マガジンのカバー画像

そのサッカーを疑え!

スポーツライター杉山茂樹が月4回程度発行する有料記事
¥540 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

記事一覧

EURO2024。欧州で進む二極化。続々と誕生する強力ウイングとウイングのいない5バックの関係

EURO2024。欧州で進む二極化。続々と誕生する強力ウイングとウイングのいない5バックの関係

 ユーロ2024。前回のこの欄で、後ろで守る5バックのチームが増えている。その数3割強。揺り戻し現象が起きていると述べた。しかし、その一方で優れたウィンガーの存在も数多く目に止まる。

 基本的に5バックにはウインガーは存在しない。マイボールに転じたとき5-2-3(3-4-3)になる5バックを除き、サイドアタッカーはウイングバック1人に限られる。

 そのウインガーの活躍がいつになく目立つというこ

もっとみる
EURO2024で増加傾向を示す5バック。「後ろで守る」から「前で守る」への変更は難しい

EURO2024で増加傾向を示す5バック。「後ろで守る」から「前で守る」への変更は難しい

 スイス、ハンガリー、スコットランド、デンマーク、セルビア、ポーランド、チェコ、ジョージア。以上は、ユーロ2024のグループリーグにおいて、5バックになりやすい守備的な3バックをメインに戦ったチームだ。その数8。本大会に出場した全24チームの3分の1に当たる。

 2022年カタールW杯では32チーム中10チーム程度だった。微増である。しかしこれがユーロ2016との比較になると一変する。当時はウェ

もっとみる
荒くれ者風なのにクレバー。イタリア戦でMOMに輝いたスペインのククレジャにSBのあるべき姿を見た

荒くれ者風なのにクレバー。イタリア戦でMOMに輝いたスペインのククレジャにSBのあるべき姿を見た

 グループステージの3巡目を迎えているユーロ2024。スペイン対イタリア、フランス対オランダなど有力国同士が早くも対戦するなど、目が離せない状態にある。

 決勝戦まで7試合。先は長い。前々回のユーロ2016を制したポルトガルはグループリーグで、ハンガリー、アイスランド、オーストリアという弱者と同居しながら3戦3分、勝ち点3と大苦戦。グループリーグ3位、全体の15番目の成績で決勝トーナメント(ベス

もっとみる
空前のスケールで行われる2026北中米W杯。難しくなった将来の日本単独開催と問われる森保監督の覚悟

空前のスケールで行われる2026北中米W杯。難しくなった将来の日本単独開催と問われる森保監督の覚悟

 2026年北中米W杯。緯度で見ると北からカナダ、アメリカ、メキシコの順に並ぶ。W杯の長い歴史の中で初めて行われる3ヶ国開催。取材観戦する側にとって大変そうに感じるのはそれぞれの国をまたぐことになる移動だ。

 イメージするのは縦移動。カナダからアメリカを挟んでメキシコに行くのは大変そう。その逆もしかりで、真ん中のアメリカに拠点を構え、必要に応じてメキシコ、カナダに移動することが旅行の常識的なスタ

もっとみる
オーバーエイジ問題。W杯に続く大会は五輪ではなく本日決勝を迎えるCLだとの認識に立てるか

オーバーエイジ問題。W杯に続く大会は五輪ではなく本日決勝を迎えるCLだとの認識に立てるか

 五輪本大会に臨むU-23日本代表。メダルの可能性はオーバーエイジの顔ぶれ次第できまるといっても過言ではないが、顔ぶれは明らかになっていない。先日のメンバー発表(6月に行われるアメリカ遠征)の会見でも、所属クラブとの交渉役である山本昌邦ナショナルチームダイレクターの口から、前向きな言葉は出てこなかった。

 オーバーエイジとして五輪出場を積極的に希望している選手が、そもそもどれほどいるか、だ。招集

もっとみる
47年堅持した欧州トップ10から陥落したバルセロナ。失われた特別感。世界に追いつかれてしまったのか

47年堅持した欧州トップ10から陥落したバルセロナ。失われた特別感。世界に追いつかれてしまったのか

 チャンピオンズリーグ(CL)を欧州1部とするならば、ヨーロッパリーグ(EL)は欧州2部であり、カンファレンスリーグ(UECL)は欧州3部となる。その3つのカップ戦の、過去5年の戦績に基づいて算出されるのがUEFAランキングで、各国リーグの来季の出場枠は、その順列で決定される。

 今季はそのランキングに異変が起きた。1999年以降24年の間、2位以内を守ってきたスペインが、イタリアに抜かれ3位に

もっとみる
相手ボールに30年以上前から4-4-2で対峙した欧州と「そこ」にいることの意義さえ語られなかった日本

相手ボールに30年以上前から4-4-2で対峙した欧州と「そこ」にいることの意義さえ語られなかった日本

 サッカーで主役と言えば誰を指すだろうか。選手か監督か。たまたサポーターか。両GKが美技を連発すれば、その存在感はいやが上にも高まる。主審もVAR時代を迎えた現在では主役に見える時がある。しかしフアン・マヌエル・リージョはインタビューした際に、上記には存在しない要素を口にした。

