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食べる人の顔を思い浮かべて作る。おこめのおめかしに関わる人 梶原正子さん

はぎトッツォの生みの親、梶原正子さん。福岡のローカルスーパー『ダイキョー』弥永店惣菜部に勤務し、自由な発想で新しい惣菜やスイーツを次々に生みだす、惣菜の開拓者。その原動力は、家庭料理と料理を作る喜びにありました。

はぎトッツォを作る梶原さん

はぎトッツォは子供のようなもの


「はぎトッツォは子供みたいなものですよ。だから作るときは、『丸く、かわいくね。きれいにね、かわいくね』とこうやってね」

と、愛おしそうに手のひらの上におはぎを乗せる格好をして、まんまるにクリームを盛って仕上げるはぎトッツォ作りの仕草をする梶原正子さん。自家製おはぎに特製クリームを挟んだスイーツ『はぎトッツォ』の製造開発、スタッフの技術指導に携わります。慣れると自己流になりがちなので、前述の言葉を添えて、一つ一つ丁寧に作ることを伝えています。

『丸く、かわいくね。きれいにね、かわいくね』


「だから、お買い上げのお客様が手提げ袋をブンブン振って歩いているのを見かけると、『大事に持って帰って』と、お願いの思いで見つめてしまう」

大切な我が子の旅立ちを、そっと見守る母親のような気持ちで商品を送り出しているのです。

2021年8月の発売し、月に2万個以上を売り上げるヒット商品に成長したはぎトッツォ。まさかここまで売れるとは思っていなかった、と梶原さん。

※梶原さんがはぎトッツォをどのようにして生み出したかは、『はぎトッツォ誕生物語』でどうぞ。


二足のわらじでスーパーに勤務


梶原さんは19年前の2003年に弥永店に当時あった宅配のパートとして採用。
実はこの時、昼はダイキョー、夜はスナック経営と二足のわらじの生活でした。
「ダイキョーで働いて知り合いができて、自分の店に来てもらえたらと。ちょっとズルいよね」。いったん退職後2009年にパートで再入社し、日配などいわゆるスーパーの店内業務をしていました。

転機は2016年に大橋店(当時)の店舗リニューアル。惣菜コーナーの立ち上げスタッフとして、パートながら抜擢されたことです。プライベートでの料理好きを知っての指名ですが、メニュー作成や現場運営を一人で任されることに。

再入社の時にはスナックを畳んでいましたが、自分の店の営業活動のために働き始めたスーパーで、人生初の惣菜の仕事をすることになりました。

白紙の状態で何もない場所だから、とにかくやるしかなかった、と当時を振り返ります。


惣菜作りは家族に食べさせたいものが基準


長者原店での基本惣菜作りの3カ月間の修行を経て、惣菜コーナーの開設時に梶原さんは早速オリジナル惣菜を並べます。自由に商品が作れる環境、というより既存の商品がなく、どんどん開発しないと立ち行かない状況でした。

『俺の弁当』。梶原さんの息子さんへの思いとご飯がぎっしり詰まった弁当

オリジナル惣菜第一号『昔ながらの弁当』はご飯の上に焼きサバと卵焼きが乗る懐かしい雰囲気の弁当。
『俺の弁当』はご飯の上にメンチカツに唐揚げ、目玉焼きなどおかずが載る、軽く総重量1kg超えのずっしりと重たい弁当。
どちらとも今のダイキョーの人気定番メニューになりました。

「『昔ながらの弁当』は自分や家族に作っていた弁当で、『俺の弁当』はよく食べる食べ盛りの息子にいろいろおかずを乗せて、持たせてやりたいと思って考案した弁当です。自分が食べたい、子供に食べさせたい、親に食べさせたいものを作る。
家でご飯を作るのと一緒ですよ。安心して食べられるものをお客さんにも食べてほしいから」

だから余計な調味料や添加物も極力入れず、予算も考え、少しでも体にいいもの、旬を考えて作るんですと、まるで家庭でのご飯作りそのまま。スーパーの惣菜だからと構える必要はない、と料理へ向かう基本姿勢は崩しません。

だからでしょう。梶原さんの作る惣菜は毎日食べても飽きがこず、堅苦しさがなく親しみやすく、茶目っ気があったりおしゃれだったり。“お母さん、今日のご飯なあに?”と尋ねたくなる、次はどんなものが飛び出すかとわくわくします。

