大久保剛史

salus populi est suprema lex. 小説書いたり、ホースセラピ…

大久保剛史

salus populi est suprema lex. 小説書いたり、ホースセラピー勉強したりしてます。

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【小説】ホースキャッチ2-7

 夏になった。里紗は一人放牧場で馬を捕まえようとしていた。深緑の葉が生い茂る樹々の木陰で牧場にきたばかりの白毛の馬が草を食べている。樹々の足元では遅咲きのヤマユリがあちらこちら白い顔を出している。里紗は一歩一歩馬に近づいていく。馬は逃げない。里紗が隣に立つと、馬は草を食べるのをやめ、ひょいと首をあげて、里紗の方を向いた。里紗は無口をつなぎ、厩舎まで連れ帰った。馬は里紗の隣をゆっくりと歩いた。  厩舎に着くと、里紗はその馬に馬装をして馬場に入って行った。里紗は乗馬を陸人から時

    • 【小説】ホースキャッチ2−6

      その日家に帰ると里紗は二週間ほどベッドから起き上がることが出来なかった。心の奥底に張ったはずの結界が解かれた。様々な感情や情念が噴出した。どこにも向けられない怒り、顫えるような悲しみや苦しみ、痺れるような疼きといったものが、涙とともに堰を切ったように溢れ出てきた。『これまでの私の人生は一体何だったのだろう。私は私の欲しいものを分かっていなかった』  里紗はこれらの溢れ出てくるものに、逃げることなく向き合った。向き合い、ただ感じて、感じ抜いた。時間とは不思議なもので、逃げてい

      • 【小説】ホースキャッチ2−5

        翌週、里紗はまた牧場を訪れた。  瑛太だけでなく今日は教授も一緒に待っていた。 「里紗さん、こんにちは。よかったら今日は放牧場を見に行かないかい?」と教授は言った。 「はい。放牧場があるんですね」  三人は裏の小径をゆっくりと歩いた。二、三分歩くと目の前に放牧場が広がってきた  森に囲まれた放牧場はそびえ立つ樹々に囲まれて周辺の市街地と明確に区別された空間で、街の雑音は全く聞こえず、ウグイスやメジロなどの囀りのみが響き渡っていた。雑草を黙々と食べている馬が何頭かいた

        • 【小説】ホースキャッチ2−4

           里紗は、職場の上司に連絡を取り、翌週会う約束をした。  里紗は大学を卒業してから大手の商社に就職していた。亮介と同じくキャリア志向が強い彼女は入社してから数年は営業企画の仕事につき、身を粉にする働きぶりで、同世代では目立つ存在となっていった。さらに彼女は生来の面倒見の良い性格から、本来業務とは別に、いつの間にか同僚から仕事やプライベートな悩みなどをあれやこれやと相談されるようになっていった。 「最近新卒で入ってきた奴らはほんと働かないよな。上司が七くらい言えば十やるのが

        【小説】ホースキャッチ2-7

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        • 株式会社Salusエピソード1
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        • 【小説】ホースキャッチ
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        • この国のかたち
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        • 気づき
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        • テックとまちづくり
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        • 東京アースダイバー
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          【小説】ホースキャッチ2−3

          一週間後、再び里紗は牧場を訪れた。 「今回は引き馬だけじゃなくて、調馬索もやってみようか。調馬索は馬を運動させるためにやるものなんだ」 「調馬索? それって馬の調教でやる、あれ?……」 「うん。そう」瑛太はニコッと笑った。  今日は長方形の馬場の隣にある丸馬場に向かった。  瑛太は調馬索の手本を見せた。 「まずこの調馬索という長いロープを馬の頭絡に繋いで、自分は馬場の真ん中に立つ。左周りに動かすときは左手でロープをもって、右手にはこのムチをもつ。段々とロープを長く

          【小説】ホースキャッチ2−3

          【小説】ホースキャッチ2−2

          里紗はクラブハウスに入り、汚れてもいい服に着替え、鏡に写る久しぶりに化粧をした自分の顔を見ながら、髪を縛った。 「じゃあ前みたいに今日も馬房の掃除から始めようか。馬はまたキャナルがいいかな」  里紗は少し緊張した様子でキャナルの馬房の扉を開けて無口を付けようとした。前回は容易く付けられたはずの無口がなかなか付けられなかった。馬は頭を前後に振ったり、横に向けたり、歯を出して小馬鹿にした表情を見せた。  その様子を見ていた瑛太が、「こら、キャナル!」と大きな声を出すと、馬は

          【小説】ホースキャッチ2−2

          【小説】ホースキャッチ2−1

           曙光の春。まだ手の届きそうな太陽と生暖かい風が生命に新たな息吹を吹き込み、舞踏する大地と春しぐれが芽生えた生命を地上へと誘う。春の引力は流転するあらゆる生命に再生を促す。  人もまた春の引力に抗うことなく、前を向かなくてはならない。絶望の中に芽生える希望と希望の中に渦巻く不安に翻弄されながらも歩みを止めてはならない。 「あぁ、楽になりつつあるな」  四月になり、里紗の体調は回復の兆しを見せた。堂々巡りだった思考の混乱は収まり、どんよりとした自己嫌悪感もなくなりつつあっ

          【小説】ホースキャッチ2−1

          【小説】ホースキャッチ1−5

          教授が今年に入り初めて牧場に顔を見せた。教授はカウボーイハットを被り、手には土産物らしきものを持っていた。 「久しぶりだね。瑛太くん。一月二月はアメリカに出張していてね。ホースセラピーの研究のために時々行っているんだ」と言って教授は瑛太に手に持っていたお土産を渡した。  教授は五年程前からこの牧場の乗馬会員で、毎週のように通っていた。  通常の会員は乗馬だけで他のことはあまりしないが、教授は自ら望んで馬房の掃除や餌やりなど馬の世話もするという風変わりな教授だった。最近は

