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あれから1年

「今夜から明日にかけて過去最強クラスの台風19号が関東地方を襲うでしょう」

そんなニュースが流れ、会社も今日は早く帰ろうと上司から呼びかけがかかっていた。窓には大粒の雨が当たり、外の景色すら見えない。

よりによってこの日にこの天気はないよな。

2019年10月11日。そんな天候ゆえに早めに会社を追い出された私は、都内某所で軽い食事をとながら外を眺め思っていた。

この日は楽しみにしていたライブを見に行く日だった。電車が止まる可能性も頭をよぎる夜。でも譲れないこの日を私は大切にしたいと思っていた。

とはいえ、天候のせいか体調があまりよくなかった。公演発表時から楽しみにしていたライブ。貴重な時間をどうしても逃してはいけないと、自分の体調をごまかし誤魔化し開場まで待っていた。同じ場所に行きそうな人がちらほらいる。みんなワクワクが止まらなそうな様子がわかる。私の心も同じだ。なのに身体がどうもピシッとしない。

時間になり私はライブハウスの入り口に向かう。チケットとドリンクチケットを受け取ると、バーカウンターへと向かった。

同じ料金ならお酒を飲んだほうが得だよね。

変な貧乏魂に私はアルコール飲料のメニューを見る。ものすごく飲みたいのに、なんか飲みたくない。このくらいならいいかと、本当の私ならジュースだと思うくらいのカシスオレンジをオーダーした。

席に向かい少しづつ飲む。

少しづつ。

そう少しづつ。

美味しい。だけど…

飲めない。

カシスオレンジが飲めない。

これが最後にお酒を飲んだ記憶。

あれから1年が経った。

あれから一滴もお酒を口にしていない。飲みたい気がないわけではない。むしろ飲み明かしたい夜もある。でも飲みたくないというのが本音。そのくらい身体からアラートがあった。

健康診断の結果が出て、総合病院でいろいろな検査して、点滴生活を送り、それでも改善しなくて、肝生検して、病名がわかり、ステロイド治療を開始し、気づけば休職…

お酒だけじゃなくて、1年間にさまざまな状況が変わった。

自分の身体への扱い。仕事への向き合い方。人との接し方。生活習慣。

私の生きがいって何だろう。

年を取るにつれて1年という月日がどんどん速くなっていく。ただ、その速さの中でも、何か出来事が起きて、人とのかかわりがあって、作り上げたコト、なくしたコト、壊れたり直したり、これまではそんなことを繰り返していたように思う。

今年はどうだ。

今までにはない時空がここにはあった。

ひたすら自分と見つめあう月日。

主治医の的確な判断もあり、今のところ治療は順調に進んでいる。副作用も、ちょっとの睡眠障害とそれによる倦怠感、そして肌荒れが気になる程度で、筋トレやマッサージの甲斐もありムーンフェイスなどもさほど気にならない状態で今日に至る。

仕事も幸いなことにお休みをいただくことができ、傷病手当を受給しながら少しゆっくりすることにした。本来ならば一番やりたかった仕事があったこのタイミング、それをあきらめて。

病気になって、「あきらめること」と「できること」を探す冒険にでたように思う。

「やりたいこと」を追い求めていた自分から、これからの自分に「できること」を見つける旅。

楽しさの価値も変わるのか。

何が幸せなのかわからないけど、できれば笑っていられたら。

お酒を飲まなくなってから1年がたつ。

もしまた誰かと飲むことができる日が来たならば、その時はこの気持ちを思い出すのかな。そんな風に思いながら、こんな歌を口ずさんでみる。

Cause the drinks bring back all the memories
Of everything we've been through


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