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もしかしてあなたも怒っている?

「Hi, I'm Tamaki」
菊川の映画館でそう話しかけると、白人男性の目が輝く。
「You really come here!!!」
サムは笑って握手を求めてくる。そしてパンフレットにサインをしてくれた。

サムは映像関係の仕事をしている。彼が何年もかけて作った戦争に関する映像作品の上映会があり、ちょうどタイミングが合ったのでお邪魔することにした。会場は50席ほどが満員。そして上映が始まると、多国籍な人たちがサムの作った映像を見つめ、息をのみ、凄惨な映像からも逃げずに、そのテーマに潜むいろいろな痛みを吸い込んでいた。

上映が終わり、私も心を痛めた一人だった。戦争の中にあるさまざまな不条理は、いつ自分の身に降りかかってもおかしくなく、家族や友人が犠牲になることさえあるのだという恐怖を久しぶりに思い出した。その感覚を、英語圏出身のサムも持っているということに、なんだか不思議な感じがした。第二次世界大戦の敗戦国である日本で育った自分だけではなく、違う立場にいた国で育った人にも同じ感覚が芽生えるのかと。

そして上映後、サイン会が行われていて、普段はあまりこういうときにサインとかをしてもらうタイプではないのだが、映像がとても良かったのでつい話しかけた。サムとご飯にいく約束をして分かれた。


後日。中野の居酒屋のカウンター席でサムと乾杯をした。サムは日本に数年住んでいるし、日本語の勉強もしているが、仕事が英語教師なのであまり日本語はうまくない。一方の私も英語が話せるというわけでもないため、基本的には英語で話し、どうしようもないときは互いに母国語で話して翻訳アプリを駆使しながら話していた。

「環は、イスラエルのことどう思っている?」
サムの口調に熱が入っているのを感じる。
「They are genocide かな?」
イスラエル側の愚行に心を痛めているということを伝えたかったが、ものすごいよくわからない英語になってしまった。ただサムは激しくうなずき、そして言語の壁でところどころ理解は出来なかったが、イスラエルに対する怒りを共有してくれた。

その後も社会的なテーマに話しが及んだ。性的少数者を取り巻く環境や世間からの目について、温室効果ガスなど環境問題に関するテーマについて、そして現在の政権について。サムは日本国籍ではないので選挙権を持たないが、そのことについても意見を交わした。

サムと話していて、正直話しは60%くらいしかわからなかった。というのも私の英語に関する能力がそこまで高くないからだ。ただ、サムが怒っていること、こうなれば良いと思っていること、そして切実に願っていることは100%といっていいほど理解ができた。自分と同じように社会に怒っている人がいることがうれしいし、心強いなと思った。


それから私は引っ越しをしてしまったので、しばらくサムとは会えていない。ただ今年の夏にあった高円寺の盆踊りのときにサムが会場にいて、本当に3、4分だが会うことができた。サムは元気だった。そしてまた絶対に会おうなって、わかったようなわからないような英語で話した。

きょうも街で同じように怒っている仲間がいるから、私もできることをやろうという気持ちになる。


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