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いらなくなった物で人は繋がっている

来月、引っ越しをする。
今の家には、3年間住んだ。
物欲のない夫婦の2人暮らしではあるけれど、3年も暮らしていればなんだかんだで家には物が溢れていた。
引っ越しまでに、色々と整理しないといけない。

片付けをスタートすると、絶対にいらないものでもなんだかんだ取って置いてしまう僕と真逆で、断捨離好きな奥さんが家の片付けをすごいスピードで進めた。
不要だと判断した洋服をせっせと古着屋に持って行ったり、CDや本をメルカリでコツコツ売り捌いたりする様は尊敬に値した。

僕がボーッとしている間に家は片付き、残るは値段の付かなそうな不用品のみになった。
ゴミの日に出してしまおうか、どうしようかと考えた末に、こんな感じにすることにした。

無料でお取りください作戦である。
たまに近所でやっているのを見て、我が家でもやってみることにした。
ちょっとワクワクしながら、作戦を決行することにした。



はじめての出店日は、何も引き取られなかった。
住宅街の中にあるからねえ、難しいのかもねえ、つかこんなものいらないのかもねえ、なんて言い合った。

まあとりあえず続けようという結論になった翌日。
僕がリモートワーク中のことだった。
なにやら、家の前で話し声が聞こえてきた。

しばらく話し声が聞こえるので、気になって窓からこっそり覗いてみると、小さな男の子を連れた若いお母さんが、箱の中を覗き込んで、色々手に取ってみていた。

そして、ブレスレットを取り出して、自分の腕につけて、そのまま歩いて帰って行ったのだ。

すぐに奥さんに報告して、お互い喜び合った。
なんとも言えない幸福感だった。
金儲け出来た訳でも、自分達に特段メリットがあった訳でもないのに、なんだかすごく嬉しいのだ。
その後、次々と我が家の不用品は誰かの手に渡って行くことになる。

少年がテニスボールを取って早速壁当てする音が近所に鳴り響けば、追加で箱に入れたドラえもんのぬいぐるみを発見した登校中の小学生の女の子が歓声を上げて、下校の際に喜んで持って行った。
おばさんがエコバッグを持っていき、その後に街中で早速使っているのをみた時は思わず笑ってしまった。

物がなくなるたびに、嬉しさは増した。
僕らの生活で使っていた物が、違う誰かの生活の一部になると思うと、じんわりと心が温かくなるのだ。
会話はしていないし、これから先に交わることもないだろうし、交わったとしても分かり合って仲良くなるようなことも稀だと思うけれど、物を通してこんな気持ちになるとは思わなかった。


不用品を家の前に広げることで改めて考えてみて気付いたけれど、僕らはいらなくなった物を、手放さなくてはいけなくなった物を、他の誰かに譲るという行為を、日常的に意外とやっている。

前述した古着屋やメルカリ然り、古本屋もリサイクルショップも、ライブやスポーツのリセールシステムも。
もちろん、金銭が発生しているという違いはあるけれど。

ただ、欲しいから持っていた物を何らかの理由で手放し、それが違う誰かの大切なものになっている、というのは同じだ。
僕らは物を介して、誰かの役に立っているし、そうすることで誰かと繋がっている。

深く意識することもないけれど、意図せず誰かの為になっているってことは、世の中に意外とあるんだなあと思った。
そんな仕組みがたくさんあるこの世の中は、まだまだ捨てたものではないのかもしれないなあ、とも思った。
もちろん、チケット転売みたいな、システムを悪用する輩もいるのは確かだけれど。

先日、ドラえもんのぬいぐるみを持って行った小学生の女の子の家の前に、子どもの字で「無料でお取りください」と手書きで書いてある箱が置いてあった。
中身は小学生らしく、ノートや文房具のようで、またしても顔がニヤけてしまった。

リアルなコミュニティやSNSで、無理してでもわかり合おうとする人間関係も必要かもしれないけれど、ただただいらないものを差し出したり欲しいなあと思った物を受け取ったりするだけで、後になって人と繋がったことに気付くような人間関係も悪くないと思う。

あの女の子もそんな風に思って、またその気持ちが誰かに伝わって、物が循環していくようにこの気持ちが循環していく、そんなことになったら良いなあ。


ゆるりゆらり / DENIMS


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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