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友達へのラブレター

例えばさ、俺が滌(でき)と付き合うって言ってたら、どうしていましたか?
多分、照れてニコニコして、でも急に顔が曇って、「やっぱり一人でもいたいからごめん」って言ったと思うよ。どう? 

最初は、滌の最寄り駅で会ったよね。
駅前にあるベンチに座って、スーパーで買ったお惣菜とビールを片手にずっと話してた。
生い立ちも仕事もそれとなく触れながら、でも一番盛り上がったのは将来の話。
広告とかメディアとか、そんな話をして、デザインや音楽、映画にも話が及んで、時間が足りなかった。

また別の日。幡ヶ谷でお茶してニコニコしてる時に、滌は「付き合おう」って言ったよね。でももう少し考えさせてくれと言ったのは俺です。
だけど、次に吉祥寺の公園で飲んだ時はパートナーができたよってバツの悪そうな顔で報告してきたよね。でも環くんが好きだって。俺は全然意味わかんなかったよ。だから距離を取るようにしました。どう接していいかわからなくなったから。

それなのに、いつもずるい時間に、ずるいタイミングで、ずるい頻度で連絡してきたのはそっちだよ。短い文で、俺を思ってるみたいに勘違いするような内容で。何だったのか全然わかんなかった。

電話もたくさんしたよね。
敬語混じりに始まって、徐々に打ち解ける空気は独特だったよ。くだらない話やカルチャーの話をを穏やかなトーンでするのは楽しいなと思った。堪らずにこっちから会おうよって言っても、会いましょうとは言うもののなかなか予定合わせてくれなかったよね。気づいてたよ。

君がパートナーと別れて、久しぶりに会った時も「よく喋るね」と笑っていた。
だけど、次の予定を決めたら、君ははぐらかしたよね。
俺はそこで、自分が滌に思っているこの感情は恋愛じゃなくて、友情なんだって気づいた。

なぜそう気づいたか。
それは滌がそもそも、人と人との距離を縮めるのを嫌がっていると気づいたから。
一緒に出かけることを、会う頻度についてを、自分が望んだ時だけに叶えられるようにしたいって思っているってことが、これまでの行動からも、会って話している内容からも垣間見えてしまった。

「自分はわがままで気が向かないとやれない」って棚上げして、俺と何かを一緒にやることを諦めている。
自分の人生だって言いながら、俺が生活に入ることを避けたんだよ。俺の目には逃げてると写った。

コミュニケーション能力とは。
この前考えていて、抱えきれる情報量なのかなと思った。
複数人の情報を覚えていることができて、尚且つその人に合わせて、会った時にその引き出しが開けられること。
知っているけど、俺はそれが得意。だけど、滌は苦手だよね。

苦手で構わないと思う。それは俺のように、自分で得意だと思う人が、滌のように苦手だと思う人を補っていけば良いと思うからね。
実際に、滌が「環くんはよく喋るね」って言ったように、そうやって関係性が成り立っているじゃん。

だけど、滌が俺を知ろうとしなくなってしまったら、関係は続かないと思う。
会って、話して、一緒にどこかに行ったりして、お互いのことがわかるんじゃないかな。
もちろんLINEのやり取りや電話でわかることもある。でも、それだけだと情報は限られてるし、君の見せたいものだけを、俺はみたくない。不意に分かるいろんなことだって知りたいよ。だから君とは恋愛はできない。友達として好きなことで繋がるだけしかできないよ。

拒絶とまではいかないけど、人の懐に入ることを止まってしまう滌にこの文章を送ります。こちらから手を差し伸べた時くらいはこっちに来てもいいのにさ。

また前みたいに半年くらい連絡取れなくなるのかな。
そして、夜の9時とか10時に、「こんばんは」ってLINEが届くのかな。それがくることも、待ってる自分も嫌だな。

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