角田光代と「水曜どうでしょう」 ~バックパッカーエンターテインメント~
バックパッカーが好きだ。
正確には、バックパッカーのエンターテインメントが好きだ。
最小限の荷物で世界中を旅する人。
その姿を想像するだけで、わくわくする。
角田光代『いつも旅の中』 ~未知の世界への好奇心~
私がバックパッカーという言葉を知ったのは、
角田光代がきっかけだった。
角田光代は『八日目の蝉』などの作品で知られる人気作家である。
彼女は、20代のころから東南アジアを中心とした世界各地を旅している。
角田光代の『いつも旅のなか』(角川文庫)という作品は、
モロッコ、ロシア、ギリシャ、スリランカ、ラオス、イタリア、ベトナム、ネパール、モンゴル、タイ、アイルランド、韓国、スペイン、キューバという国々を旅するなかでのエピソードを記したエッセーである。
それまでバックパッカーを知らなかった私は、
まず、旅してきた国々のラインナップに圧倒された。
そして、各国でのエピソードの面白さに惹き込まれた。
トイレに行きたくて仕方ないのに車掌さんにトイレに行くことを頑なに許してもらえないなんて!
日本の日常生活では絶対ありえないエピソードばかり。
こんなことってあるんだ。
この世には、未知の世界が確かに存在してること、
そして、その未知の世界は自分にも開かれているということに思い至り、
「知らない世界を知りたい」という好奇心がかき立てられた。
「水曜どうでしょう」 ~どうしようもない徒労感~
角田光代をきっかけにバックパッカーに興味を持ち、
見始めたのが「水曜どうでしょう」であった。
「水曜どうでしょう」は、北海道テレビ制作のバラエティ番組。
大泉洋と鈴井貴之と藤村Dと嬉野カメラマンの4名が国内外を旅する。
私が好きなシリーズは「ヨーロッパ・リベンジ」「ユーコン川160キロ~地獄の6日間~」「原付ベトナム縦断1800キロ」である。
そのタイトルからして過酷である。
特に「ヨーロッパ・リベンジ」は、淡々と数百キロにわたる車での移動。
目的地に着いたらサクッと目的を果たして、また移動。
メインキャストである大泉洋が、やいやいと不平を言う場面も多い。
そうした場面を見ていると、自分も同じ気持ちに引き込まれていった。
いったいこの旅の何が面白いのか?
これに似た感覚は、日常生活にしばしば訪れる。
いったい何が面白くてこれをしてるんだろう?
なんでわざわざここに来たのだろう?
光るような非日常的な魅力を求めて旅に出たはずなのに、
日常生活と同じようなそんな徒労感を味わう瞬間が旅にはある。
でも、やっぱり、
ヨーロッパ制覇、ユーコン川160キロ、ベトナム1800キロなんて、
日常からは考えられない未知の世界であって、現場の空気や、
それを経験したときに湧き出る感情は彼らにしか味わうことができない。
どうしても旅に惹かれる感情と
どうしても旅の中で感じる徒労がある。
「水曜どうでしょう」によって、キラキラだけじゃない、
旅の徒労や疲労を知った。
バックパッカーエンターテインメントが好き
五感で感じる、非日常のキラキラした未知の世界。
どうしようもない、日常的な徒労感。
バックパッカーエンターテインメントでは、
そんな日常と非日常のあわいを感じることができる。
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