篤があつしに変わるまで 16 『人生を賭けたマイクロソフトとの交渉』
このエピソードからお読みの方は、 『篤があつしに変わるまで 0 プロローグ』 からお読みください。
もしくは、 「マガジン」 でお読みください。
翌日、ボクは早速マイクロソフトに電話を入れることにした。
当時は、自社のホームページを持っている会社など皆無であったが(それどころか、中央官庁ですらホームページを持っていなかった)、そこはさすがIT界の巨人のマイクロソフト。
会社案内程度の質素なものであったが、自社のホームページを持っており、そこに大代表の電話番号が掲載されていた。
<大代表? 代表ではなくて大代表? なんじゃ、そりゃ>
そう思いつつも、その番号に電話をかけ、相手に告げた。
「エクセルの本の出版のことでお話がございまして」
相手は、一度電話を保留したあとに言った。
「かしこまりました。では、この電話をエクセルの担当部署におつなぎします」
そうして電話が回されたのがどの部署なのかは、残念ながら忘れてしまったが、ボクは電話に出た新潟さんに、これまでの経緯と現在の状況を簡単に説明した。
「要するに、ご著書をご出版するにあたり、弊社から750万円の資金提供をお受けになりたいということですね?」
「はい、そうです」
「ただ、その750万円で3,000冊をご自身でご購入なさるということですが、それを販売する当てはないんですよね?」
「いえ。確かに、多くの専門学校やパソコンスクールには一度は断られましたが、それはそもそも、本がなかったからです。現物があれば、3,000冊の本を私が売ることは決して難しいことではありません」
ボクのこのセリフを読んで、読者の皆様は、ボクが750万円の資金提供を受けたいがために適当なことを言っていると思われるかもしれない。
しかし、当時のボクは、本気でそう思っていた。
専門学校やパソコンスクールで門前払いを喰らったのは、そもそも、教科書うんぬん以前に本がなかったからだ。
言い換えれば、本さえあれば、教科書に採用してくれる学校があるに違いない。
そう思って疑っていなかった。
ボクとしては、マイクロソフトに嘘や誇張を言ったつもりはなに一つなかった。
電話越しの新潟さんは、しばらく電話を保留にしたあと言った。
「恐縮ですが、こちらからお電話を掛け直すということでよろしいでしょうか? 明日、お電話を差し上げますので」
「はい! わかりました! お願いいたします!」
ボクは、受話器を置きながら胸中で叫んだ。
やった! マイクロソフトが資金提供をしてくれる!
あとは、本が出版されたら、俺が3,000冊を販売すればいい!
ついにチャンスが訪れた!
翌日、電話が鳴った。
言うまでもなく、マイクロソフトからの電話である。
ボクは、喜び勇んで受話器を取った。
記事はすべて無料でお読みいただけます。いただいたお志は、他のnoteユーザーのサポート、もしくは有料コンテンツの購入費に充てさせていただきます。