12月1日 鉄の記念日 【SS】野心・鉄壁の王国
いよいよ、12月に入り、シリーズ最後の月となりました。二日連続のお話をお届けします。
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 鉄の記念日
日本鉄鋼連盟が1958年(昭和33年)に制定。
1857年(安政4年)のこの日、現在の岩手県に位置する南部藩の藩士で鉱山学者の大島高任(おおしま たかとう、1826~1901年)が日本で初めて洋式高炉による製鉄に成功した。大島は後の明治政府においても技術者として高く評価され、鉱業界の第一人者として活躍したことから「日本近代製鉄の父」と呼ばれている。
製鉄の歴史が100年を超え、2世紀目に入ったことを祝って記念日とした。この日を中心に鉄に関する展示会やイベントなどが行われる。
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【SS】野心・鉄壁の王国
どこよりも先に鉄を発見した山の王国があった。周りではまだ石で作った斧などを使って戦いに挑んでいた。進んでいる国でも青銅を使うのが精一杯で鉄鉱石を使う国はまだ現れていなかった。いち早く鉄鉱石を見つけた王国は、鉄の使い方を研究していた。王国の場所は険しい山に囲まれた土地で、街は山の中腹の傾斜地に作られていた。傾斜地なので荷物の搬入などには苦労したが、侵略者に対しては、常に上からの攻撃ができる土地の利を使うことができていた。しかし、戦う事に慣れていない住民と少ない兵士だったため、国王は城と城下町を外敵から守ることに重きを置いていた。王様の住む城は、険しい山の頂上に建てられていたので、おいそれとは攻撃できない場所だったが、中腹の街が征服されてしまえば、城は孤立してしまう。王様は街全体を高い石垣で囲うことを常に考えてはいたのだが、乗り越えられないくらいの石の壁を作るには、とてつもない石を集めなければならなかった。そのため、石を切り出す山を探索していて偶然にも鉄鋼石に出会ったのだった。
鉄鉱石を溶かして固めたものは石などとは比べものにはならないほど硬いものになるという報告を受け、早速、鉄鉱石を溶かした鉄で街を囲ってしまうことを決断したのだ。他国の兵士が攻めて来ても登れないことや投石機を使われても跳ね返せるような壁を作ることを指示した。そのことを任された技術者たちは、アイデアを出し合って、一つの方向性を考え出した。
鉄をクイ状にして地中に打ち込んでしまい、地面を掘っても入ってこれないようにして、地上には斜めの鉄の壁を作って街を囲い込む。斜めにするのは、街の外側に張り出すのではなく、外側からは急斜面に見えるように壁を作ると言うものだった。これは、敵が攻めてきた時に、鉄というものの特性を活かすためだった。そして、鉄の壁の上には三日月のように加工した鉄の棒を挿せるようにして、人が通れない程度の感覚で鉄の壁の上に刺すことを計画した。これは、投石機で投げられた石を受けて跳ね返すための柵だった。敵は下から攻めることになるので、高低差を利用したアイデアだった。
工事は着々と進んでいった。そうとは知らない隣国は自分たちの領土を広げる計画を立て始めていた。
「そういえば、山の頂上に城を建てている国があったな。それほど裕福ではないが、兵士の数も多くないと聞く。この際、攻撃して領土を広げてしまうか。山を領土にすれば、多くの鹿やウサギなどの肉が手に入ることになるやもしれぬ。数ヶ月後には雪も溶けるだろうから、戦いの準備をしておけ。特に、石斧と投石機は数が勝負だ。多めに準備をさせておけ」
「かしこまりました。征服した暁には、女たちをいただいてもいいでしょうか。王様」
「おう、それで士気が上がるなら、好きにするが良い。ただし、財宝は、我が国のものと思え。こっそり持って帰るものは斬首とする」
「はは、仰せの通りに」
こうして、隣国のひとつが領土を広げる計画をしていた。しかし、山の王国では、すでに鉄壁による街の囲いが完成していたのである。王様も少し安堵していた。しかし、隣国が攻めてきた場合の対処方法は心配だった。技術者を呼んで確認した。
「鉄壁は無事にできたようじゃな。しかし、外側から見れば、鉄壁は登ってくれとばかりの傾斜になっているのは一体どう言うことなんだ」
はい、王様。鉄壁の上には鉄格子が付けてあります。そして鉄格子の上の方は外側に向かって湾曲しているのです。よじ登ったとしても、なかなか街の方に来るのは難しい設計です。そしてこの湾曲は、投石機の石を跳ね返す役割もしていますし、鉄格子の隙間からは、矢を放つこともできるのです。実はそれ以上にすごい秘策があるのです」
「それ以上の秘策とは一体なんじゃ。もったいぶらずに言ってみよ」
「はい、鉄壁の内側には、油を流す溝が鉄壁に沿って掘ってあります。ここに油を満たし火を付けます。しかし、火は鉄壁に遮られて敵からは見えません。鉄は火で炙られるととてつもなく熱くなるのです。そうとは知らない敵の兵士が鉄壁をよじ登ろうとすれば、手足はもちろん、全身火傷になってしまいます。したがって、敵の兵士は鉄壁を越えられないということなのです」
「おお、なんとも素晴らしい策じゃ。完璧ではないか」
「はい、あとは、鉄壁の内側を自在に動く櫓を組んで的に向かい弓を放てるようにしておきます。その際の鏃にはもちろん鉄を使いますので、敵兵士は矢を受ければ戦意喪失間違いなしです」
そんな話で盛り上がっている時に、急報が入ってきた。
「申し上げます。隣国の海の国が攻めてきました。数多くの投石機も引っ張ってきているようです。騎馬隊も数多く押し寄せています。とても我が国の兵士の数では太刀打ちできそうにありません。ご指示をお願いいたします」
「何、もう攻め入ってきたか。心配することはない。まずは油を鉄壁の内側の溝に流し込め。そして作ったばかりの櫓を的に向かって矢を放てる位置に配備せよ。街の住民は後方に避難させることを忘れるなよ。誰一人として傷つくことなく対応して見せようぞ。しかし、海の国は、兵士のほとんどが奴隷たちだと聞いておる。なので、必要以上に殺してはならない。できれば、奴隷たちが我々の国に逃げてこられるようにするのだ」
隣国は満を持して攻め入ってきた。海の国の王もなんとか山の国を手に入れて、山の幸を手に入れようと考えていたのだ。決戦はすでに目前に迫っていた。
了
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