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風が強い日(短編小説28)

端が何気なく携帯を触っていると、視界の端にはいつも、広告や宣伝の情報が目に入る。その他には、事件や犯罪、告発のニュースもたくさん流れてくる。その勢いは止まることなく、日々加速している。

いままで抑圧、隠蔽されてきた情報たちが一斉に溢れ出すかように、のびのびとし、封じ込められてきたエネルギーたちが、躍動しているようにも感じて、瑞はそれが少し嬉しかった。

だけども、せっかく溢れ出てきたものを、社会では、正義の名のもとに叩いたり、裁いたりしがちで、またそれらのエネルギーを封じ込めようとする。自分は正しい、と言う立場から、間違っている何かを裁き、正そうとする。それを、「正しいこと」だと勘違いしながら。

瑞の隣で友人の薫がお菓子を食べている。

今日は風が強い日で、お菓子を食べると、その包装紙みたいなものが、風に飛ばされていくつか飛んでいく。薫は「あー飛んでっちゃったー」とか言いながら全然拾いに行こうとしない。

そう言う瑞もまた、拾わないんだ、と思いながら、拾いに行かない。目の前のゴミが飛んでいくのは諦めているけれど、家では地球の汚染問題についてなんとかしたい、と環境にやさしい洗剤を使ってもいる。

全員がいままでそんな、小さな「見てみぬふり」を重ねてきた結果が社会に反映されているだけなのだから、「自分は何も悪いことしてません」と言う顔で他人事のように何かを責めることは誰にもできないよね、と言うことを瑞は感じていた。その罪悪感を晴らすかのようにやさしい洗剤を使ってみているだけなのかもしれない。どこまでいっても地球のためなんかじゃない、自分の言い訳のためなのかもしれない。

「ねー、なんで世の中って暗いニュースばっかりなんだろうねー」

隣で、食べ終わったお菓子のプラスティックゴミや、手を拭いた紙のティッシュやらを分別せずにまとめて袋にしまい捨てようとしている薫がいう。

「んー。私たちがあまりにも無意識にやってることに意識がいかなさすぎるからじゃない?」

瑞はそう言って、空を見上げた。薫は「え、なになになんてー?」と言いながらさっきの袋を近くのゴミ箱にそのまま、捨てた。

瑞はやっぱりそれを、見てみぬふりしていた。

相変わらず、携帯の画面には事件のニュースが流れる。

おしまい

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