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傘を持ったが雨は降らず。


午後から雨が降ると天気予報で言っていたので傘を持って歩いていた。けれど、夜になっても雨は降らなかった。
歩道橋を歩きながら、少しだけ腹を立てて、寂しくなっている。

そんな僕の横で彼は、
「怒りっぽい人というのは、自分をどこかで賢いと思っている」
と言った。
つまり、見下している相手に対し、こちらの思うようにコントロールできていないことに、腹を立てているのだという。

「だから、怒りはコントロールできるようになった方が良い」
と、彼は続ける。

そんな簡単に言うなよ。と、口に出そうと思ったが、言わなかった。
「だって、僕は天気予報を信じて一日中傘を持ち歩いていたんだぜ」
「それはそれ。ただ、雨が降らなかっただけの事さ」
「むっちゃ、腹立つ、ぐらい言ったって良いじゃないか」
「それで気が済むんならね」

彼と別れて、バスに乗った時、窓にパラパラと、雨粒が当たった。
「……」

僕は少しだけ傘を撫でた。

バスから降りると、雨は止んでいた。

「……」
まあ、雨が止んだだけじゃないか。
と、事実を受け止めようと努めた。

傘を持っている自分。ふと、情けなくなる。そして、彼が言っていた言葉が過った。
「怒りっぽい人というのは、自分をどこかで賢いと思っている」

別に賢いなんて思っていない。誰かを見下したくなんかない。
出来れば友達が欲しい。
くだらないことを言ったりして、励ましあったり、勇気をもらったり、笑いあったり、どうしようもなく虚しくなった時に、一緒に喫茶店で無言の時間を大事に出来るようになりたい。

「雨が止んだだけじゃないか……」
と、言い聞かせるように呟いた。

僕は、耳にイヤホンをつけ、浅香唯の「Dawn Dawn」を聴きながら帰り道を歩いた。

だけど、もう、忘れる。
やっぱり君が好きさ。

と、口ずさみながら。


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