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東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻を目指している・受験するあなたへ

みなさんこんにちは。この4月から外部受験で東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻に入学しました、Kと申します。

この記事を見つけたあなたは、おそらくほぼ皆無と言っていいほど少ない地域文化研究専攻の入試の情報、を探し求められて来た方ではないでしょうか。かくいうわたしも、受験を控えた大学4年生の時には地域文化研究専攻に関する情報のあまりの少なさに愕然とし、手探りの状態で受験・合格までこぎつけました。受験が近づくにつれて、「合格したらこの専攻を目指す人のために絶対に記録を残しておこう」と思ったものです。外部受験を目指される方はおそらく不安に思うことがたくさんあると思います。しかし安心してください。大学院生活で求められている人物像から逆算した「やるべきこと」を見極めれば、合格はなんら難しいことではありません。

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前提の情報

地域文化研究専攻の試験は1次試験と2次試験に分かれています。一般受験の場合、1次筆記試験は外国語I(英語)、外国語II、専門科目があります。外国語IIは[英語II、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、韓国朝鮮語、ヒンディー語、アラビア語、古典ギリシア語、ラテン語]から2つ選びます(外国語II①は3問、外国語II②は2問なので出願時注意が必要です)。

そして、1次試験を突破しないと2次試験(面接)用の論文、アブストラクト、研究計画書を見てもらえません。1次試験の合格者は期日までに卒業論文、アブストラクト(論文が日本語の場合は英語に翻訳したもの)、そして研究計画書を送ります。2次試験は別途数日後に日程が発表され、約20分間の面接がおこなれます。

詳しくは7/1に配布が開始される出願要項をじっくりと読んでみてください。


次にみなさんが気にされるのは「どれくらいの倍率なのか?」ということだと思います。総合文化研究科は、出願者数と合格者数もホームページ上で公表しています(https://www.c.u-tokyo.ac.jp/graduate/admission/master-doctor/index.html 参照)が、ただ、これだけだと倍率がわかりません。なぜなら、もし出願だけして受験しない人が多数だった場合実質倍率と名目倍率で乖離が生まれてしまうからです。

あくまで2020(令和2)年度の受験結果ですが、出願者は75人(うち外国人34人)で、合格者は26人(うち外国人12人)でした。実際の受験者は、ほぼ出願した人と同数でしたが、ちらほら欠席者がいる感じでした。そして1次試験合格者は44人(うち外国人21人)でした。この日本人受験者の中には(東大の)内部生も混ざっているので、外部生単体の人数はわかりません。

つまり地域文化研究専攻を一般入試で受験する場合、出願者41人のうち1次試験突破が23人、合格者が14人が私の例なので、倍率は約3倍といえるでしょう。

ただ、ここで注意していただきたいのは何割以上取れば受かるとか、定員と照らし合わせて上から何人とるということをしているのか?ということは明らかになっていないということです。なので倍率を気にすることは見当違いなのかもしれません。次の試験内容で詳しく述べていきますが、論述試験なので明確な採点基準がないことが推察されるからです。(詳しくはぜひ専攻事務室や入試説明会で訊いてみてください。)


1次試験内容

ここからは具体的に個人的な試験の経験を語っていきたいと思います。学部時代の指導教員からは「すべてどれも6割は取っていないとダメでしょうね」と言われましたが、真偽のほどは定かではありません。以下に書くことは個人的な意見なので、正しい情報とは限らないことをご留意ください。

・外国語I(英語I)3問回答 9:00-10:00

1次試験に関しては過去問が駒場書籍部で販売されており、問題の傾向を知ることができるのであまり困ることはないと思います。強いていうならば一番のネックは模範解答がないことです(私が知る限り模範解答は存在していません)。問題文はほとんど例年抜き出された文まるまる和訳するものになっていますが、きっとみなさんも受験勉強をしていく中で「採点基準はなんなんだ?」と疑問に思われると思います。一度立ち止まって考えていただきたいのは、「大学院の授業では普段なにをするのだろうか」ということです。研究室訪問の時に先生や実際に院生に尋ねてみるのがいいと思いますが、少なくとも修士は修士論文を書かなくてはいけません。そのための前提知識が学部課程では圧倒的に足りていないので、大学院では毎授業3本の論文だったり本を一冊まるまる読んでくることが求められます(その上でディスカッションをするためです)。私はいまアメリカ分科に所属していますが、毎週の課題論文はJSTORに載っている一本30ページくらいある英語論文数本です。それに加えて、自分自身で研究として興味のある分野の論文を自発的に読んでいかなければいけません。翻訳に求められているのは論文を正確に読みこなすためのポイントをつかむ能力や前提となる背景知識の活用能力であり、英語の小説を和訳するような繊細な作業ではないと思います。

