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「UQ HOLDER!」に学ぶ、ハーレムエンドの正しい選び方。

これまで何度も引用してきた『予想通りに不合理』や『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』の著者、ダン・アリエリーが窮地に陥っている。報告された研究成果の一部に、データの捏造が確認されたと報道があったのだ。

(こちらのブログがとても分かりやすい:本しゃぶり



アリエリーの著書は、突飛な実験系より得られたデータから思いも寄らない結論を導き出すという、研究者の理想が体現されたようなものであったが、実際は結論に合うような実験データが捏造されたという悲しい現実が暴かれてしまった。


ギリシア神話に登場するアッティカの強盗プロクルステスは、旅人を自分の寝台に寝かせ、旅人の体が寝台より長すぎると切り、短すぎると叩いて引き伸ばすという訳の分からない手法で強盗を繰り返していた。

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(プロクルステスの寝台:『さよなら絶望先生』5巻より引用 久米田康治著 画像引用先



現代において「プロクルステスの寝台」は、無理やり基準に一致させようとする、杓子定規の意で使われる。

確かに、N=20のうちひとつだけ意味不明な挙動を示すデータが出てきた時などは、綺麗な結論という寝台に乗せるために、「改竄してぇ〜!」と思うこともある。しかし、それをやってしまったら研究者としては、お終いである。

アリエリーは人間の持つ不合理さを提唱するために、データを切ったり叩いて伸ばしたりしてしまったのだろうか。


もちろん彼の研究データの全てが捏造というわけではないのだろうが、ひとつこのような事実が世に出てしまうと、他の研究成果についても疑いの眼差しを向けてしまわれても致し方ない。行動経済学の名著は、すっかり引用しにくい書籍となってしまった。


いくつもの実験データを積み重ねて得た面白い結論を提唱する行動経済学という学問は、思いもよらない方向へと転がり始めてしまった。そして、月刊少年マガジンで連載中の『UQ HOLDER!』もまた、予想の斜め上を行くような物語を展開し始めている。



学園ラブコメの続編は不死者バトル?

『UQ HOLDER!』は、『ラブひな』に代表されるラブコメ界の巨匠、赤松健先生の最新作である。前作『魔法先生ネギま!』の続編にあたるが、ラブコメであった前作とは異なり、バトル要素を強く押し出した不死者バトル漫画となっている。

時は2086年。九州・熊本県阿蘇郡のとある村に住む少年・近衛刀太は、いつか村を出て遠き都に立つ塔(軌道エレベータ)の上へ行き、仲間と共に夢を叶える事を心に誓う。(中略)育ての親である女性教師・雪姫と平穏に暮らしていた刀太だったが、ある日、賞金首であった雪姫を狙う賞金稼ぎの陰謀に巻き込まれ利用された形で、雪姫共々瀕死の重傷を負う。

『UQ HOLDER!』Wikipediaより引用



本作は当初、週刊少年マガジンで連載されていたが、3年ほど連載した後に月刊少年マガジンへと連載移籍をしている。月刊誌に移ってからは、よりバトルシーンに力を入れているのか、過激な描写が増えてきた。

主人公が不死者ということもあり、腕や首が飛びはねるのも当たり前、頭を貫かれたりするのも日常茶飯事だ。

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(見慣れた光景:『UQ HOLDER!』23巻より引用 赤松健著)



文字にしてみるとグロいこと極まりないのだが、赤松先生が描くと不思議とグロさがなくなる。このあたりは著者の技量の為せる技なのだろう。個人的には過度にグロさを強調する漫画は好みではないので、そういう意味では『UQ HOLDER!』は絶妙なポジションに収まっている。

また中2っぽい設定も多く、大人になりきれないオッサンには堪らない。ゴンさん化した刀太と神刀となった九郎丸の戦いには、ちょっと高揚した。

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(堪らんのよ、こういうの:『UQ HOLDER!』23巻より引用 赤松健著)



このように心躍るバトル漫画としての魅力がある一方、途中に挟まれるラブコメシーンこそが、やはりこの漫画の真髄なのだと私は思う。そこはラブコメ界の御大である赤松先生が描く以上、期待せずにはいられない。

