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自分が教えてくれた道標

自分の中に”漫画の主人公っぽさ”を感じたことがある。


大学1年も終わりを迎えた2011年3月。
母校の高校男子バレーボール部で、3年生を送る会が開かれた。
自分の一つ下の学年が卒業するのに合わせ、先輩や後輩たちが集まって、バレーボールをしたり、ジュースやお菓子片手にしゃべりながら思い出をわちゃわちゃと話す会だ。

その会では一番最後に、卒業する子たちが部活の思い出を語る。
しんみりしたり、懐かしんだり、笑ったり。
みんなで思い出を語るその場の空気がとても好きだった。

一つ学年が下の後輩は全部で6人。
キャプテンだった剛が全体に向け最後の挨拶を始めたとき、はっきりと私の顔を見つめながら力を込めた。

「僕は高校生からバレーボールを始めました。
運良く1年生のころからAチームに入れてもらえましたが、レギュラーになれるかなれないか微妙な感じで。ある日、なかなかレギュラーとして使ってもらえないときに環先輩が言ってくれたことを今でも覚えています。『必ず這い上がってこいよ』って。練習試合中のことだったんですけど、そこから頑張ろうって思って、たくさん努力しました。先輩たちと関東大会に行けたことは僕の思い出です」

周りの視線が私に集まるのを感じた。
確かに覚えている。
体育館のあのあたりで、睨むくらいの勢いで剛に言ったことを。
腹をこづきながら、精一杯の思いを込めて言葉を発したことも。
センスがあって、やる気があって、聡明。そんな剛を絶対に潰したくないと思ってのことだった。
「いや〜」と頭をかきながら照れるふりをして周りに少し笑いを与えて乗り切ったが、私は心底嬉しかった。

私にとって一つ学年が下の子たちは、特別だった。
なぜなら同級生の部員と仲が悪かった(!)私にとって、唯一、相談や愚痴、弱音さえも吐ける人たちだったからだ。

「こういう戦術のバレーボールがしたい」
「レシーブ練習を付き合ってくれ」
「トスの位置を確認して」

いろいろなことを手伝ってもらいながら、あーでもない、こーでもないとバレーボール談義に花を咲かせ、休日も一緒にバレーボールをしていた。
その時は「後輩たちを育てよう!」という思いよりは、「俺がバレーボールをうまくなるために頼むから手伝ってくれ」という感じだった。
そして、「俺らが強くなるためにはお前らの力が必要だ」という考えで、後輩たちに色々なアクションを起こしていたのだと思う。

剛の話を聞いて、他にもさまざまな後輩との思い出が蘇った。
「もうどうしたらいいのか分からない」と体育館の階段で泣いていた同じポジションの後輩と、たくさん話し合ったこと。
剛よりも多く試合に出ていた高身長の後輩と何度もしたスパイク練習。
毎日一緒に帰りながら愚痴を言い合った後輩との帰り道。
「環先輩から心意気を学びました」と言って、マネージャー業に汗を流す後輩の姿。
自分がこんなにも後輩たちと深く関わってきたのだなと、胸にじわりとくるものがあった。

そして思うのは、そんな彼らの中に残った自分の姿が、自分の道標にもなるということだ。
私は大学に入り体育会の男子バレーボール部に所属した。外形的には高校生のころと同じことをしていた。
ただ、内容は全然異なり、高校生の頃よりも実力・精神ともに稚拙な先輩後輩を”教育”(もはや説得?)するところから部活動がスタートしていた。

「クラブ帰りに部活くるとか舐めてんのか?」と後輩に説教。
経験がないからそんなにうまくプレーができないと不貞腐れる同級生と練習後も2〜3時間に及ぶ説明と説得。
練習を適当に流す先輩への圧力と反抗などなど。
大学でも骨が折れることが多々あった。

「俺はこんなことを大学生になってもやっていていいのか」
そんな迷いが脳裏に掠めることは何度もあった。
だけど、剛が私からもらったという熱意を持ち続けてくれたことを聞いたとき、私はもう一度誰かに熱意や気づきを与えることができるかもしれないと思えたのだ。

結局、私は大学のバレーボール部に大学を卒業するまで所属し続けたし、先輩や後輩たちにも逃げずに諦めずに対峙することができた。
先輩や後輩たちも立派に成長し、大手企業に就職したときは、俺のおかげもあるかななんて自惚れたりもしたものだ。

剛が受け継いでくれた私の熱意。
そしてその熱意を自分に戻してもらったように思う。
自分が行動し、努力し続けてきた姿勢が、未来の自分の道標になったのだ。



ステージは代わり、今は社会人として仕事に励んでいる。
部活動のように単純にいかないことも多いが、自分が行動し続けた先に、きっと同じように実るものがあるのだと信じることができる。

そしてまた迷ったら、その自分の足跡を見て、時に友達たちに話を聞いて、道標にしていこうと思う。


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