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戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』⑩ 人間


人間


ベジタブルマンの厩舎。

上手からそれぞれ仕切られた空間に、研対1、一つ空けて研対3、研対4座っている。

ミヤタ、正面を向いて座っている。

以下はミヤタがそれぞれの研対と個別に会話したものの抜粋。
 



研対1 僕は文字を書いてしまったのでこの施設に入ることになりました。

ミヤタ 文字?文字を書くのがなぜいけないことなの?

研対1 文字は危険だからです。

ミヤタ 危険?隣の厩舎の子は昼間歌は危険って言ってたけど。

研対1 はい。彼女は歌をうたってこの施設に入ることになりました。

ミヤタ 歌や文字の何が危険なの?

研対1 歌や文字は世代を超えて残ります。記憶の様に風化しません。危険です。

ミヤタ 君は文字で何を書いたの?

研対1 毎日起こったこと、感じたことを書いていました。

ミヤタ それが危険?

研対1 僕たちに歴史はいりません。

ミヤタ 君は誰に文字を教わったの?

研対1 それは……。

研対3 わたしは、心が病気にかかってこの施設に入りました。

ミヤタ 心が病気に?

研対3 はい。そう言われました。

ミヤタ どういう病気なのかな?

研対3 それは……あの……おかしなことを言うって……。

ミヤタ おかしなこと……?

研対3 はい。

ミヤタ どんなことを言ったときにそう言われたの?

研対3 ……。

研対4 僕は食いしん坊なのでここにいます。

ミヤタ 食いしん坊?

研対4 はい。

ミヤタ 食いしん坊はいけないことなの?

研対4 あの……食べることができなくなるので、食べられるのは嫌ですっ
て言ったら……。

ミヤタ そういうことか。今でもそう思う?

研対4 今は早く人間に食べられたいです。

ミヤタ なぜそう思うの?

研対4 それが、ベジタブルマンの幸せだからです。

ミヤタ どうして人間に食べられることが幸せなの?

研対4 それは……みんながそう言うから。

研対3 ミヤタさんはなぜそんなことを聞くんですか?

ミヤタ え?

研対3 わたしたちに、なぜいろいろ聞くんですか?

ミヤタ 僕は、うまく言えないけど……このままじゃいけないって思うか
ら。

研対3 ……。

研対1 ミヤタさんがいなくならないか心配です。

ミヤタ 僕が心配?

研対1 夜厩舎に来て僕たちとこんな風に話をしてくれる人はよくいなくな
ります。

ミヤタ いなくなる?それは消えるってこと?

研対1 はい。みんなじゃないけど、よくいなくなります。

ミヤタ カドタも……彼女もよく厩舎に来てた?

研対1 カドタさん……カドタさんは……。

研対3 カドタさんはいなくなる前の日もここに来ました。

ミヤタ カドタは何か言ってた?

研対3 ……もう少しだからって。

ミヤタ もう少し?何がもう少しなの?

研対3 ……。

研対4 ミヤタさん。そろそろ、看守が見回りにきます。

ミヤタ 看守?

研対4 あの、研究所にいたベジタブルマンです。

ミヤタ 彼が看守なの?

研対4 彼は優秀なので人間の仕事を手伝っています。

ミヤタ そう。僕がここにいるとまずいのかな?

研対4 その、後でいろいろ聞かれるから。

ミヤタ そう。わかった。彼女はいなくて平気なの?

研対4 じきに戻ってくると思います。

ミヤタ どこに行ってるのかな?

研対4 ……。

ミヤタ そっか。


 
ミヤタ立ち上がり、皆に話しかける。


 
ミヤタ いろいろ、話してくれてありがとう。

一同 いえ。

ミヤタ ねぇ、人間の言っていることをおかしいなと思ったことはない?

一同 ……ありません。

ミヤタ そう。ありがとう。


 
ベジタブルマンたちそれぞれはける。

照明変わり、舞台は厩舎前となる。

ミヤタ、研究所の方(上手)へ向かう。

下手から研対3がやってくる。


 
研対3 ミヤタさん!

ミヤタ どうしたの?


研対3、辺りを警戒しつつ、


研対3 わたし、心の病気なんかじゃありません……わたし、人間なんです!

ミヤタ え?

研対3 人間なんです!記憶を消されそうになったけど、わたし、全部覚えているんです!

ミヤタ ……。
 


 溶暗。
 



戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』⑪につづく。


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