 ボール。ゲームの中心にいるのはボールで、サッカーはそのボールに対して反応するゲームだ、と。サッカーにはマイボールと相

もっとみる
「賢くしたたかに」(森保監督)の落とし穴。5バックから4バックには戻せない

「賢くしたたかに」(森保監督)の落とし穴。5バックから4バックには戻せない

 時に5バックで後ろを固める采配を「臨機応変で賢くしたたかな戦い方」と自賛する森保監督。普段、言質を取られたくないのか、サッカーの中身について詳細に語ろうとしないが、この件については大胆にも言い切っている。確信に満ちた口調で自信満々に語る。反論を浴びることを覚悟の上だとすれば、いい度胸しているという話になるが、実際はそうではないように見える。

「賢い」の対義語を辞書で引けば「愚か」だ。筆者は非森

もっとみる
攻撃的MFの進化形。中盤天国時代の名残を留める荒木遼太郎の高度なFW的瞬間芸

攻撃的MFの進化形。中盤天国時代の名残を留める荒木遼太郎の高度なFW的瞬間芸

 U-23アジアカップ準決勝でイラクを下し、パリ五輪出場を決めた日本。様々な要因が絡んでの好結果だろうが、今季のJリーグで調子のいいアタッカーがチームに勢いをもたらしたという印象が強い。

 FC町田ゼルビアの平河悠、藤尾颯太、FC東京の松木玖生、荒木遼太郎の4人である。平河は左右のウイング。藤尾はCF兼右ウイング。松木と荒木は4-3-3のインサイドハーフとして上々のプレーを見せた。松木を除く3人

もっとみる
五輪サッカーは多機能性を育む場。U-23日本代表で大化けが期待できる選手は誰

五輪サッカーは多機能性を育む場。U-23日本代表で大化けが期待できる選手は誰

 カタールのドーハで開催されているU-23アジアカップ。日本は準々決勝でカタールを下し、8大会連続となるパリ五輪出場まであと1勝に迫った。とは言っても、本来これは絶対に負けられない戦いではない。U-23は文字通りアンダーカテゴリーの大会で、主なる目的は育成である。監督、選手が目の前の試合に全力を傾け、勝利を追求するのは当然としてもA代表の戦いとは似て非なるもの。概念が根本的に異なる。

 大袈裟に

もっとみる
10人になっても4-4-1を貫いた日本と、5バックで日本に臨んできた韓国。真の勝者に輝くのは

10人になっても4-4-1を貫いた日本と、5バックで日本に臨んできた韓国。真の勝者に輝くのは

 中国、UAE、韓国を相手に2勝1敗。U-23アジアカップで日本は準々決勝進出を決めた。3戦ともとりわけ監督采配という点において見どころの多い試合だった。

 1-0で迎えた前半17分、西尾隆矢がレッドカードで退場するハプニングが起きた中国戦では、そこから10人でどう戦うかに注目が集まった。選択肢は大きく分けて2つ。それまで通り前からプレスを掛けに行くか。あるいは後方に多く人を配し、ゴール前を固め

もっとみる
いつ退任しても不思議ではない鬼木監督。狭き門を戦う大岩監督。サッカーは監督で決まる

いつ退任しても不思議ではない鬼木監督。狭き門を戦う大岩監督。サッカーは監督で決まる

「日本人監督の中では実績ナンバーワン」とは、2018年ロシアW杯後、田嶋幸三前会長が森保一を代表監督に招聘した理由について述べた台詞だ。

 2012年優勝、2013年優勝、2014年8位、2015年優勝、2016年6位。2017年は一転、シーズン中盤まで采配を振るも降格圏を脱せず、そこで解任の憂き目に遭う。これが、森保監督のサンフレッチ広島時代の成績だ。田嶋前会長はこの5シーズン半の実績を高く評

もっとみる
デニス・ベルカンプ、フランチェスコ・トッティ、ラウール……プレッシング全盛時代の10番はかくあるべし

デニス・ベルカンプ、フランチェスコ・トッティ、ラウール……プレッシング全盛時代の10番はかくあるべし

 ゲームメーカーが減少する一方でウイングが台頭。現代サッカーの傾向である。日本サッカー界もいつしか中盤に好素材がひしめき合う中盤天国からウイング天国に一変した。

 筆者が最初にその気配を感じたのは、1990年代前半のイタリアだった。日本では中盤天国の時代を迎えようとしていた時である。プレッシングという新しい波が到来していたイタリアでは、それに相応しい布陣だとして中盤フラット型の4-4-2が流行り

もっとみる
技術委員長の権威低下を招いた田嶋会長時代の8年間

技術委員長の権威低下を招いた田嶋会長時代の8年間

 サッカー協会の会長に宮本恒靖氏が就任した。47歳での就任は戦後では最年少とのこと。学年や年齢に基づく年功序列、先輩後輩の関係が色濃く残る日本式スポーツ社会において、若さは障害にならないか。

 サッカー協会の業績と何より関係深いものは、W杯における代表チームの成績である。宮本会長には自分より8歳年上の森保一代表監督に、解任を迫る時が訪れるかもしれないのだ。日本的な上下関係のコンセプトが、そこで障

もっとみる