楽しいも色々ある。
塾の帰り。
繁華街を抜け、マックで夕食。
寂しい。
なんとなく帰りたくない。
二十分ぐらいなら寄り道しても、親に何か言われることもないだろうと、ブラブラ歩く。
古本屋を見つける。
入ってみる。お客は誰もいない。
店主のおじさん。
何か読んでる。
「……」
僕は何が読みたいのだろう。と、思う。
時間もない。
寂しさ。ずっと「当日」が来ないような、ひたすら「積み重ね」のような日々。
少し勇気を出し店主に話しかけてみる。
「すみません」
店主が顔を上げる。
「……楽しくなるような本、ありませんか?」
漠然な質問。唐突で不自然。
けれど、切実でもあった。最悪、二度と来なければいいんだと、気持ちに保険を掛ける。
店主は、無言で僕の顔を見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
店内を歩き、戻ってきた。
「楽しいも色々ある」
と、言い、三冊。
村上春樹「海辺のカフカ」、手塚治虫「ブラックジャック」、浅香唯写真集「優しく見つめて…」
「人生の分かれ目だ。選べ」
そう提示され、僕はその三冊を見つめる。
どうしても浅香唯写真集「優しく見つめて…」に目が行ってしまう。
けれど、僕は……、
と、村上春樹「海辺のカフカ」を手にする。
「ふうん」
と、店主が言った。
「じゃ、それやるから」
「え?」
「読んだらまた来な。選んでやるから」
「あ、ありがとう」
僕は店を出た。
帰りのバスの中で、窓の外を眺めながら浅香唯写真集「優しく見つめて…」のことばかり過ったが、小さく溜息を吐き、村上春樹の「海辺のカフカ」を読み始めた。
何か秘密を抱えている気持ちがして少し嬉しかった。
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