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篤があつしに変わるまで 24 『本と書店と車と涙』後編
このエピソードからお読みの方は、 『篤があつしに変わるまで 0 プロローグ』 からお読みください。
もしくは、 「マガジン」 でお読みください。
水曜日
それにしても腑に落ちません。T書店はもういいとしましょう。所詮、ボクにとってはアウェーです。
しかし、ボクのホームグラウンドであるM書店はどうしてしまったのか!
一体、今までにボクが何冊の本を買って稼がせてやったと思っているのか!
この本棚だって、俺の金で買ったんだろう!(←完全に壊れています、ボク)
どうしても諦めがつきません。
そこで、水曜日の夕方に「ひょっとしたら」と思い、足を運んでみました。
まずは、お約束の平積みコーナーですが・・・。
ありません。
「フッ。ここもやっぱり本棚扱いか」
しかし、本棚にもありません。
このような書店には、無期懲役、または一億円以下の罰金ぐらい科しても、妥当な判決だと思いませんか?
この時点で、ボクは完全に試合を捨てました。
「フッ。これからの俺のホームグラウンドはT書店さ」
木曜日
実は、1週間ほど前にボクは夢を見ました。
M書店は、自動ドアの入り口が開くと、その正面がコンピュータコーナーです。そして、売れ筋の本は、まさしく入り口の前に平積みされています。
ボクは、「M書店の自動ドアが開いた瞬間、そこに自分の本が積まれている」。
そんな夢を見たのです。妙に生々しい夢でした。が、夢は所詮、夢に過ぎなかったのです。
恩をあだで返したM書店は、すでに市内でもっとも嫌いなアウエー書店にランクダウンしていました。
その日、ボクは銀行にお金をおろしに行きます。
M書店は、銀行とボクの家の間にあります。
「あ、そうだ。あの雑誌はもう発売されたかな?」
帰りがてら、M書店に足を運ぶことにしました(おいおい、もうM書店で本を買うのはやめたんじゃないの?)
いつものように駐車場に車を止めて、自動ドアの前に立ちます。
サーッと目の前の空間が開けたその瞬間・・・。
夢? いや夢じゃありません。
ボクの本が、5冊平積みされています。
夢で見た光景が、寸分の狂いなく目の前に再現されています。
と同時に、さまざまなことが一瞬にして脳裏をよぎりました。
ソフト開発から足を洗いたくて、家庭教師で食いつないでいた時期。
そんなボクに「本でも書いたら。力になるよ」と、夢のような話を持ちかけてくれた品川出版の福島社長の顔。
その言葉を間に受けて本を書いたあと、それが単なる気分屋の「嘘」であったことに気付いて愕然とした瞬間。
書き上げた原稿を手に茫然自失の日々。
気を取り直して、自らあちこちの出版社にあたっても、企画書すら見てもらえなかった屈辱。
そして、最後の最後でボクの本に可能性を見出してくれたエーアイ出版の女性編集長の言葉。
「エクセルで販売管理! 奇抜だけど、これは可能性ありますよ!」
3週間もの度重なる編集会議の末、ついに出版が決定したことを知らせる電話を受けたあの日。
すぐに書店を飛び出して、自分の車に乗り込みます。
嗚咽も涙も、もう自分の意思では押さえ込めません。生まれて初めて「嬉し泣き」という感情の波に襲われました。
自分が普段本を選んでいたまさしくその場所に、数ヵ月前までごみくず同然だった原稿が本に姿を変えて積まれている。
「あきらめなくてよかった!」
あの日あの瞬間は、永遠にボクの胸に刻まれ続けることでしょう。
ちなみに、ボクのデビュー作はその後増刷を重ね、その場所は半年以上その本のための特等席でした。
もっとも、ボクが「日本一のVBAライター」「過去10年でもっとも成功したVBAライター」との評価を得るためには、それからさらに3年の歳月が必要でしたが、いずれにしても、この本のおかげで今のボクがあるのです。
本を書く。その本が全国の書店に並ぶ。毎年、3冊の本を書いている今のボクにはそれが「日常」です。特別な感慨はなにもありません。
しかし、それでも惰性ではなく、1冊1冊の執筆に全力投球できる情熱を与えてくれているのは、あの日あの時、車の中で流した涙が源泉なのです。
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