本作では主人公・刀太の相手として、前作から引き続き登場する人気キャラのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、死に戻りの能力者である桜雨キリヱ、性別未分化の時坂九郎丸、イスカリオテのユダ(結城夏凜)の4人が候補としてあげられる。既にクセがすごい。


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(クセつよカルテット:『UQ HOLDER!』26巻より引用 赤松健著)


ちなみに私は桜雨キリヱ推しなのだが、最近の展開を見るに、キリヱは四つ巴の戦いの中では一歩リードしているように思える。なんとかこのまま逃げ切ってもらいたいところではあるが、大本命がいない近年のラブコメは何が起こるか分からない。予断を許さない状況が続いているといえる。



3%の幸せと97%の地獄

自分が推しているキャラクターが主人公と結ばれない時、私たちはなんとも言えない気持ちになる。

圧倒的人気によってゴリゴリのメインヒロインを下した『いちご100%』、東条推しはどんな気持ちで最終回を迎えたのだろう。人気投票で一位を取り続けていた三玖が選ばれなかった『五等分の花嫁』、三玖推しは四葉をどんな気持ちで見ていたのだろう。


ヒロインが複数いるラブコメは、推しキャラが必ずしも幸せになれるわけではないという、悲しい可能性を内包している。主人公は一人なので、ヒロインが増えれば増えるほど、当然推しキャラが選ばれなくなる可能性は高まる。

そして、その際たるが『UQ HOLDER!』の前日譚、『魔法先生ネギま!』だ。

先に述べた『いちご100%』のヒロインは4人、『五等分の花嫁』の5人に対して、ネギま!のヒロインは31人いる。

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(さぁ選べ!:『魔法先生ネギま!』1巻より引用 赤松健著 画像引用先



31人のうち選ばれるのは一人、確率にしておおよそ3%は幸せになれるが、残りの97%は地獄を見ることになる。

もちろんキャラの人気には偏りがあるし、メタ的な発言をすれば、人気キャラが主人公と結ばれる可能性が高いので、実際に幸せになれる確率は3%より高いだろう。

しかし、そんな読者の期待とは裏腹に、最終的に主人公・ネギと結ばれたヒロインは、猛烈に地味な長谷川千雨だった。

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(コイツ:『魔法先生ネギま!』1巻より引用 赤松健著)



1話時点の公式人気投票で千雨の人気は26位、最終回付近で猛烈な追い上げを見せるも最終順位は7位と、まさか主人公に選ばれるようなキャラになるとは思わなかった。そして千雨以外を応援していたファンは、きっと惨めに本を閉じたことだろう。

ちなみに私が密かに推していた柿崎美砂は、全8回行われた人気投票で最高順位13位、一時期は31位(最下位)と全く振るわず、最後まで日の目を見ることはなかった。

せめてキリヱには幸せになってもらいたい。

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(せめてお前だけはっ…!:『UQ HOLDER!』23巻より引用 赤松健著)



まさかのハーレムエンド?

そんなささやかな願いを胸に秘めつつ、最新刊を読んだところ、あまりの急展開に気絶した。刀太が、4人のヒロインのうち、九郎丸,夏凜,そしてキリヱの3人と合体したのだ。

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(合体:『UQ HOLDER!』26巻より引用 赤松健著)



いや、待て。



オーケー、分かった。ちょっとだけ時間が欲しい。


すっかりキリヱエンドだと油断していたら、1冊まるごと使って3人との合体シーンが展開されるとは夢にも思わなかった。というか、合体までの展開が早すぎて初見では何が起こったのか分からなかった。………いや、合体が起こったわけなんだけど。

ここに来て、まさかのハーレムエンドの様相を呈するという、まさに予想もつかない展開となった。



こうなると、声を大にして言いたいのが、「ハーレムエンドはネギま!でやってくれよ!」である。


ネギま!では、読者を31群に細分化するも、幸せになれたのはわずか3%だけだった。これに対し、ヒロイン4人の『UQ HOLDER!』は25%で報われる可能性がある。どう考えても、ハーレムエンドで箱推しさせるなら、ネギま!を選ぶべきだっただろうに。


しかしネギま!の主人公、ネギではハーレムエンドには至らなかった。刀太とネギの違いはなんだったのだろう。刀太は何故3人と合体し、ハーレムエンドへの道筋を選ぶことが出来たのだろうか?



