11月22日 ペットたちに感謝する日 【SS】ありがとう
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- ペットたちに感謝する日
福岡県糟屋郡志免町に本社を置き、ペット関連の事業を行うピーツーアンドアソシエイツ株式会社が制定。
日付は犬の鳴き声「ワンワン(11)」と猫の鳴き声「ニャーニャー(22)」の語呂合わせから。私たちと生活を共にし、喜びや楽しみ、時には生きがいまでも与えてくれるペットたちに感謝し、人と動物の正しい関係を考える日。
すべてのペットが幸せになれるように、また野生動物や自然環境のことを多くの人に考えてもらいたいとの願いが込められている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】ありがとう
僕たちが結婚して十年目の年だった。僕たちにとっての長男が四歳になったばかりの時に、君は我が家にやってきた。妻と散歩中に、たまたま新しくできたペットショップの前を通りかかったのが縁だったね。妻はガラス越しにじっと見つめて首をかしげるトイプードルの君に一目惚れ。綺麗なレッドの毛並みをしていた。トイプードルの場合、レッドと言っても赤いわけではない。明るく濃いブラウンのような色だ。僕は正直「ヤレヤレ。美香の動物好きにも困ったものだな」と思ったけれど、君の愛くるしい顔と尻尾をフリフリしている小さな姿を見て「まぁ、仕方ないかな」と思ったんだよね。かくして、君は我が家の次男坊になることが決定したんだ。
「ねぇ、この子の名前どうする」
「そうだな、次男坊だから二郎は」
「えぇ、もっと可愛い名前にしてあげましょうよ」
「じゃあ、キャンドルはどうだい。ご飯の時、キャンキャン吠えるアイドルだからキャンドル」
「あー、それいいね。じゃあ、今日からあなたはキャンドルくんでーす」
こうして名前も決まった。我が家はマンションなので、色々決まりはあるけど今の所問題はないだろう。管理規定によると、ペットは小型犬の場合は二頭まで、出かける時はマンションを出るまで抱っこかケージ、またはペット用のベビーカーを利用することとなっている。どれも問題はない。こうして新しい家族が増え、今までにも増して、毎日が賑やかになったのである。
春になると家族でお花見。犬を連れてのお花見だから、ちょっと気を使うけど楽しいお花見ができる。夏になると、みんなでキャンプ。キャンドルは水が怖いらしく、水際までしか行かない。それを見ているだけでもほっこりできる。秋になるとペットと泊まれるお宿を予約して温泉。ここでもキャンドルはお風呂に入りたがらないので、部屋でお留守番。ちょっとかわいそうだけど、おやつをあげると大人しく待っていてくれた。冬になると、たまに降る雪をベランダから見てキャンドルが興奮。でも、その冷たさに驚いてすぐにベランダから部屋の中に戻る。時々濡れた足の跡がフローリングに付くけど、まぁ仕方がない。懸命に妻がモップをかける。
こんな感じで一年中楽しく過ごせているのもキャンドルがうちに来たおかげかもしれない。長男坊の翔も喜んでキャンドルと遊んでいる。まるで本物の兄弟みたいに見えてしまう。それを見ている僕たち夫婦も思わず笑顔になる。
月日が経つのは早いもので、翔が十五歳、キャンドルが十一歳になった。犬の平均寿命は十五歳だというから、我々夫婦も少しずつ覚悟をしておかないといけないなと感じ始めていた。すでに、人間の年齢に換算すれば還暦を迎えることになるのがキャンドルだった。犬は大半が白内障に掛かるらしい。年齢とともに病気がちになったり、足腰が弱ったり、耳が遠くなったり、目が見えなくなるのは人間も犬も同じようだ。そんな私も四十歳を超えたあたりから、老眼になってしまい、歳をとっていることを実感している。妻は元々持っていた肩こりや腰痛がかなりひどくなっているようだ。昔のようにみんなで海や山に出かけることも頻繁にはできなくなったので、ペットと泊まれるお宿を中心に体を休める旅行に行くことが我が家の定番となりつつあった。
そんな穏やかな日々を送っていたのだが、みんなで公園まで散歩に出かけた時、お決まりで通る道が工事中だったため、いつもとは違う道を通って公園まで行くことにした。ちょっと車通りが多い道に出たのでリードを強く持って歩いていた。すると突然、キャンドルが側溝に落ちてしまったのだ。一部分だけ側溝の蓋が開いていたようで白内障になっているキャンドルには見えなかったのだろう。そのまま、側溝の中に落ちてしまった。その際にリードを短く引っ張っていたものだから、首を宙吊りされるような形となってしまい、前足が側溝脇のコンクリートに引っかかり、なんと骨折してしまったのだ。キャンドルはあまりの痛さにキャンキャン泣いている。私たちは慌ててキャンドルを抱っこして、そのまま行きつけの動物病院に向かったのだった。
動物病院はキャンドルにとっては一番行きたくない場所である。病院の診察台に乗ってしまうとブルブルと震え出してしまった。かわいそうだが仕方がない。そのまま骨折の治療をしてもらい、骨折箇所を噛まないようにエリザベスカラーを初めてはめられてしまった。首の周りに巻きつけるメガホンのようなものだ。すっかり大人しくなったキャンドルは食欲まで落ちてしまったようだ。しばらくは家族全員のお出かけも中止となり、キャンドルの回復待ちとなっていた。
そんな折、翔が急に元気を無くし、ご飯もあまり食べなくなってしまったのだ。キャンドルのことも心配だが、長男坊も心配な状況になってしまった。妻はどうしていいか分からずパニックになっている。次第に翔の体が弱って行く様子が見て取れた。そして、あっけなく、息を引き取ってしまったのである。この時、翔は十六歳を目前にして逝ってしまった。子供のいない我々夫婦にとっては、ペットの犬たちが子供の代わりのような存在だった。平均寿命は知ってはいたが、我が家の犬はもっと生きてくれるものだと根拠なく信じてしまっていた。堪らなく悲しかった。
「今まで、我々家族と一緒に生きてきてくれてありがとう。これからはキャンドルにもっと長生きしてもらうように頑張るから、天国で見守っていてくれ、翔」
翔はダックスフンドだったがとても大人しく少食の長男坊だった。私と妻は夜通し泣いて、次の日に火葬を執り行い、翔との永遠の別れを経験した。今は、翔がいなくなり、キャンドルとの生活の日々が日常の支えとなっている。
了
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