見出し画像

戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』⑪ 「助けて」 


「助けて」



暗転中。

カドタとミヤタの電話の音声。

この間に研究所ロビーに場面転換。
 


カドタ ねぇ、ちょっと聞いてんのあんた?

ミヤタ 聞いてるよ。

カドタ で、どうなのよ、女できたの?

ミヤタ うるさいなぁ、まだだよ。

カドタ まだって何よまだって。あんたホントダメねぇ。

ミヤタ は?

カドタ あんたね、ただ生きてたらその内自然に女できるとでも思ってんじゃないの?

ミヤタ そんなこと思ってないよ。

カドタ だってまだってそういうことでしょ?いつかはできるけど今はまだってことでしょ?

ミヤタ そりゃいつかは――

カドタ 無理無理無理無理無理無理!

ミヤタ は?

カドタ あんたそうやってね、のんびり構えてる間にあんたみたいなタイプは気が付きゃ四十、五十になってんのよ。

ミヤタ うるせぇなぁ。大きなお世話だよ。

カドタ ちょっと、あんた大きなお世話焼いてもらえるだけありがたいと思いなさいよ。あんたの周りにこんなこと言ってくれる人いるの?

ミヤタ 何が。

カドタ 「何が」じゃないでしょ。あんたどうせ局の中でも浮いてるんでしょ?

ミヤタ うるっせぇなぁ、何なんだよいきなりかけてきたと思ったらこの電話。用ないなら切るぞ。

カドタ ちょ、ちょっと待ちなさいよ!同期が久々に電話してんだからもうちょっと世間話に付き合いなさいよ!

ミヤタ だったらもうちょっとこっちが話したくなるような態度があるだろ。

カドタ お、言うじゃん。何あんた最近セックスしたの?

ミヤタ は?何でそうなんだよ?

カドタ 何か自信つけたみたいだから。

ミヤタ あのな、俺のことどうしようもないみたいに扱うのお前だけだからな。俺だって言うときは言うし、やるときはやるんだよ。

カドタ いやそれほどのこと言ってないよ。

ミヤタ は?

カドタ そんなカッコつけていいほどのこと言ってないから今!

ミヤタ うるせぇな。

カドタ ま、でもやるときゃやるっていうのは、そうかもね。

ミヤタ は?

カドタ 酒の席で上司ぶん殴って将来棒に振るんだもんね。

ミヤタ ……。     「(カドタの声)助けて」

カドタ いや、やるときゃやるっていうよりはやっちゃうときはやっちゃうの方が正しいか!

ミヤタ っせーなぁ!

カドタ ……まだいるの?あのセクハラおやじ。

ミヤタ え?……春の人事で部長に昇進したよ。

カドタ あら、あんたますます将来真っ暗だねぇ。

ミヤタ ほっとけよ。お前には関係ないだろ。

カドタ そうよ。わたしには関係ないんだからね。あんたが酔っぱらって気がおっきくなって勝手にやっちゃったんだからね。 「助けて」

ミヤタ ああ……ああ、そうだよ!

カドタ ただやさしいやさしいわたしとしてはエリート街道を突き進みながらもさ、自爆して落ちこぼれた同期君をほっておけないわけよ!何なんだろ?一体何なんだと思う?あたしって。           「助けて」

ミヤタ 知らねーよ!そういうわりにはお前ファームに行ってからただの一度も電話よこさなかったな。


 
以下会話の音は少しずつ小さく、「助けて」の声は少しずつ大きくなってゆく。


 
カドタ ハハハ!小っさいわねあんた。そんなこと気にしてんの?あんたからかけてくりゃよかったじゃない。    「助けて」

ミヤタ 何度かかけたけど出なかっただろ。

カドタ え?そうだっけ?まぁファームへ出向となるとどうしても忙しかったりするからね……エリートの悲しいところよね……。 「助けて」

「助けて」

「助けて」

研対2「助けて」

研対2「助けて」

研対3「助けて」

研対2「助けて」 研対1「助けて」

研対3「助けて」 研対2「助けて」

研対4「助けて」

研対2「助けて」
 


明転。

早朝。

研究所ロビーのソファで寝ていたミヤタ、目覚める。
 


ミヤタ うあっ!……いつの間に寝てたんだ。
 


携帯電話の音。

ミヤタ、電話を取り、
 


ミヤタ ……はい。


 
舞台別の場所、上手からオオハラ。

急いだ様子で身支度を整えながら、

 

オオハラ もしもし。

ミヤタ ……。

オオハラ もしもし?

ミヤタ あ、室長……。

オオハラ ミヤタ君、すぐにこっちに戻りたまえ。

ミヤタ はい?