・外国語II①(英語II)3問回答 10:30-12:30

先述の英語Iと難易度はそんなに変わらないですが、ほんの少しだけ意地悪な問題が出てくるような気もします。例えば、一文が異様に長く、どこに何がかかっているかわからない複雑に交錯している文章などによく遭遇します。私は「SVOとか文型とか過去なんとか分詞とか全くわからないけど英語を扱える話者」なので最初はフィーリングで解いていたのですが、学部の指導教授に軽くそのことを打ち明けたら「正確に訳さないと落ちますよ。少なくとも私だったら落とします」と真顔で言われたので、こわくなって逐語訳をするようにしました。完成する文章はちょっと気持ち悪いものになるので、模範解答がないことがを本当に恐ろしく感じるでしょう。でも合格したので大丈夫だったんだろうな、と思っています。ここでも必要とされているのは、(少なくとも)2年間しかない修士課程でどれだけ学術のスキルを伸ばせるかという点から「研究の前提となる英語のコンテクストを理解する力」です。

私は勉強法として英検1級の単語帳とTOEFLの本を復習しました。

この二冊が、問題の文章に出てくる単語の理解と和訳には貢献してくれましたが、文全体を「一つの学術的な価値のあるもの」として読むにはあまり役にたたなった気がします。一番は何ヶ月も前からCiNii(https://ci.nii.ac.jp)でもJSTOR(https://www.jstor.org)でもいいので、自分の興味関心のある分野の英語論文をかたっぱしから読むことだと思います。最初はわからなくても、だんだん構成やしきたりのようなものの共通性を知り、正しく読むコツがわかってきます。


・外国語II②(中国語)2問回答 10:30-12:30

もともと学部では1年生次に二外で中国語を選択していたので、余裕ではないかとタカをくくっていました。受験の3ヶ月前までは。いざ出願してから過去問を本格的に解いてみたら全然わからず、絶望に陥りました。この外国語IIの怖いところは、私のようなアメリカ研究を志望している学生でも、中国研究を志望する学生が外国語II①(3問回答)として選ぶ問題と同じ問題から、2問選ばなくてはいけないというところです。つまり問題文にはバリバリ中国研究者が考えるような、素人が知る由も無い知識が入っています(2020年度の問題文には中国の憲法についての中文和訳がありましたが、受験時わたしは中国に憲法が存在していることすら知らないまま問題を解きました)。他の言語についても同じことが言えると思います。ここで重要なことは、(当たり前のことですが)文章構造を正しく把握することです。流石に専門分野ではない外国語II②はそこまでハードルを高く厳しく採点することはしてないと思いますが、まとまりをもって着実に慌てずに一つづつ訳せる忍耐力が重要です。

学部1年時に選択で「日常会話編」くらいしか教わらなかった私は、卒論の最終稿をまとめ終わった1月1日から、25日間で中国語を仕上げる地獄を経験しました。

もし私と同じような境遇にいる方はぜひ下記の本を見てみてください。

これらの本を25日の試験当日まですべて暗記しました。(今考えてみると相当追い詰められていて、アドレナリンが異常に分泌されていたんだろうなと思います。)この本の文法や単語を覚え、過去問を解き、わからないところを文法書に戻って、載っていないことはネットで調べてやっていました。一番手こずったのが副詞と介詞でした。

中国語の勘を研ぎ澄ますため、登下校の電車では下の本を読みました。左側には中国語のひとまとまりの文章があるので、それを読んで訳文を推測して、右側の日本語の文と答え合せをしていました。

これらを使ってなんとか解くことができました。繰り返しになりますが、はやめはやめの準備が必要です。1年前とかからHSK4、5、6級や中検を受けるなど周到な準備をしていれば苦しむことはありません。

また、勉強し始めのころ、電車などで移動している最中ではひたすらduolingoをやっていました。


・専門科目(1+1問)14:00-17:00

専門科目は2部で構成されています。1問目は日本語の論文(おもにカルチュラルスタディーズや芸術、国際関係論などに関するもの)を読んで要約し、自身の意見を述べるもの。2問目は5つのキーワードから一つ選び、自身の研究関心分野と結びつけて論述するもの。1問目は色々な見識を持っておいた方が話を広げやすいと思うので、普段から先行研究やその分野界隈の前提知識を知っておいたほうがいいと思います。私はエリック・ホブズボームの『創られた伝統』などを読みました。ここで注意しなくてはいけないのは自分の興味分野に引っ張りたいあまり強引につなげたりすること。大学院では自分の専門分野ではないことも授業では扱うので、いかにその視座で批判的に捉えられるかが重要になります。そこに、エビデンスとして自身の興味関心と繋げられるといいのではないでしょうか。要約に関しては、いかに簡潔にポイントを得られているかを気にした方がいいと思います(私は要約を友達に読んでもらい、意味が通るかチェックしてもらいました)。2問目はキーワードから自分の話題を展開できるので、内容の可能性は無限に広がります。逆説的に言えば、明らかに間違ったことを言っていない限り何を書いてもいいのです。試験時間は思っているほど長くないので卒論などから具体的に、論理的に、批判的に短時間で書けるよう練習しておきましょう。分量はA3片面1枚分くらいだったと思います。


