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「おもしろい大学」を掲げる富山大学の齋藤学長にインタビュー

 富山大学の向かいにある面白ベース。

 名前の由来の一つには、富山大学のコンセプト「おもしろい大学」の理念への共感があります。

 齋藤滋 学長は、「皆が何かに没頭し“ワクワク”している大学」を創りたいと述べています。

 面白いと思えることには没頭でき、没頭できる対象なら失敗を恐れずどんどんチャレンジできる。そして、楽しんでチャレンジするうち、気づけばあっさりとすごいことができるようになっている。

 これが「面白ベース」で行動することの力だと僕らは信じています。

 さて、「おもしろい大学」をコンセプトに掲げている学長は「面白がる」ことについてどう考えているのでしょうか。

 貴重なお時間をいただき、インタビューさせていただきました。

齋藤学長の掲げる「おもしろい」大学像↑ 引用元:富山大学HP

<面白がれることが自分を特別にする>

 まずは、ご挨拶をして、学長に面白ベースの取り組みと僕らについてを紹介をしまして、名刺を交換。さっそく本題に入ります。

--面白いと思える分野を極めることが大事だと僕らは考えています。齋藤学長のお考えをお聞かせください。

齋藤学長:僕はずっと産婦人科の医者だったんだけども、医療の現場に出ると、学生時代は平均的に全分野ができて優秀だったような人がなかなか活躍できないんですよね。

 臨床の現場では、自分が面白いと思えて、誰に急かされなくても学びたくなるようなこと、これが得意だと言えることを持っている人が頼りになります。

 そういう尖った得意分野を持った3人か5人の常勤の医者が知恵を出し合って、治療方針を決めるんですが、意見を出し合う場では上下関係はなく、ベテランの先生でもここは俺は得意じゃないからと言って新人の先生に相談したりします。

 すべての人には、個性がありますよね。僕はこの分野が強い、だけどここは弱い。他方、他の人は僕の弱い部分が得意で面白いと思ってやれる。そういうことはあるわけです。

 それぞれが自分の得意を尖らせて、謙虚な姿勢でフラットに話し合い補い合って、健全な社会が成り立つんだと思いますね。

photo by kody

<人生で一番勉強した時>

--面白いと思えることってとことん追求できますよね。

齋藤学長:うん。僕もね、人生で一番勉強したのは、高校受験でも大学受験でもないんだよね。国家試験でもない。

 一番勉強したのは大学を卒業してからなんです。実際に患者さんを見るようになって、この患者さんをどうやって治したらいいんだろうって考えるようになってから人生で一番勉強しました。

 面白いものを見つけると、それまでは苦痛だったかもしれない勉強だって、苦痛じゃなくなるよね。

 今から40年以上前の当時は論文をあたるのも一苦労で、図書館にこもって何時間も探すところから始まるんです。好きじゃないとここまではなかなか続けられないですよね。

--たしかに。そうですね。

 面白いと思えることを突き詰められたら、社会に出てもすごく頼られるようになりますよ。僕自身の話で言えば、今でも覚えているのは新人だった時の症例検討会の一幕です。

 症例検討会というのは、この患者さんをどう治療しましょうかという会議のことね。当時は上下関係が厳しいから、教授が「こうしましょう」と言ったら口を揃えてはいそうしましょうというのが普通だったんです。

 でも僕はそれが面白くなくてね、色々勉強して「僕の読んだ論文にはこんなことが書いてありますよ」と物申したんです。

 後で医局長には怒られたんですが、当の教授は「なるほど!その論文貸してくれ」と耳を傾けて受け入れてくれました。

 そこから、当時としては珍しく意見を出し合う場ができて、その教授も「この場は完全にイーブンだ。上下関係はない。意見を出してくれ」とおっしゃってくれるから伸び伸びやれましたね。

--それぞれが尖った部分を極めて、フラットに意見を出し合うことが大事ですね。

photo by kody

<失敗を恐れずチャレンジすること>

齋藤学長:今までの日本の教育っていうのは平均点を上げる、そのためにすべての分野の点数を上げるというものでした。一つでも悪い部分があると劣等感を持たされるような教育だったんじゃないかと思います。

