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12月19日 まつ育の日 【SS】主婦の挑戦

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- まつ育の日

東京都千代田区丸の内に本社を置き、トリーメントマスカラシェアNo.1の「まつ毛美容液」を販売するエイジングケアカンパニーのアンファー株式会社が制定。

日付は「まつ(12)いく(19)」(まつ育)と読む語呂合わせから。一年間毎日のメイクで様々な負担や試練と戦ってきたまつ毛をしっかり労わってあげる日。また、毎日のまつ毛ケア「まつ育」をすることで多くの女性のまつ毛を美しく輝かせることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】主婦の挑戦

 最近は、目の周りのケアにお金をかける女性が急増している。コロナ禍の頃はマスクで顔の半分を隠していたため、アピールするのは目の回りだけだったということが引き金になったのかもしれない。目を大きく見せたり、まつ毛をクルッと上にあげたりと目の周りのケアには余念がない。まつ毛に至っては、付けまつ毛やエクステンションのみならず、まつ毛にパーマをかけてクルッと上向きにカールさせることが手軽だということもあり、結構流行しているようだ。その上でマスカラをつけ、長いまつ毛を実現すれば、カーラーであげるよりも美しいカーブのまつ毛ができるということが人気のようである。

 日々子育てに追われている一人の主婦がいた。独身時代は大きなヘアサロンに勤務していた経験を持っている。もちろん、美容専門学校を卒業したので美容師の免許は取得済みである。ただ、ここ数年間は子育てに追われ、自分の事はほとんどできていない。しかも、美容師をやめてから既に十年近く経過しているので、美容師に戻るスキルも無いと諦めていた。

 そんなある日、たまには爪でも綺麗にしようと友人がやっているネイルサロンに出向き、友達価格で爪を綺麗にしてもらいながら日々の愚痴を話しあっていた。

「さゆりはどうしてネイルサロンを始めたの。特に生活に困ってたわけでも無いんでしょ」

「そうね。生活は裕福では無いけど困ってるってわけでもなかったかな。恵美は今、専業主婦なんでしょ。私もさー、最初はそうだったのよね。でもさー、むしゃくしゃする時が多くなってさ、何か始めたいなぁって思って。恵美はそういうことって無いの」

「あるある、しょっちゅう。でもさ、何もできないかなぁって思ってしまうんだよね。まだ、外に働きには出れないしさ。子供いるから」

「そうなんだよね。私も同じだったのよ。だから自宅でできることないかなって思ってさ。これを勉強したのよ。元々好きだったってこともあるけどね。それにさ、恵美と違って私は美容師免許持ってないしね。そうだ、恵美は美容師免許あるんだからまつエクとかまつ毛パーマとかやればいいんじゃないの。それだったら自宅でできるし」

「ああ、そうだよね。そういえば、友達でも何人か自宅でやってるね。まつ毛パーマ」

「でしょ。場所もそんなに必要ないし、講習受けて何回か練習すればできるようになると思うよ」

「そっかー。まつ毛パーマかぁ。今日はいいこと教えてもらったなぁ。よし、考えてみようかな」

 友達と会話したことで、自分ができそうなことを見つけた恵美は夫と子供達にそのことを話した。

「ねぇ、ねぇ、あなた。私さ、ちょっと勉強してまつ毛パーマのお仕事をしようかなって思ってるのよ。どう思う」

「別に反対はしないけど、外に仕事に行くには厳しいんじゃないか。まだ、この子達は幼稚園だし」

「ううん。違うの。個人事業主としてここでお仕事するのよ。我が家でね。隙間時間の活用よ」

「へぇ、そんなことできるのか。面白そうだね。いいんじゃない」

「でしょ、ねぇ、あなたたち。ママがお家で時々お仕事してもいいかな。もちろん、あなたたちがいない時間にするんだけどね」

「えー、ママがお仕事するの。いいよー、あたしお手伝いしてあげる」

「ふふ、そうねもう少し大きくなったらお手伝いしてもらおうかなぁ」

 こうして、友達に背中を押された格好にはなったが、恵美は専業主婦の殻を一歩踏み出す決意を固めた。恵美には友達には言えなかったが、もう一つ大きな不安があった。恵美の夫は自分で事業を起こしている個人事業主であり、収入が安定していない。そのため、コロナ禍の時には収入が落ち込み、何とか耐えて生活はしたものの蓄えを増やすということには程遠かったのである。加えて病気や怪我をした時には保険があるとは言え、信用と収入が無くなってしまうリスクも背負っていたのだ。だから恵美は子供達のことも考え、多少でも将来に予期せぬことが起こった時の蓄えを作っておきたいと考えていたのだ。そのことも恵美にとっては一歩踏み出す大きな要素となっていたようである。

 恵美は、以前からまつ毛パーマの仕事を始めた友達に聞いて、開業するための情報を収集したり、講習の場所や料金を調査していった。調べ始めて見ると、いろいろと大変そうなことも解ってきたが、予約制で女性のみをお客様とすることで、安心感もあるなと再認識していた。そして、一通りの道具と材料を買い揃えた。髪の毛のパーマと違い、カールさせるためのロットはママごとのオモチャみたいに小さく、かえってその大きさが施術の困難さを物語っているようだった。

「うわー、こんなに細くて小さいロットを使うのね。しかも瞼の上だから、緊張感半端なさそう。まずは講習会に行って実戦で習得するしかないわね」

 恵美は講習会を申し込んだ。ただし、その時にはモデルを同伴することが前提になっていて、自信のない恵美は友達に声を掛けられなかった。そこで、恵美は夫を連れて行く決断をし、夫婦で講習会に参加したのである。場違いなところに来てしまったと感じたのは夫だった。当たり前である。男性は恵美の夫だけだったのだ。それでも何とか講習会を無事終えて、コツを掴んだ恵美は、何人かモデルになってもらうべくメールを回していた。

「そうだ。身近にいたわ、モデルになってくれる人。お父さんとお母さんに頼めばいいのよね」

 こうして身の回りの人を練習台にしてスキルも向上し、まつ毛が細い人、短い人、少ない人、瞼が被さっている人なども経験することができ、ロットの選択やパーマ液の選択などに応用できるようになっていた。いよいよ本格的に活動できる準備が整ったのである。

 子育てという時間の中で、社会とのつながりを維持しながら将来への備えを実現するために一歩踏み出した恵美の挑戦は始まったばかりである。これから、友達を中心に施術を行い、地道に口コミでお客様を広げて行くことになるのだろう。少しでも将来に対する不安を払拭できるようになることを祈りたい。


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