合体したい男女の違い

膨大な性のデータを取り扱い、人間の性を理解しようとする書籍『性欲の科学』では、男女の合体したいと思うメカニズムが異なると主張している。具体的には、男性は身体的興奮と心理的興奮が連動するが、女性はその連動性が低い、とされている。

男性が性的興奮を覚えるときは、頭と体がはっきり連動している。しかし女性は連動しないのだ。なかには、女性の身体的興奮と心理的興奮の連動性が非常に低いので、女性の愛液の分泌は、女性のほんとうの気持ちの判断材料にはなりにくいと主張している学者もいる。

『性欲の科学』より引用 オギ・オーガス,サイ・ガダム著


Pfyzer社は狭心症の治療薬として5型ホスホジエステラーゼ阻害剤の臨床試験を行ったが、その治療効果は捗々しいものではなかった。しかし被験者からの「この薬は夫婦生活の改善に役に立つ」といった声から、勃起不全に効果があるということが新たに判明した。治療薬は冠動脈の血流は改善しなかったが、海綿体の血流改善には効果があったのだ。

こうして生まれたバイアグラは、Pfyzer社の株価を2倍に跳ね上げた。

このバイアグラの成功後、Pfyzer社をはじめ世界各国の大手製薬会社は、女性版バイアグラの開発に乗り出した。バイアグラの機序と同様に、性器周辺の血管を拡張する薬剤の臨床試験を行ったが、血流は確かに改善するものの、女性被験者が男性のように性的興奮を覚えることはなかった。



男性は身体が反応すれば心も興奮するため、バイアグラによって勃起すれば心もその気になる。しかし、女性は身体が反応しても心が追従しないため、薬剤だけでは性欲低下障害を改善することはなかった。性欲の合図となるものが、男女で明確に異なるのだ。


『性欲の科学』では、男女のこのような違いは、進化の過程で生まれたもののではないかと考察している。

女性は、何千年もの進化の過程で、自分を守るための無意識下のソフトウェアを作り上げたのではないだろうか。(中略)セックスが、妊娠や搾乳、10年以上にわたる子育てにつながることがあるのだ。そうした役割を全うするには、多大なリソースとエネルギーを必要とする。おかしな男とセックスしたら、悲惨な結果になる恐れがある。(中略)女性の性的欲望は、そうしたリスクの念入りなチェックを通じて、フィルターにかけられているのではないだろうか。

『性欲の科学』より引用 オギ・オーガス,サイ・ガダム著


性行為をきっかけに大きなリソースを要求されるかもしれない女性は、身体の興奮のみに従うのではなく、相手の肉体的資質や社会性を品定めする機能が身についたのではないか。これに対象への自分の感情を考慮することで、初めて心理的興奮を得る事ができる。

いわば、女性が合体したいと思うためには、対象と自分との物語が重要となってくるのだ。対象が問題ない人か、自分を大切にしてくれるかといったことを、合体に至るまでの物語(ストーリー)から判断し、女性を合体へと導くのだろう。


グラビアアイドルという職業が、ほとんど女性に限定されていることも、上記の主張を裏付けいる気がする。女性にとっては男性の肉体美だけ見ても、物語が欠けているため意味がないのだろう。

反対に男性には、おっぱいを見せておくだけで良い。疑う人は、中川翔子のYoutubeチャンネルを見ると良い。水着回の飛び抜けた再生数から男性の単純さを感じることが出来る。

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(見よ!この圧倒的再生数を!:『中川翔子の「ヲ」』より引用)



話を『UQ HOLDER!』に戻そう。

3人のヒロインと合体前、刀太は世界を救うために自らを犠牲にし、43年間世界樹と同化することで地球を守った。それから2年間、記憶喪失による放浪期間を経て、ヒロインたちと再開することとなる。