 世の中的にも、日本にはたとえば商品やサービスを作るときには完璧なものを作ってからじゃないと世に出してはいけないという空気がありますよね。

 だけど、アップルのiPhoneにしてもテスラにしても、海外だと70点くらいの出来のものを市場に出して走らせながらバージョンアップを続けていく形を取っています。失敗を恐れていないんですね。

 そういう姿勢を取れないことが今日本が世界の経済から取り残されている要因の一つじゃないでしょうか。

 一回も失敗せず大きな成功を収めた人なんてのはいませんから、失敗は何度したっていいんです。最終的に上手くいけばいい。できないところばかり見ないで、得意なところを尖らせていけばいいんです。

--何度失敗してもへこたれずに工夫し続けられるのは、それこそ面白いと思える分野だからなんですかね。

齋藤学長:そうだね。もちろん基礎的な学力は備えないといけないですよ。でもそこから先は自分のやりたいこと、面白いものを見つけて磨いていくことが大事です。

 尖ったところを一つじゃなくて、二つか三つくらいは持てるといいですね。社会が重宝してくれます。いろんな人が話を聞いてくれる。

 学生には、自分の面白いと思っているものを活かせる仕事に就いてほしいです。そうしたら社会人になってからもどんどん伸びるし、それを楽しめるとも思う。

 それから、一人だけで決めるんじゃなくて違った得意を持った人たちと協力して、それぞれが根拠を持って発言しながら相談して決めることを大事にしてほしいです。

 学生のうちにそういうトレーニングをしたら社会で活躍できるんじゃないですかね。

--ありがとうございます。

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<おもしろい大学の景色>

--学長の掲げる「おもしろい大学」が120%実現したらどんな会話が学内で起きていると思われますか?

齋藤学長:僕は、「みんなで創ろう、おもしろい大学」と言っています。

 もっと学生の方から「こういう講義をしてほしい」「大学にはこういう取り組みをしてほしい」と声が上がって、大学側も「じゃあ一緒になって作っていこうか」と動いていくようになっていたらいいですね。

 世の中どんどん変わっています。古典的なものも大事ですが、でも未来の学問を作っていくところは学生も教授もイーブンの立場だと思うんです。

 情報系とかIT系とかになると若い子の方が知識が豊富だよね。だから、立場によって相手を頭ごなしに否定するんではなくて、そういう意見も聞きながらブラッシュアップしていったらいい。

 ただし、それぞれが単に思いつきを好きに言い合うだけではダメだと思います。そうではなくて、自分で調べたらこうだったとか、データを集めて根拠を持って主張すること。

 この間ね、留学生の子から、「留学生を交えた形の懇親会をしてほしい」という要望があって、実際に企画が動いたんです。留学生50人ぐらい、日本人の学生50人くらいで交流会をしました。

 14カ国の学生が集まって、それぞれの国の民族衣装を着てくれたりと大変刺激的でした。一緒になって互いの文化を理解する機会を創出する機会をもっと作っていこうと思わされました。

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<面白いこと、得意なことを見つけるには?>

丸山さんはオンライン参加  photo by kody

--最後に、得意を伸ばすこと、面白いと思えることを見つけるのが大事なのはわかったのですが、それをどう見つけたら良いでしょうか?

齋藤学長:いろんなことに挑戦してみることです。そしたら自分はこういうことに向いているなとか、これやっている時の自分が一番生き生きしているなとかわかってきますよね。

 その過程で何度失敗したっていいと思います。最終的に成功するために、失敗からたくさん学んだらいいんです。

 僕もたくさん失敗して、「これはこうしたらダメなんだな」と思って、もっといいものを作ろうと修正を繰り返してここまで来ました。

 できないところを見て前に進むのをやめるんじゃなく、できるところを尖らせようという意識でどんどんチャレンジして行ってください。

--齋藤学長、貴重なお言葉ありがとうございました!全力で面白がって参ります!

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