オオハラ カドタ君がみつかった。

ミヤタ え?

オオハラ 先ほどこちらの警察で保護された。

ミヤタ 保護?どういうことですか!?

オオハラ 大きい声を出すんじゃない!今周りに人はいないだろうね?

ミヤタ あ、はい。

オオハラ まだ警察が事情を聴いているところなんでよくわからないんだが、何者かに拉致されていたようだ。

ミヤタ え!……拉致ですか?あの、カドタは無事なんですか?

オオハラ かなり憔悴しているようだが、特に危害を加えられたりはしていないようだ。今はまだそれ以上のことは僕にもわからない。とにかく、君たちがファームにいる理由はもうなくなった。朝一番でファームを出てこっちに戻るんだ。

ミヤタ あ、でも室長、ファームで確実に何かが起こってます。もう少しこちらで調査を――

オオハラ それは君らの仕事じゃない!いいかいこれは特に君の為に言って
いるんだ。すぐにファームを出なさい。あとカドタ君の件はくれぐれもムラカミ以外には伏せておいてくれ。

ミヤタ え、いやでも室長、カドタが無事だったってことは皆さんに伝えた方がいいんじゃ――

オオハラ いや、そっちの人間がカドタ君の拉致にかかわっている可能性もある。今はまだ何もしゃべるな!

ミヤタ はぁ。

オオハラ とにかくそういうことだから!頼んだよ!


オオハラ、鞄を手に部屋を出て行く。


 
ミヤタ あ、室長!……はぁ……でもよかった。……そうだ。ムラカミさん起きてるかな?
 


ミヤタ、舞台奥から上手袖へ。

しばしして、慌ててムラカミの腕をつかんで戻ってくるミヤタ。

ムラカミ、パンツ一丁の裸。ズボンとYシャツと靴を抱えている。


ミヤタ ちょ、ムラカミさん!何やってるんですか!

ムラカミ いや、ふりだよふり!

ミヤタ ふりって何ですか!だってザイゼン博士すっ裸で横たわってましたよ!?僕、もろ見ちゃいましたよ!

ムラカミ だから違うんだって!

ミヤタ 何が違うんですか!ムラカミさんも腕枕してたじゃないですか!

ムラカミ だから全部ふりだよふり!

ミヤタ ふりってだって!どっからどうみても――

ムラカミ 落ち着いて話聞けよ!熱出たふりしてここ泊まって、施設の中いろいろ調査しようとしてたろ?

ミヤタ いやそれは知ってますけど!

ムラカミ そしたら、それを見抜いてなのか、こっちはずっと寝たふりしてんのにさぁ、夜、ザイゼン博士がしょっちゅう様子見にくるんだよ。これはなんとかしなきゃと思って、俺もたいして飲めないのに酒好きのふりしてさ、ザイゼン博士に一杯飲みませんかって言ったんだよ。飲ませてつぶしてやろうと思って。

ミヤタ はあ。

ムラカミ そしたらあの女めちゃめちゃ強くてさ。つぶれるどころかどんどん元気になっちゃって。もうしょうがねぇえからさ、ベロンベロンに酔ったふりして一発やって寝かしつけて、ようやく調査ができたんだよ。

ミヤタ やってるじゃないですか!

ムラカミ え?

ミヤタ 本当にやっちゃってるじゃないですか!

ムラカミ うん。

ミヤタ うんじゃありませんよ!やたらふりふり言ってましたけど!結局やっちゃってるじゃないですか!

ムラカミ うん。

ミヤタ うんじゃないでしょ!何なんですかホントに!

ムラカミ まぁでもおかげで面白いもんが見れたぞ!

ミヤタ え?

ムラカミ コトが終わったあと、ザイゼン博士が深く眠るまではと思って俺も寝たふりしてたんだだけどな。そのうち酒と疲れで本当にうとうとしてきちまってな。ちょっと寝ちまったんだよ。

ミヤタ 何やってんですか。

ムラカミ いや、それが良かったんだな。目覚ましたら、俺の横で寝てるはずのザイゼン博士がいないんだよ。

ミヤタ え?

ムラカミ 廊下に出てみたら研究室の方からうっすらと明かりが漏れてたんだ。こっそり窓から覗いてみると……。
 


舞台別の場所にスポット。

ベジタブルマンたち、ヘッドギアのようなもの(脳に直接映像を投影する装置)をつけて座っている。傍らに立つザイゼン。

ベジタブルマンたち、皆、泣いている。


 
ミヤタ 何してたんでしょうか?

ムラカミ 怪しいだろ?しかもこんなこと言ってたぜ。

ザイゼン いい?みんな。このことは誰にも言っちゃダメよ?

