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ステロイド減量6回目(プレドニン10mg→8mg)
2021年3月26日。
そういえば、前回の病院の記録書きそびれたな。
そんなことを思いながら向かった病院は、この時期にしては強い日差しと満開の桜に囲まれていた。
ずっと記していた記録を忘れるくらい、私の身体は順調に回復していた。
一年前、2020年3月30日。私は自己免疫性肝炎を患っていることを告げられた。
ちょうど新型コロナウィルスに世界が騒ぎ始めた時期で、まもなく初めての緊急事態宣言が発令される、その直前の頃だった。
病名を知った私は、難病を患ったという事実を受け入れながらも、社会と同じく新型コロナウィルスに激しく動揺し、ただただ入院したくない、それだけだったことを思い出す。
病気という領域が、私の前に壁として現われることを強く恐れていたのかもしれない。たとえ一時であったとしても、ちょうど願っていたチャンス目前だった時期に、今まで培ってきたモノを手放して治療することが受け入れられなかったのかもしれない。
ただ、治療を開始し、回復の道を進む今でも、もし病気になっていなかったらと、時折考えてしまう。この病気を通じて失ったもの、やっぱりそれは大きかった。
普通に見たら失っているものなんかないように見えるのかもしれない。見えないように、必死になっている自分が、今ここにいる。そのくらい、病気により手に入れられなかったもの、なくしてしまったものが大きかった。
テレビや本では、病気になったからこそわかったこと、それを乗り越えて手に入れた新しい世界なんていう勇気が伝えられる。やっぱり、そんな境地にまで行ける人はすごいし尊敬する。私もそんな風になれたらよかったのに。
1年以上前の情景が頭に思い浮かんでは、そんな考えがよぎる日々が続いている。
「病気になって大切なのは諦めること」っていうのが私の本音だ。そのくらいひねくれているから、こんな人間なのかもしれないけど。
この一年でいっぱい失った。
近くにいてほしかった人を失った。やりたかった仕事も失った。心が不安定な時に大笑いできるたわいのない時間も失った。出かけたい、遊びたい、そんな風に思える体力も失った。(日常には全く差支えない元気はあるけど、突然体調がダルくなるときがあるんだ。いつそうなるかわからない。日常とは違う場所に行く勇気がでなくなってしまった。)
楽しい日常はたくさんある。ありがたいことに、ささいな幸せは山ほどある。いっぱい支えてくれる人もいる。夢はたくさんある。こんなことしてみたいって。でも私は本当の希望をみつけるパワーを失った。
診察室から名前が呼ばれた。
「薬減らそう。」
部屋に入るや否や先生が言った。
病名が告げられてから1年。入院治療とステロイドの服薬を通じて、モデルケースのように私は順調に回復しているんだろう。
とはいえ、正直自覚できる体調の改善がわからないのがこの病気の厄介なところ。薬の副作用で辛いことはあっても、自覚症状として改善しているものが見つからない。以前よりよくなったところと言えば、血液検査の数値だけ。それだから失ったものばかりに目が向いてしまうのだろうか。
白血球数 : 9.7 H
赤血球数 : 4.62
ヘモグロビン : 13.8
ヘマトクリット : 41.5
MCV : 89.8
MCH : 29.9
MCHC : 33.3
血小板数 : 230
PT : 87
PT-INR : 1.09
APTT : 31
APTT-Cont. : 29.7
フィブリノゲン定量 : 209
総蛋白 : 6.4 L
アルブミン : 4 L
総ビリルビン : 1
直接ビリルビン : 0.1
AST : 14
ALT : 13
乳酸脱水素酵素 : 131
アルカリフォスファターゼ : 41
γ-GTP : 15
コリンエステラーゼ : 204
中性脂肪 : 80
グルコース : 92
CRP : <0.03
アンモニア : 22
IgA : 112
IgG : 947
IgM : 154
「何ミリにしようかな」
先生はパソコンに映し出された結果を見ながら言う。
「8ミリにしよう」
目標としていた10mg/日を順調に乗り越え、ついにプレドニンが8mg/日になった。(前回の処方の残りを踏まえ、正確には3月31日から8mg。)
1日のプレドニン服用量
25mg*7日 → 20mg*10日 → 17.5mg*28日 → 15mg*59日 → 12.5mg*77日 → 10.0mg*77日 → 8.0mg*…
この1年で私に巻き起こった変化。その一方で変わると思っていたのに変わらなかった新型コロナウィルスの状況。
去年の今頃も桜は満開だったのだろうか。まったく思い出せない私は、来年の桜を笑顔で迎えられているのだろうか。
ヒュルリラ。
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