梶原さんが開発した『フルーツまっこロン』。名前が正子なのでまっこロン。
しっとりとした生地で、通常のマカロンとは違うスイーツに進化


発想力の秘密。そしてプロの矜持


新しい惣菜やスイーツをつぎつぎに生み出すその発想力の秘密は? 何かネタがあるんですか? と尋ねるとアハハハと笑いながら、

「だって、元ネタはないもん。即興よ。鮮魚部から『この魚で何かできないか』と言われれば魚で、青果部がナスを持ってきたらナスで。栗の甘露煮があればそれでスイーツを」

ほとんどの商品開発は素材を見て始まります。これも家庭料理のような作り方で、メニューやレシピありきではなく、家の冷蔵庫にある素材を見て決める感覚と同じだとか。

ここで、梶原さんが視線を真っ直ぐに据えて語ります。

『えびピーナの整列』梶原さんの作品。
春日井製菓主催『第1回おかしなメニューコンテストin福岡』(2022年3月8日開催)出品作


「あとね、商品を作るのは思いがないと、いいものはできないと思う。ただの作業ではなく、お客さんが食べる顔を思い浮かべて作らないと。この料理は喜ぶだろうな、とかね。私たちは結局口に入れるものを作るんですよ。口に入れたもので死ぬこともある、そのくらい責任を持たないとダメなんよ」

「思いがあって作ったかどうか、お客さんはよく分かっている。それは売上の数字にも出るから」

聞く方が居住いを正したくなる、ピリリとしたプロとしての矜持。
これが梶原さんの生み出す料理を、家庭料理を超えた家庭料理、惣菜に変えているのかもしれません。

全国のスーパーマーケットやコンビニなどで販売する惣菜・弁当が出品し競う『お弁当・お惣菜大賞』。
ダイキョーは10年連続受賞。2022年度は最優秀賞を受賞
『お弁当・お惣菜大賞2022』優秀賞『深島かまど白味噌の牛うどんすき』は梶原さんの作品。
受賞作の数々は弥永店にて日替わりで販売


「うちはスーパーだけど、ワンランク、2ランク上を目指さないと。でないと、『やっぱりスーパーの惣菜やん』となってしまう」

家庭料理と同様のスタンスであっても、完成する惣菜は味、見た目、クオリティの高さといった客観性を加味し、商品として成立するかの厳しい視点も加わり売り場に並びます。

そのため、時代の潮流を知る市場調査や他店の食べ歩きも欠かしません。勉強のため他店を参考にする場合、決めていることがあるといいます。
それは、参考にした商品以上においしいものを作ること。それが相手への敬意だと言います。

「相手に失礼になるので。もし私だったら、私の作品以上のおいしいものを作ってほしいから」


喜ぶ顔が見たくて、今日も厨房に立つ

仕事が休みの日もお菓子を作り、自宅に人を招けば食べながら呑みながらずっと料理を作り続けてもてなす、それくらい筋金入りの料理好き。

「料理が大好き。だから私は本当に幸せだなと思うんですよ。自分の好きな料理をして、それが仕事になっているんですから」

そう嬉しそうに話したあと続けて、

「料理が好き、というより食べた人が喜ぶのが好き、おいしいと喜んだ顔を見るのが好き。だからどんどん作って『これどう、 食べてみてよ』と食べてもらいたくなるんです」。

言葉の通り、弥永店惣菜部の厨房を職員が通りかかると「これちょっと食べてみて!」と呼び止められて、いきなり試食会が始まることもしばしば。何に使うかわからないけど作ってみたソース、それをキャベツとコーンとあえてすぐ今日の惣菜で出すといった、アドリブとアレンジで、惣菜やスイーツが魔法のように飛び出します。

こうして、今日もダイキョーの惣菜コーナーに、また新しい惣菜やスイーツが並びます。家族を、お客様の顔を思い浮かべながら作った商品です。
そのなかから、”次のはぎトッツォ”が生まれるかもしれません。


梶原正子さん(かじわらまさこ)

福岡のローカルスーパー『ダイキョー』惣菜部部長。ダイキョー弥永店勤務。はぎトッツォにおいては製造開発、技術指導を行う。

※記事は2022年4月3日現在の内容です。

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はぎトッツォってどんなお菓子? よかったらこちらから。



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