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(あれから45年:『UQ HORDER!』26巻より引用 赤松健著)



世界を救ったヒーローとの45年ぶりの再会、3人のヒロイン達にとって、運命を予感させるヒーローの素質としては申し分ない。合体へと導く物語は完全に整ったといえる。

特に夏凜は、自身も43年間宇宙空間を一人でさまよった挙げ句、恒星の重力に引かれて永遠と焼け死ぬ直前に、刀太と再開することになる。合体の一回や二回くらいしても、なんらおかしなことはない。キリヱ派の私もそれくらい許してあげようという気持ちになった。


もしあなたが意中の女性と合体したいなら、劇的な別れの後に45年ほど放浪するとよい。45年の間に他の男性との物語が整う可能性もあるが、ハーレムエンドを狙うには、多少のリスクは仕方がない。



え、刀太の準備は整ったのかって?そんなの、おっぱいでも見せとけよ

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(はい、整ったね:『UQ HOLDER!』26巻より引用 赤松健著)



女性より男性の方がペニス好き

しかし多様性が叫ばれる現代において、ヒーローのパートナーが女性だけとは限らない。

ヒロインの一人である九郎丸は、性別が未分化ゆえに、女性だけではなく男性の心も持ち合わせている。

キリヱや夏凜は、身体的興奮と心理的興奮を両立することで、合体に至ることが出来た。九郎丸にある女性の心も同様に、刀太のヒーローとしての資質と物語性に、心理的な興奮を得たことだろう。しかし、男性の心も持つ九郎丸の身体的興奮を得るにはどうすればよいのだろうか。

残念ながら刀太におっぱいはない。しかし、男性の性的関心がある身体的パーツを、刀太は持ち合わせている。ペニスだ。


女性よりも、男性のほうがペニスに興味があり、大きなペニスに対しても、男性のほうがはるかに強い関心がある。最近、18〜50歳の男女を対象にしたアンケート調査が実施され、5万人以上から回答を得た。それによると、女性回答者のうち、パートナーのペニスサイズに不満があると答えたのは15%だったが、男性回答者の45%が、もっと大きなペニスを望んでいると答えたという。

『性欲の科学』より引用 オギ・オーガス,サイ・ガダム著


この他に、ペニスを小さくしたいと思っている男性は、わずか0.2%しかいないという調査報告もある(Lever et al. (2006). Does size matter? Men's and women's views on penis size across the lifespan. Psychology of Men & Masculinity, 7(3), 129–143.)。アダルトサイトでもペニス関連の検索ワーズは多い。デカイペニスに興味津々だ。

本書には他にも男性がペニスに興味津々なことを示す例が、笑えるほど列挙されている。興味がある方は本書を読むことをオススメする。


さて、九郎丸が刀太と合体する直前、九郎丸は刀太のペニスの変化に気づくシーンがある。

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(気づいてしまった九郎丸:『UQ HOLDER!』26巻より引用 赤松健著)


この瞬間、九郎丸の中にある男性の心が身体的興奮を感じたのだろう。ここに合体へと至る舞台が整った。

男性をその気にさせたい時は、ペニスを利用しない手はないのだ。



まとめ

ここまでの結論を下記にまとめたい。

・女性と男性で、性欲の合図となるものは明確に異なる
・男性は身体的興奮と心理的興奮が連動するが、女性に連動性はない
・それゆえ、女性には心理的興奮を得るための”物語”が必要である
・物語を手に入れるには、劇的な別れの後に45年ほど放浪すると良い
・さらに相手が男性の場合は、ペニスを握らせると効果的


いかがだろうか?上記がスムーズにハーレムエンドを迎えたい場合の要点であると言える。原稿用紙16枚以上も書いて得た結論としては、「なんか違うな」というのが正直なところだ。

まさにプロクルステスの寝台的な感じにはなってしまったが、ハーレムエンドを目指したい方は是非参考にして頂ければ幸いだ。

そして実践した方はその成果を教えて頂きたい。45年間ほど気長に返答を待ちたいと思う。


それでは。

(今までの記事はコチラ:マガジン『大衆象を評す』

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