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「クラウゼヴィッツ『戦争論』の思想」マイケル・ハワード(著)

 私は軍事に関しての本を読むことは少ないのだが、だからこそ新鮮味を感じた一冊であったことは間違いない。クラウゼヴィッツという一軍人について書かれた本書はクラウゼヴィッツに興味を持つ人にとっては最高の一冊だと思う。

この本は最初から最後まで一貫してクラウゼヴィッツについてしか書かれていない。クラウゼヴィッツは「何者で」「何を考え」「何を残したのか」。これをわずか約150ページにまとめている。ゆえにクラウゼヴィッツという存在そのものを要約した一冊であり、クラウゼヴィッツファンにはたまらない一冊ではないだろうか。

監訳者によるあとがきも本書の内容をさらに凝縮して伝えており、著者の特徴や本書の重要な部分だけを知りたい人にとってはそのあとがきを読むだけでもためになるだろう。

・軍人の視点

 日本は戦争という行為から酷く離れてしまい、戦争を意識することなどなくなってしまった。だからこそクラウゼヴィッツやクラウゼヴィッツに関連したドイツや世界の軍人たちが何を考えて戦争をどう捉えていたのかという観点を紹介するこの本は日本人には馴染みのない視点について学べる。

戦争が単なる殺し合いではなく、目的を持ち政治的なものであるということなどは日本人にとって忘れられている考え方ではないだろうか。

戦争を支える諸要素などは読み進めるほどに関心が増す部分であり、東京裁判で勧善懲悪を達成したという認識に立つと戦争を支えた国民の熱狂というものは忘れられてしまう。まさに戦争を構成する要素まで含めて戦争を研究するということを本書は示している。

・応用性のある本

 ただ一方で軍事という滅多に考えないであろうことについて、軍事に関心のない人々は本書を魅力的に感じないと思うかもしれない。

それは本書を軍事についての本と理解するから起きる現象であり、本書の内容を応用するという発想に立つと、本書の内容は社会一般でも使える要素について多数触れていることに気づく。

本書の中でも触れられているがクラウゼヴィッツの戦略は市場競争においても活用ができる。要はただ受動的に内容を読んでいくのではなく、戦略を学ぶという点で本書の軍事的用語を他の言葉に置き換えて考えながら読むと印象が格段に変わるということだ。

指導者とは、戦略とは、これは自己啓発やビジネス本でもよく取り扱われる内容だ。目的をもって各章を読むとそれぞれで社会でも使える技術を見つけることができる。

クラウゼヴィッツのいう「軍事的天才」は現在の社会や組織内で考えるとどういう人材なのか。ただ博学な人間がエリートとして偉いのか。それとも現場も理解できている人間が評価されるのか。会社の利益につながる競争における戦略はどういう風に考えるのがいいのか。

このように自分の中でテーマを決めて読んでいくと本書の内容に関する印象は単なる軍事関連の本から自分に何が必要かを教えてくれる本へと変貌する。応用性を持ち、目的に応じて内容の受け取り方が変化するこの本はまさしく飽きることなく、学びをくれる良書であろう。

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