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イスラエル伝説の正体

 「ユダヤ人は大昔にイスラエルの地を追われ、世界中をさまよい、長年の苦難を経て、ようやく祖国に帰ることが出来た」というストーリーを聞いたことがあるだろう。その正体をこれから明かそう。


数千年前の権利を主張する者たち

 たとえ話、その1。日本人の祖先はどこから来たか? モンゴル高原か東南アジアか? そこでこんな話はどうだろう。日本人がモンゴル高原に大挙おしかけて、「オレたちの先祖はここから来た。ここはオレたちの祖国だ」と日の丸たてて、建国する。多少とも手荒なことをして、そこに住んでいる人を追い出したりして。
 たとえ話、その2。源氏の末裔が現れて「鎌倉の町はオレのものだ。お前ら、出て行け」と言ったとしたらどうだろう。あるいは、徳川○○さんが現れて「江戸の町はオレのご先祖様のものだった。東京のヤツラ、みんな出て行け」と。
 まぁバカげた話である。頭が変だと思われてもしかたなかろう。仮に家系図なりが歴史的に正しかったとしても、通る話ではない。普通に考えれば、時効である。
 ところが、それをイスラエルは実行したのである。数千年前の権利を主張して、実力行使したのである。

 次に、では先ほどのストーリーは 歴史的に正しいのか? イスラエルの地を追われたという話は事実なのか? その子孫が今のイスラエルに住むユダヤ人なのか?
 ところでイスラエルに行ってみるとすぐにわかるのだが、ユダヤ人と言っても実は人種(肌の色)は様々である。アンネの日記のアンネのように白人のユダヤ人もいれば、アフリカ系黒人のユダヤ人もいる。アラブ系のユダヤ人も、東洋系のユダヤ人もいる。これは一体どういうことか? 同じ先祖を持つ人たちなのか? どういう経過をたどると、こうなるのか?
 それだけみても、先ほどのストーリーの歴史的信憑性は乏しいと言えそうだ。

 以上まとめると、「ユダヤ人が大昔にイスラエルから追い出されて・・・自分たちの祖国に帰ることができた」というストーリーについて、第1点「歴史的信憑性が非常に乏しいこと」、第2点「歴史的に正しいとしてもナンセンスであること」。にもかかわらず、そのストーリーはなぜか広く知られている。そして、現にユダヤ人たちが自分たちの国を持った

そのストーリーはどこから来たのか?

 さて、次の問題は「先のストーリーは一体何なのか?」ということだが、答えはあんがい単純である。先ほどのストーリーは、実は「旧約聖書の記述」そのままなのである。要するにそれは、ユダヤ教の教義なのだ。
 旧約聖書は、ユダヤ教の経典である。… 確かに他人の宗教を尊重することは大切だろうが、私たちはそれを鵜呑みにしてはならないし、その行動をそのまま認めてはならないはずだ。
 先ほどのストーリーは、次のように解釈するのが自然だろう。
 大昔、ある場所から追い出された人たちがいたらしい。それが事実で、その場所が今のイスラエル辺りだとするならば、その人たちは今でいう「アラブ人だった」と考えるのが自然である。・・・やがて、ユダヤ教が生まれ、そして世界中に広まった。ユダヤ人が世界をさまよったのではなく「ユダヤ教の信者が世界中で増えた」のである。
 ユダヤ教を信じるようになった人たちには、アラブ人もアフリカ人もいたが、ヨーロッパの白人が多かった。ヨーロッパはキリスト教が多数を占める社会である。そのヨーロッパで、ユダヤ人は差別・迫害を受けた。その最たるものは、ナチスドイツが行ったホロコーストである。
 彼らの信じる経典には「… 追い出され … 苦難を受けているが … いつの日か必ず祖国に帰ることができる。神がそのように約束した」ことが書かれている。それを実現したいという思い、迫害から逃れ安住の地を求める願い、それらがあいまってイスラエルが建国された。第2次世界大戦後のことである。
 が、その場所は無人の荒野ではなかった。追い出されたのはユダヤ人ではなく、パレスチナ人だった。ユダヤ人は自分たちの系図とはほとんど無関係の場所に国を作り、パレスチナ人は祖国を失った。… そして今に至る。