ベジタブルマン一同 はい。

ザイゼン このことはわたしとあなたたちとの秘密よ。

べジタブルマン一同 はい。

ザイゼン 偉いわね。秘密をちゃんと守ることは、とても人の役に立つことなのよ。

べジタブルマン一同 秘密をちゃんと守ることはとても人の役に立ちます。

ザイゼン そう。

ミヤタ あ、その言葉……。
 


スポット消える。


 
ムラカミ そうだ。昼間歌をうたってたベジタブルマンが、俺たちが話がしたいって言った時に同じことを言っていた。

ミヤタ ザイゼン博士の言葉だったんですね。

ムラカミ らしいな。あんな夜中にこそこそと。ここの連中にも知られちゃまずいことだったんだろうな。

ミヤタ そうですね。

ムラカミ しかしここの連中はつくづく秘密が好きらしい。

ミヤタ え?

ムラカミ いや、実は昨日もう一つ面白いもんを見ちまってな。

ミヤタ 面白いもの?

ムラカミ 夕方お前が出てって一、二時間くらいしてからだったかな、所長がここを出て行くのが見えたんで、後をつけた。……するとあの歌をうたってたベジタブルマンと待ち合わせてたみたいでな。

ミヤタ え?

ムラカミ 二人で今は使われていない厩舎の中にしけこみやがった。

ミヤタ ……。

ムラカミ 温厚そうにしてたがあの所長、とんだサディストだったぜ。

ミヤタ サディスト?


 
舞台別の場所にスポットライト。


 
研対2 ごめんなさい!ごめんなさい!

ゴトウダ いいからこっち来い!
 


上手から、鞄を持ったゴトウダ、研対2を引っ張ってくる。
 


研対2 もういやですできません!許してください!許してください!

ゴトウダ (上着を脱ぎ)許してくださいじゃねぇんだよ。(鞄からムチを出しながら)せっかく毎晩ムチの感覚教えてやってんのに今やめちまったらもったいないだろ?

研対2 もう……ムチはいやです。

ゴトウダ いやですじゃねぇんだよ!(研対2にムチをわたし、四つん這いになり)さっさと教えたとおりやれ!

研対2 できません!許してください!

ゴトウダ いいからやれっつってんだろこの野郎!

研対2 本番じゃだめでしょうか!?本番にしてください!

ゴトウダ バカ野郎!本番よりこっちの方がいい人間だっているんだよ!さっさとやれこの野郎!

研対2 はい!
 


研対2、ゆっくりとムチを振り上げ、ゴトウダを弱弱しく打つ。


 
ゴトウダ もっと強く打てよこの野郎!

研対2 あの、やはり本番に――。

ゴトウダ うるせぇ!やれっつったらやれ!

研対2 はい!
 


研対2、先ほどと同じようにゆっくりとムチを振り上げ、今度はおもいきり打つ。
 


ゴトウダ ああ~!

研対2 あの……大丈夫ですか?

ゴトウダ いや続けろこの野郎!「ああ!」はこの場合「いい!」の意味だって言ってんだろこの野郎!

研対2 「ああ」は「いい」……ちょっとよくわかりま――

ゴトウダ いいからやれ!

研対2 はい!(ムチで打つ)

ゴトウダ ああ~!……つ……続けろ!


 
以下、ムチで背中を打たれ続け、


 
ゴトウダ ああ!……ああ!……ああ!……(鞭が腹に入り)うお!

研対2 あの、「うお」は?

ゴトウダ 「うお」もいいんだよ!いちいち俺のリアクション気にせず連打でこい連打で!

研対2 やっぱりわたしには難しいのでザイゼン博士に……。

ゴトウダ あんなババァじゃダメだっつってんだろ!さっさとやれ!

研対2 はい!


 
連打で打つ。


 
ゴトウダ ああ!あ!あ!もっと俺をブタだと思ってやれこの野郎!

研対2 ……ブタ?

ゴトウダ そうだよブタだよ!俺はブタなんだよ!

研対2 この野郎~っ!


 
ムチに憎しみがこもる。


 
ゴトウダ おお~!!そうそうそう!

研対2 この!この!この!この!この!……。

ゴトウダ おお!そうそう!おお!お!……お?ちょ、ちょっと待て!ちょ……イタ!待って待って!一回待ってマジで!

研対2 うるせーこのブタ!

ゴトウダ ちょ、違う!待って待って!
 


スポットライト消える。


 
ムラカミ なかなか壮絶なもんが見れたぜ。

ミヤタ 可哀そうに……あの子。

ムラカミ でも後半はかなりノッてたぞ?

