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12月12日 国際中立デー 【SS】協調・人道支援

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 国際中立デー

2017年(平成29年)2月の国連総会で制定。国際デーの一つ。英語表記は「International Day of Neutrality」。
この日には国際関係の中立性の価値に対する人々の意識を高めることを目的としたイベントが開催される。この国際デーの制定を呼びかけたのは、中央アジア南西部に位置するトルクメニスタンで、グルバングル・ベルディムハメドフ大統領が2015年(平成27年)の国際会議において提案した。


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【SS】協調・人道支援

 山の国は領土が狭く人口も少ない国だ。環境大臣となったグリーンは、四方の国境に接する四つの国との良好な関係を継続するとともに、山々の環境保全に関しても隣国との協調路線を崩さない姿勢を示していた。同じ山を共有している国同士は特に関係を良好に保たなければ山の健康も維持できなくなるからだ。関係を損ねて山の環境が悪化すれば、これまで築いてきた国としての経済を支える根幹が揺さぶられてしまう。

 不幸にも隣国では宗教の違いによる争いが勃発してしまっていた。山の国は世界に対して中立国であると宣言している国である。それ故、他国の紛争に関しては直接介入することは一切ない。だが、やはり隣国の騒ぎは気になるものである。山の国の国民も気になり始めているようだ。

「あの山脈の向こう側にある隣国では、紛争が起きてしまっているようだ。きっと今回も弱い立場の人たちが犠牲になっているのだろうな」

「そうだな。数年前にも離れた国で紛争が起きたが、街の状況は惨憺たるものだったからな。その時も大半の国民が国外に逃げ出したとニュースで報じられたけど、多くの死傷者も出ていたからな。悲惨な結果につながるというのは誰しもが分かっていることなのに、どうして人は争うのかな」

「全くだな。同じ人類として地球で生活しているんだから、お互いを認め合えばいいのにな」

「きっと、その国に住んでいると相手国がギャングみたいな存在にしか見えなくなるのかもな」

「今回の隣国の争いに対し、中立国の我々としては何かできることはないのかな」

「そうだな。争いに加担はできないけど、人道支援として逃げ出す人々を受け入れることはできそうだよね。すでにグリーン環境大臣が陣頭指揮に立つ様だよ」

「そうなんだ。やっぱりグリーン環境大臣はすごいな。国民の憂いをいち早く感じ取ってくれるんだな。早く大統領になって欲しいもんだな」

 その頃政府の中でグリーン環境大臣は、山の環境を保護するために一つの具体的な提案を提出していた。

「我が国では山の中に巨大倉庫を作っています。もちろん、まだ延長工事中ではありますが、隣国との間で人道支援のためのトンネルを隣国まで通す計画を提案します。山を越えて私たちの国に逃げてこようとしている隣国の難民の負荷を削減するとともに、平和になった際の幹線道路の役割、並びに山の自然保護が可能になると考えます。山頂を境に国境となっていますが、山としては繋がっていますので、現在の我々の国側の環境を維持するためにも山全体の環境を考慮すべきだと考えています。ぜひ予算化して頂きたいと思います。現在の巨大倉庫の拡張工事を中断してでも、今実施しなければならない案件だと考えています」

 自分の保身しか考えていない政治家は賛成を渋っていたが、世論の声は強かった。全面的にグリーン環境大臣を支持する声が強かった。なぜなら、国民の多くには結婚を機に隣国に住んでいる国民も多かったのだ。グリーン環境大臣の提案は実にタイムリーだった。外務大臣は仕方なく隣国と協議し、トンネルを貫通させることの合意を取り付けた。最も、交渉の席にはグリーン環境大臣も同席して熱く語りかけたことが功を奏した様だった。

 隣国での紛争の最中、トンネル貫通工事が始まった。山の国側は中腹までは貯蔵庫のためのトンネルを掘っていたため、隣国側に当たる半分だけを掘削すれば貫通させることができる。隣国からも掘り進めるので工期も短縮できた。隣国の国民も山の国の国民も首を長くしてトンネルが貫通するのを待っていた。工事を開始してから一年が経過し、やっと貫通することができた。隣国からは、その日を待っていたかのように、山の国側へと避難を開始したのである。

 難民を受け入れた山の国側ではトンネルの工事開始と同時に貯蔵倉庫がある山の中腹にアパートも多く作っていた。難民となった隣国の人たちに部屋を提供し、食料倉庫での仕事も与えたのである。思いがけない労働力を得た山の国は、巨大倉庫の工事も進め、隣国との二つ目のトンネル工事にも着手した。

 このことは世界中で放送され、大賞賛を浴びることとなった。まさしくグリーン環境大臣の時代がやってきたのである。おりしも次期大統領選の選挙が近づいていた。山の国では、隣国からの難民に対しても選挙権を与えている。結果は火を見るよりも明らかで、グリーンが大統領選挙を勝ち抜き、最年少大統領に就任するだろうと思われていた。国民、難民だけでなく、世界中が歓喜の拍手を送っている。人の命を第一に考えてくれるグリーンは世界中が支持したのである。

「最近のグリーンは調子に乗りすぎているな。このあたりで消えてもらわないと、我々の甘い汁がなくなってしまうぞ。ボスも心配していたよ」

「そうだな、大統領選が来る前に片付けてしまおうか」

「最近は、グリーン支持が多すぎで動きにくいが、自宅では相変わらず質素な生活をしているらしいから、狙うのは簡単だろう」

「よし、じゃあ。精鋭を集めて片付けてしまうことにしよう。月のない日が最適だろうから十日後の夜中、日が変わる頃に襲撃することにしよう」

「よしわかった」

 反乱分子は必ず存在するのである。不穏な計画が水面下で動き出した。山頂付近で誰もいないことを確認し、密談が実施されていたのである。グリーン環境大臣が暗殺されてしまうと国の将来も不安になる。しかし、山には隅から隅まで維持管理のための情報収集網が既に敷設されていた。元々は自然の動物の生態系を把握するための隠しカメラとマイクだったが、当然、人にも有効だったのだ。この会話はしっかりと録音され、顔認識機能で人物も特定され、事前に包囲網が計画されていたのだ。計画実行の当日はグリーン環境大臣はホテルに宿泊して安全を確保する行動をとり、多くの警官が目立たないように配置され、犯人が現れるのを待っていたのだった。そして犯人が現れた。

 用意周到な作戦であったため、暗殺に来た犯人はものの見事に逮捕されてしまった。しかし、残念ながら首謀者までは辿り着けず真の黒幕は今も尚、普通の生活を送っているようだ。しかしグリーンはそんなことはお構いなしに選挙活動を繰り広げ、見事に最年少大統領という名誉を手に入れることができたのだった。


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