「税をむさぼる人々」森口朗(著)
社会保障は定期的に政治の話題にあがるが、実際のところどのような制度として運用されているかということは専門家などしか知らないものだ。私もただ漫然と書類が役所からくるからなんとなく社会保険料を払い、年金を払うなんてことをしている。会社勤めの人はあらかじめ給料から天引きされているからそれを実感することもないと思う。
だがこの本を読むと知らないということのおそろしさを痛感する。私たちは知らない間に損をしていた。「真面目に働いているのにどうして金銭に余裕ができない」「将来への不安が絶えない」そんな人にこそ是非とも読んでほしい。
無知は損だと感じてせめて自分の将来提供される社会保障についてだけでも知っておこうと思うのではないだろうか。少なくても私は改めて知らないことによって損をすることがあると骨身にしみた。この本はそのような現実におきている社会保障の異常性について細かく説明してくれつつ、さらに読者に社会保障に関する気づきを与えてくれる有意義な一冊だと思う。
無知な国民は無力
考えてみると国民は何の疑いもなく、社会保険料や税金を納め健全に日常を送っている。社会保険料にしろ税金にしろ払いたくなくても国家という巨大な権力の前ではそれはわがままと一蹴され、「金を払え」と場合によっては国税庁が出張ってくる。
国民は民主主義において有権者ではあるが、活動しなければ、政治に関心がなければ、無知であれば、政治家や官僚にとってはどうということはない存在なのは悲しい限りだ。著者は本の中で政治家や官僚の怠慢や社会保障制度の欠陥を他国と比較しながら広範にわたって書いている。
政治家が仕事をしていないのは明らかな事実だが、官僚の怠慢というのは意外に思う人もいると思う。全ての官僚が怠慢というわけではないが、中にはそういう人もいる。
政府が拡大し民間経済にも介入するようになると談合などが生まれる。少し前に「税金の中抜き」が報じられ批判されたが、それも官僚の怠慢や拡大した政府と企業の癒着が引き起こす大きな問題点なのだ。この本は政府と国民、そして企業などの関係について考えさせられる本でもある。
まったくの予備知識なくこの本を読んだ人はきっとこの事実に腹が立ち、これまでの政治への無関心さを後悔するかもしれない。これまでは「何となく自民党」「なんとなく立憲民主党」と投票していた人たちの認識も大きく変わると思う。無関心で監視を怠っている間に悪人は着々と悪事を働き私腹を肥やしている。そのしわ寄せをくらうのは国民なのだ。
消費税と社会保障の関係について書かれている部分など、いかに今自分たちが制度の欠陥や政治側の嘘によって騙されているか、そして野党がそれを改善しようとしないでずっと今日まで続いてきたことも含め、きっと日本政治の下劣さに嫌気がさしたり悲しくなってしまうかもしれない。
だが著者も最後に書いているが、改善する手立てはあるということは救いだ。無知であったがゆえに、わからないままに信用していたために、何となく選んでいたために、損をさせられてきた国民は意識が変わるだけで今の不都合な現状改善できる。国民が汗水たらして稼いだ金の一部を私腹を肥やすために悪用されるような社会を変えようと気づかされる勉強になる一冊だった。
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