ミヤタ そういう問題じゃないですよ!

ムラカミ そうか?

ミヤタ でもそれって所長がSってことになるんですか?

ムラカミ Sだろ?嫌がってる相手に無理矢理させてんだから。

ミヤタ うーん……。

ムラカミ それより興味深いのは、ベジタブルマンも豚だと思えば人間を容赦なく鞭で打つことができるってことだ。

ミヤタ なるほど。

ムラカミ ん?そういえばお前何しに上へあがってきたんだ?

ミヤタ え?

ムラカミ 何か、慌ててたみたいだったが。

ミヤタ あ!

ムラカミ ん?

ミヤタ ムラカミさん!カドタがみつかりました!

ムラカミ え?

ミヤタ 今さっき室長から電話がありました。やはり何者かに拉致されてた
みたいなんですが、先ほど東京の警察で無事保護されたそうです!

ムラカミ 拉致されてた?

ミヤタ 室長もまだ詳しいことはわかってなかったみたいです。

ムラカミ 何でそれすぐに言わねぇんだよ!

ミヤタ すいません!お二人の裸があまりにショックでとんじゃってました。

ムラカミ バカ野郎!カドタの安否に比べたら俺と博士のセックスなんて何でもねぇだろ!


 
間。

ミヤタ、引っかかるものを感じつつ、


 
ミヤタ はい。

ムラカミ まぁしかし、無事で何よりだったな。

ミヤタ ……はい。特に危害は加えられてないみたいです。

ムラカミ うん。

ミヤタ 僕、正直カドタは自分の意思で姿を消したんだと思ってました。

ムラカミ ん?

ミヤタ 電話の件もありましたし、昨日一日ここで過ごしてみて、僕ならとてもやっていけそうにないって思ったんです。カドタもきっとそうだったんだろうって。

ムラカミ ああ。他にオオハラは何か言ってたか?

ミヤタ あ、このことはここの人たちには伏せておくようにって言ってました。

ムラカミ まぁ、そうだろうな。あとは?

ミヤタ え?

ムラカミ オオハラは何か言ってたか?

ミヤタ ……その……すぐにファームを出ろって。

ムラカミ そうか。じゃあすぐに帰り支度だな。意外と楽な仕事だったな今回は。


ムラカミ、服を着はじめる。


ミヤタ ……。

ムラカミ どうした?ファームから出ろってことは、ひとまずお前への疑いは晴れたってことだぞ?

ミヤタ あの、僕、もう少しここにいたいんですけど。

ムラカミ そりゃまずいだろうな。これから警察や農務局関係者がここに捜査に来るかもしれないんだ。俺たちは一刻も早くここを去るべきだ。

ミヤタ でも、カドタがなぜ拉致されたのかもまだわかりませんし……。

ムラカミ 警察が介入してくるんだ。俺たちにできることはない。

ミヤタ ……じゃあ、僕たちの任務はもう終わったってことでいいんですよね?

ムラカミ まぁ、そうなるな。

ミヤタ じゃあ、僕に協力してもらえませんか?ムラカミさん。

ムラカミ 何?

ミヤタ お金なら払います!貯金ならいくらかあります!貯金で足りなかったら一生働いてでも払います!

ムラカミ 落ち着けよ!俺に何させようっていうんだよ?

ミヤタ 実は昨日、ベジタブルマンたちと話をしてきたんです。

ムラカミ 何?

ミヤタ そしたら、あの……髪の毛の長い方の女の子が……。


 
スポットライト。研対3登場。


 
研対3 わたし人間なんです!記憶を消されそうになったけど、わたし、全部覚えているんです!

ムラカミ なに?

ミヤタ 彼女は……。

研対3 わたしは、モトミヤカエデといいます!

ムラカミ おい、そりゃ本当か?

ミヤタ 彼女は元々ファームの職員だったらしいんですが……。

研対3 わたし、知ってはいけないことを知ってしまって。ある実験施設に入れられていました!そこは……人間の記憶を消してベジタブルマンに変えてしまう実験をしていたんです!

ムラカミ おいおい、ウソだろ?

ミヤタ 幸か不幸か彼女は記憶が消えなかった。しかし、それを悟られると身に危険があると感じ、ベジタブルマンとして暮らしながら、ファームを出る機会をうかがっていたそうです。

ムラカミ そのこと、ここの連中は知ってるのか?

ミヤタ いえ。ファームの中に入っている企業が、それぞれ独自の開発研究を行う施設を持っていて――

研対3 そこで何が行われているかは、それぞれ特定機密に指定されているんです!

ムラカミ 皆自分たちの持ち場以外のことは理解していないってことか……。

研対3 ファームの秘密主義は徹底しています!