          【小説】ホースキャッチ1−5

          【小説】ホースキャッチ1−4

           母の黙々とした世話と父の無言の優しさにより、里紗の心は少しずつ落ち着きつつあった。気分が良い日には散歩をしたり、母の買い物に付き合ったり、外に出ることができるようになっていった。頭をどんよりと覆っていたものが消えつつあり、幾分ものを考えることもできるようになった。しかしものを考えられるようになると、考えることは自己嫌悪を募らせることばかりだった。こんなことになってしまった自分が情けない、自分はダメな人間かもしれない、そんなことばかりが頭の中を駆け巡る。これなら何も考えられな

          【小説】ホースキャッチ1−4

          【小説】ホースキャッチ1−3

          里紗の妹と弟は旅行に行くやら仕事が忙しいやらで、今年の正月は実家に帰ってこなかったので、里紗は父と母と三人で静かに年を越した。父も母も、彼女がどうしてうつになってしまったのか、仕事が原因なのかプライベートが原因なのか、何が起こったのか、今はどんな気持ちでいるのかなど聞きたいことは山ほどあるはずなのに、何も聞くことはなく、たまに話すことといえばたわいもないことばかりで、里紗はそんな心遣いをありがたく思った。長時間無言でいても気まずくならない家族特有の空気感も手伝い、彼女の心を安

          【小説】ホースキャッチ1−3

          【小説】ホースキャッチ1−2

           少し前から里紗は何となく体調がよくないと自分でも感じていた。仕事は忙しかったが、これまでも仕事が忙しいことが苦になったことはなく、一ヶ月休みなく働いても平気だった。プライベートでもストレスになる悩みごとがあるわけでもなく、今の不調の原因が自分でもよく分からなかった。  朝早く目が覚めてしまうことが何日か前から続いていた。もう少し寝たいと思っても眠ることができなかった。いつもの起きる時間になったのでベッドから出ようとすると、首と肩が鉄板でも入っているかのように重く固かった。

          【小説】ホースキャッチ1−2

          【小説】ホースキャッチ1-1

          あらすじ  大手企業に就職して順調にキャリアを積みあげてきた30代の里紗は突然心を病んでしまう。突然の心の不調に里紗は戸惑う。そんな里紗を心配した幼なじみの瑛太は自分の働く馬の牧場に彼女を誘う。そこで里紗はホースセラピーに出会い、これまでのキャリア人生とは全く違う世界観を体感し、本来の自分を取り戻していく。 第1話  秋はあらゆるものを実らせ、束の間の生の喜びをもたらし、美しい深い調べを奏でる。その反面、非情で恐ろしく吹き荒れる力を持ち合わせ、人を夏の夢から目覚めさせ、あら

          【小説】ホースキャッチ1-1

          自由と秩序

          さてさて、どこから始めたらいいでしょうか。 かつては僕も西洋文明の知的かつ倫理的な到達点の高さに憧れ地団駄をふみ、英国の文学とかドイツ哲学とかロシア文学とか読み漁りました。 ロシアを理解するならやっぱりドストエフスキーの大審問官の世界観だし、ドイツを理解するならやっぱりニーチェの善悪の彼岸とかだし、英国を理解するならTSエリオットの荒地とかバーナードショーの人と超人だなと読み漁り、フランスは革命を起こして自由と平等と博愛を国民が勝ち取ったんだなかっこいいなー、とか、 19世紀

          自由と秩序

          馬は常にマインドフルネス

          よりたさんという馬のプロフェッショナルから時々ホースセラピーとか馬のいる暮らしとかについて習っています。 よりたさんはEcfol(Equine centered form of life)と名づけています。 馬は常にマインドフルネスというかエゴがないというか空というか自由というか自然体というか忖度しないというかそういうふうに存在している生き物なんです(なんだそうです)。 馬は食べてる時以外はほとんど座禅とか瞑想している状態なんだそうです(自然の中にいるか、きちんと正しく調教

          馬は常にマインドフルネス

          「自分らしく生きる」について考える

           さて、息抜き、息抜き。  去年、近所に新しいプールができたので、時々泳ぎに行っている。  ここ10年以上まともに運動をしていなかったのだけど、数ヶ月継続的に続けたら心身ともにすこぶる調子が良い気がしていて、調子に乗って最近はRunまで始めてしまった。自転車は数年前に買うだけ買ってあんまり乗ってないけど、このまま行くといつかはトライアスロンデビューも夢じゃない気がしている。  水泳は小さい頃に無理やり親に習わされたおかげで結構得意なので、小学生の頃の地域の大会なんかでは常

          「自分らしく生きる」について考える

          馬から学ぶリーダーシップ(十勝千年の森編)

          ケーススタディ 場所 十勝千年の森 対象 ・飲食店経営者 Oさん     (都内で複数店舗を展開)    ・飲食店店長  Yさん 馬プログラムの指導者 Tさん Oさんの課題  現在、業態を変えて複数店舗展開をしている飲食店を倍以上の数に増やしていきたい。そのためには複数店舗の管理を任せられるマネージャー候補の育成などが必要。 Yさんの課題  飲食店店長。人材の入れ替わりの激しい飲食店において安定的な人材の確保や育成などが必要。 目的 ざっくりとではあるが、上記のような課

          馬から学ぶリーダーシップ(十勝千年の森編)