パレスチナ問題についてのよくある誤解3つ

 続いて、パレスチナ問題について、いろいろ誤解があると思うので、それについて書きます。

《誤解:その1》『イスラエルとパレスチナは何千年も前から争っている』
 エルサレムはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の3つの宗教の聖地である。その地には昔からユダヤ教徒もキリスト教徒もイスラム教徒も住んでいた。しかし、争いはなかった。少なくとも現在あるような争いは。
 なにしろ、宗教は違っても、言葉はみんなアラビア語、顔つきも肌の色も生活習慣も同じ。つまり、みんなアラブ人だったのだ。互いの宗教を尊重しながら、平和に暮らしていたことだろう。
 問題が起こったのは「ヨーロッパから大量のユダヤ人が来てから」である。イスラエル建国の前後にこの問題が始まったのであって、決して何千年間も続く争いではない。前の記事に書いたように「何千年」という話はユダヤ教の教義に基づくストーリーであって、実際は「ここ70年間の争い」である。

《誤解:その2》『イスラエル・パレスチナ間の戦争は互角の勝負である』
 イスラエルは国家であり、軍隊を持っている。パレスチナは難民であって、国家がない。イスラエルがパレスチナを支配している現状では、パレスチナ人は武器を持てない。
 パレスチナ人の戦いの基本形は「石を投げる」ことである。イスラエル軍が銃を撃ち、パレスチナ人が石を投げる。ニュースで時々耳にする「自爆攻撃」は、それくらいしか手段がないとも言えるわけだが、パレスチナが自爆攻撃すると、イスラエルは戦闘機で空爆する。そういうスタイルの争いを長年続けている。(パレスチナ自治政府ができてからも実態はそれほど変わっていないだろう)
 これを「戦争」もしくは「テロ」と呼ぶよりは「抵抗運動」と呼んだ方が実態に合っている、と私は思う。

《誤解:その3》『似たようなことは歴史上よくあることだ』
 この問題が特異なのは、イスラエルがパレスチナを「支配しながら、排除している」ことである。通常は、支配した後は支配された人たちを取り込むものである。アメリカの先住民にはアメリカの市民権がある。スペイン・ポルトガルは南米を征服したあと、南米に溶け込んだ。
 イスラエルは現在でも世界中のユダヤ人がイスラエルに移住するのを推進しながら、実効支配しているパレスチナ人に権利を与えていない。イスラエルでは国民の定義も、他の国とは違うようだ。
 「支配しながら、排除する」例を探すなら、かつての南アフリカにあった「アパルトヘイト」だろう。そのアパルトヘイトは今やなくなった。しょせんは 無理なやり方だったということではないのだろうか?

付記:イエス・キリストはユダヤ教徒のパレスチナ人だった

 イエス・キリスト(とされた人物)はユダヤ教徒のパレスチナ人だよ。
 彼はキリスト教徒じゃない。彼が磔にされた(たぶん死んだんだろな。復活したのかどうかは知らんが)後にキリスト教が始まったんだから、彼がキリスト教徒であったはずがない。彼は旧約聖書を手にしていたんだから、それが彼がユダヤ教徒であった動かぬ証拠さ。
 そして彼が活動していたのはエルサレム周辺。第二次世界大戦以前にその辺りに住んでいた人はパレスチナ人と呼ばれている。彼は今でいうアラブ系の人だったんだろうな。そして今のアラビア語に近い言葉をしゃべっていたはずだよ。つまり彼は今の分類でいえば、パレスチナ人ということになるね。

 それにしても、宗教戦争って、仕掛けるのはいつもヨーロッパ人なんじゃないかな。
 もともとエルサレムに住んでる人はみんなアラブ人で、言葉も一緒、文化も一緒、顔つきも一緒、ただ宗教が違うだけで、みんな互いに尊重し合って、仲良く暮らしていたのさ。そこにヨーロッパ人がちょっかいを出すの。

◇ 「聖地を奪還する」と言って、ローマ教会が〈十字軍〉を送り込む。
◇ 「故郷へ還る」と言って、ヨーロッパのユダヤ人が〈イスラエル〉建国。

 もともとそこに住んでるキリスト教徒やユダヤ教徒はそんなこと思いつきもしないさ。その発想は、植民地や奴隷を作るのと同じ発想で、ヨーロッパ人特有の発想なんだろうと思うよ。

◇      ◇      ◇

〜 イスラエル伝説の正体 〜
イスラエル伝説の正体   
湾岸危機からの帰国    
パレスチナ支配が終わるとき

◇      ◇      ◇

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