ムラカミ それを束ねているのが農務局ってわけか。

研対3 そうです!

ムラカミ え?

研対3 ……。

ミヤタ え、どうしたんですかムラカミさん?

ムラカミ (頭を振り)いや。……で?

ミヤタ え?

ムラカミ お前まさか彼女を連れ出そうってのか?

ミヤタ いえ。それは彼女も……。

研対3 とても逃げ切れるとは思えません。それにもしうまく逃げることができても、証拠を消す為にわたしと同じ目に合った人たちが殺されるかもしれません!

ムラカミ 懸命だな。

研対3 それより、世間の人たちに知らせてください!ベジタブルマンたちの本当の姿を!そしてファームで進められているもう一つの恐ろしい計画を!

ムラカミ もう一つの恐ろしい計画?

ミヤタ その計画を知ってしまった彼女はそれを世間に公表しようとして、記憶を消されそうになったそうです。その計画っていうのが……。

研対3 このファームのどこかで――

ムラカミ ちょっと待て!

ミヤタ 何ですか?

ムラカミ その先は、俺には言うな!

ミヤタ 何でですか?聞いてくださいよ!その計画は……。

研対3 このファームのどこかで――

ムラカミ ダメだ!

ミヤタ ムラカミさん!ここまで話したんですから!その計画とは……。

研対3 このファー――

ムラカミ 消えろー!
 


スポットライト消える。


 
ミヤタ 何でですかムラカミさん!

ムラカミ その先はお前は知っちゃならないし、お前が知ってるってことを俺は知っちゃならない。そのことは誰にも言うな!

ミヤタ そんな……。

研対3 (暗闇の中から)このファームのどこかで――

ムラカミ うるせー!

ミヤタ どうしたんですか?

ムラカミ 何か声が聞こえる気が……。ああ!さっさと消えろ!


 
研対3、舌打ちをして下手へはける。


 
ムラカミ 舌打ちしたか!?今舌打ちしたか!?

ミヤタ してませんよ。

ムラカミ 今「チッ」って聞こえたぞ?

ミヤタ どうしたんですかムラカミさん!

ムラカミ ちょっと疲れてるのかな?

ミヤタ とにかくムラカミさん!僕はベジタブルマンたちのこと、ほってはおけないんですよ!他のみんなだって人間かもしれないんです!いや、人間じゃなかったとしても、やっぱりこんなの間違ってますよ!

ムラカミ で、具体的にお前はどうしたいんだ?

ミヤタ ベジタブルマンたちを助けたいんです。

ムラカミ なら、尚更一度ここを離れることだな。

ミヤタ そんな。一度離れたら、もうここへは来られないかもしれません!

ムラカミ 今ここに残ってお前に何ができる?

ミヤタ このファームで行われていることを裏付ける証拠を手に入れたいんです!

ムラカミ やめておけ。そんな行き当たりばったりは確実に失敗する。

ミヤタ だから!だからムラカミさんに手伝ってほしいんです!

ムラカミ 一度ファームを出て頭を冷やせ。

ミヤタ ムラカミさんが手伝ってくれないなら、僕一人でやります。


 
間。


 
ムラカミ 本気か?

ミヤタ 本気です!

ムラカミ そうか。……なら、俺はお前を消さなきゃならない。


 
ムラカミ、ポケットから小さな銃を出す。


 
ミヤタ な……。

ムラカミ 言ったよな?オオハラからの依頼。場合によってはお前を消すこと。

ミヤタ ……殺すなら殺してください!こんな状況見過ごして何もしないくらいなら死んだ方がマシですよ!

ムラカミ おい、俺は本当にやるぞ?

ミヤタ ええ。一人ぐらい彼らの為に死ぬ人間がいてもいいでしょう。

ムラカミ フッ……ぬるい……。


 
ムラカミ、銃をしまいミヤタに近づき、


 
ムラカミ ぬるいんだよ!(ミヤタを殴る)お前が死んで一人でも奴ら救えんのか!?楽になりてぇだけだろお前は!このトチ狂った状況が何年かかって生まれたと思ってんだ!ちょっと思いどおりにならないくらいで殺してくれだ?本気であいつら救いたいなら、お前の安っぽい命かけるくらいじゃ足ンねぇんだよ!人生かけろっ!!

ミヤタ ……。


 
音楽。

照明、徐々に暗くなる。

音楽止まる。舞台上手にスポットライト。

研対3現れ、


 
研対3 このファームのどこかで――

ムラカミ うるせー!


 
スポットライト消える。

再び音楽。

溶暗。
 



戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』⑫ 悲劇 につづく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?