2次試験内容

1次試験を突破した方、おめでとうございます。しかし安心している暇はありません。なぜなら2次試験のための論文・論文要旨・研究計画提出の期限は合格発表から1週間も無いからです。

・論文

私の学士論文はnoteで公開しています:

受験前年の7月に院の先生を訪問した際に、「卒論は丁寧に作ってね。とくに参考文献や註は特に気をつけてね。『註33に〜と書いてありますが、本当ですか』とか聞くよ」と言われました。なので、卒論は註を特に注意して作りました。また、私の望んでいた結論が先行研究に批判的な問題提起の仕方だったので、周辺分野の先行研究を出すとともにエビデンスとして1次史料をメインに取り扱いました。


・論文要旨

日本語で論文を書かれる方は、論文要旨は外国語で書くことになるので注意してください。用紙3〜5枚以内という指定があったので、私は英語でTimes New Roman ダブルスペースで提出しました。必ずネイティブチェックを通して、時勢など細かい点まで整えるようにしたほうがいいと思います。


・研究計画書

研究計画書は、2年の間にどのようにして研究をし修士論文にまとめるかの道筋を示すものです。(書く内容については専攻ホームページのFAQを見てみてください。書式をダウンロードできます:http://ask.c.u-tokyo.ac.jp/application.html)ここで示すべきなのは「自分のやろうと思っていることを自力でできそうか」ということだと思います。なので就活の自己分析で求められるような原体験などを列挙するのではなく、先行研究とや参考資料を織り交ぜながらM1前・後期、M2前・後期に何をするのか具体的に述べることです。科研費の申請資料のような具体性が必要になります。必ず院の先生と話したり、学部の指導教員の先生などに添削してもらってください。


・面接

面接時間は試験の1週間前ほどに総合文化研究科掲示板に貼り出されます。試験開始の前に待合室で待機し、先生が直接に呼びにきてくれます。部屋に入ると、司会1人、試験官3人、そして待機中の先生(おそらくオブザーバー)が3人の計7人がいました。

最初に論文と研究計画の要旨を3分間で喋ります(この時日本語でくるか英語で来るかわからなかったので両方用意しておきました)。その後試験官の先生が一人5分質問します。指導教員志望の先生からはいきなり10個ほどの質問を投げかけられました(主に論文の誤植や意図、エビデンスなどについて)。予想外だったのが、「論文要旨の英文の中に間違いがあるけど、今見直してみてどこがおかしいかわかる?」と聞かれたことです(テンパりました)。予想外を予想するというのは大事なことだと思います。

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採点には関係ないとわかっていながらも、オブザーバーの先生の一挙手一投足も気になってしまうので気が散らないように注意しましょう。その後、他の先生からは英語で質問が来たり、また別の先生からは違う見方もあるよと紹介され、「それはぜひ入学後に勉強してください」と言われて面接は終了しました。かなりパニクっていたのでほとんど何を喋ったかは覚えていませんが、ポイントは、質問の意図をちゃんと理解し、過不足なく論理的に適切に解答できるかです。「言葉が思考に追いついていない状態」でベラベラ早口で喋るのは危険です。落ち着いた応答を心がけましょう。

私は面接練習と同時にアメリカ科の先生の名前と顔を調べ、研究関心を調べ、論文や著作を読み、YouTubeで講演を調べたりして実際の面接の場を緻密にイメージングして臨みました。なので部屋に入った時は顔をよく知っている人たちばかりだったので、そんなに緊張せずにすみました。


まとめ

重要なことは3点です。

1. できるだけ多くの研究者・先生・院生と話をすること(イメージの形成と自分を没入する)

2. 早めに過去問にとりかかり、2次試験の提出物を頭の片隅に常に入れておくこと

3. これでもかというくらい論文を詰め、早めに終わらせること

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これらを総括して、スケジューリングとメンタルヘルスが一番重要になります。これら二つは相互に関係し合っているので、どちらかがうまくいかないと追い詰められて負のスパイラルに陥っていきます。いろんな人と話して孤独から抜け出してください。自分を追い詰めないようにしてください。うまくいかないことがあっても、次の日から一つづつこなしていってください。研究は追い詰めてやってもいいものはできないと思います。入学後が辛くならないように、心に余裕を持って、自己肯定感を高めながら着実に進んでいっていってくださいね。話を聞きたい、あるいは聞いてもらいたい方は遠慮なくご連絡ください。


最後まで読んでくださりありがとうございました。                                     -K


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