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11月16日[1分小説]
「今日が11月16日でなきゃ楽しめたのに」
友人は深い沈黙のあと突然張り上げた声と共に普段はあまり見せないくしゃっとした笑顔でそう言った。11月16日。あ、そうか。前に聞いたことがあった彼女の父親の命日だった。私の元恋人の命日とも近かった。そういえばあの時もあまりにも突然で、どうしようもない割に行きどころの無い罪悪感だけがただただ押し寄せた。
きっと友人もそんな想いやらなんやら抱えて、あんな細い身
二人の時間[1分小説]
友人の住む実家の外は、少しじめっとした土の上を暫く歩くことになる。隣接した住宅の一角にある友人の家の周りには猫がいつもどこかで寛いでいる。人間を警戒するでもなく、よりついて甘えてくるわけでもない。友人の父親は大の猫好きであったようで、友人家族もその影響で猫が好きなのである。外で飼われている猫がいいとよく言っていて、私も自宅で猫と暮らしているため、それもよく理解した。咥え煙草で室外機の上に気持ちよさ
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