、川の中から眼をギョロギョロさせたワニが浮かび上がってきた。宇宙人の方を不思議そうに伺いながら、意を決したようにスピードをあげ宇宙人めがけて突進してきた。宇宙人は慣れた様子で慌てることもなく、右手をあげ、手首に装着した銃口をワニに向けた。右手をギュッと握った途端、銃口から緑に輝く光線が発射され、ワニの鼻っ面に照射された。ワニは突進していた足が止まり、その場で眼を閉じてしまった。途端に、見えなくなっていた円盤が現れワニに対して白い光線を照射し、円盤の中へと取り込んでしまった。宇宙人は、次の獲物を探すべく川上の方に歩き出した。正確に言えば歩かずに、地面から少し浮いて浮遊して移動していった。

 一方、ヨーロッパの山岳地帯の小さな村にも光る円盤が出現していた。どうやら、村人たちには見えていないようだ。円盤からは何やら人が一人入れるような小屋の様なものが降ろされ、森の入り口に据え付けられた。しばらく待っていると、花を摘みにやってきた若い少女が不思議そうにその小屋を見ていた。

「こんな所に小屋なんてあったかしら。不思議だわ。ちょっと覗いて見ましょう」

 そう言いながら小屋の扉を開け、中に足を踏み入れた瞬間、景色が一変してしまった。入った瞬間は木のような壁が見えていただけだったのが、ドアが閉まった瞬間に、鉄格子で囲われた部屋にきてしまっていたのだ。宇宙人が仕掛けた罠だった。小屋は小さな転送装置になっていて、少女は円盤の中に転送されてしまったのだった。この村では、以前にも人が消えたことがあった。その度に神隠しと噂され処理されていた。少女は自分の置かれている立場を理解できず、ただ涙を流すことしかできなかった。奥から宇宙人が現れ、諭すように声をかけた。まるでスピーカーから聞こえてくる声だった。

「お嬢さん、何も心配することはない。あなたを食べるわけではないから。でも、もうあの村には帰れないよ。新しい場所で新しい生活をすることになるんだ。楽しみにしておいてね」

 こうして、地球に狩りに来た宇宙人は、狩猟解禁日の収穫に満足して、母星に戻った。ワニを獲って帰った宇宙人は、早速捌いて肉をブロックに分けて冷凍庫に入れ、皮はアクセサリー業者に売り捌いた。少女を捕まえてきた宇宙人は、自宅に連れ帰り、以前に捕まえていた人間が住んでいる部屋に少女を押し込んだ。

「あっ、お母さん、お母さんよね」

「えっ、ああ、アメリアなの。大きくなって見違えたわ。それにしても、あなたまで連れてこられるなんて。可哀想に」

「お母さん、ここは一体どこなの。村ではお母さんのお葬式は何年も前にやったのよ。でも生きていたのね」

「アメリア、ここは、地球じゃないみたいなの。私たちはもう故郷へは帰れないの。村では、今頃、また神隠しだって騒いでるでしょうね。でも、ここにも人はたくさんいるから、楽しく暮らせるわよ。何よりも戦争がないことだけはいいわ」

 こうして、惑星の勝手なルールで地球に対する狩猟解禁日が設定され、地球上の動物や人間が狩りの対象となっていたのだった。そして、今もなお、神隠しは続いている。


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