「喜んでもらう」か「喜ばせる」か
サービスや接客のお仕事の目的は「お客様に喜んでもらうこと」と言われます。
言葉遣いや接客態度、さり気ない心遣いやおもてなしは、すべてがお客様のために行うものです。
お客様はその行動や気持ちに感動し、対価とともに「ありがとう」と感謝の言葉を口にしてくださる―――お客様が心から喜んでくださったからこその感謝なのでしょう。
そんな素敵なサービス・接客のお仕事に就きたい方も多いはず。
履歴書の自己PR欄に「私は人を喜ばせることが大好きです」と書いて、その熱い思いを伝えたくなりますよね。
ところでこの「喜んでもらう」と「喜ばせる」の違いはなんでしょう?
あまり意識せずに使っているかもしれません。
でもわたしはここに明確な違いがあると感じています。
わたしはこう考えます。
「お客様に喜んでもらう」は相手が主体
「お客様を喜ばせる」は自分が主体
ではそれぞれの意味を定義してみましょう。
「お客様に喜んでもらう」は相手が主体
相手が主体というのは、自分が提供するサービスや接客の結果、お客様が喜ぶことを目的としています。相手がどう受け取ったか、相手がどう感じたかに重きを置き、そのために自分がどう尽くせるかという視点で行動します。
相手に主体があるため、相手の反応を見て自分の行動を微調整していくことがありますし、相手の反応次第で自分が一喜一憂する可能性があります。
もちろんほとんどのお客様に喜んでいただけるだけのサービス・接客を心がけますから、お客様の満足度は高くなりますし、自分も満足した仕事ができるでしょう。
ただ、たまたまうまくいかなかったり、思った反応がなかったりすると、必要以上に落ち込んでしまう可能性も含んでいます。それは相手の反応に振り回されてしまっている状態とも言えます。
相手主体に軸足を置きつつ、自分の行動に意識を向けつつ、といったバランスがとれていると、「よく気が利く」「お客様のことをよく見ている」「いわれる前に行動できる」といった評価につながるでしょう。
「お客様を喜ばせる」は自分が主体
一方、自分が主体というのは、自分が高い質のサービスや接客を提供することを目的としています。自分がどう努力できたか、どう納得いっているかに重きを置き、そのために自分の最善を尽くそうという視点で行動します。
もちろんお客様の喜びは大切な結果ですので、その喜びを見て自分の行動に自信を持つということが考えられます。
自分を省みることができるので、より高い質を追い求めてスキルアップ・レベルアップを目指せます。よりよいサービスとは何か、そのために自分は何をすべきか、どうしたら大きな喜びを与えられるか、といった自問自答を繰り返して成長していきます。
でもお客様を喜ばせようとするあまり、「このサービスや接客でお客様が喜ばないはずはない」と独りよがりになってしまうことも。相手の反応よりも自分を高めることに夢中になり過ぎて、相手を見ずに行動してしまうと、独りよがりのサービス・接客に陥りがちです。
自分主体に軸足を置きつつ、相手の様子も十分に伺いつつ、といったバランスになると、「自信があってお客様に安心感を与える」「誰にでも分け隔てなく質の良い接客をしてくれる」といった評価につながるでしょう。
さて、こう考えてみると・・・どっちも大事ですよね。
ただ、どちらも行き過ぎてしまうのは逆効果です。
これを的確に表した図が、JCDA発行『キャリアカウンセリングとは何か(改訂版)』の「帰属意識と個性の発揮」に掲載されています。
「お客様に喜んでもらう」というのは、『承認(帰属意識)』が高いところに位置していると考えられます。他者に意識が向いている状態です。
ただし、自分の『満足(個性の発揮)』を二の次にしてしまうと、自己犠牲になってしまい、ひらすら貢献・調和となってしまう恐れがあります。
「お客様を喜ばせる」というのは、『満足(個性の発揮)』が高いところに位置していると考えられます。自分に意識が向いている状態です。
ただし、相手の『承認(帰属意識)』を後回しにしてしまうと、自己中心になり、独善的で自分は正しいという振る舞いになりかねません。
つまりバランスが重要になります。利他利己のように『承認』と『満足』の両方を満たすように行動できれば、おのずと個立連帯の方向へと進みます。お客様もお店も自分もみんなが喜ぶようなサービス・接客ができる・・・というわけです。
例えるなら、「お客様の喜びがわたしの喜びであり、お客様を幸せにするためにはまず自分が幸せであろう」という感じですね。
今日は、「喜んでもらう」「喜ばせる」という言葉の違いから、キャリアカウンセリングにおける「帰属意識と個性の発揮」の方向で考えるところまで深めてみました。
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明日も佳き日でありますように
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