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「歴史通」谷沢永一(著)

 ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉は多用される名言の一つです。

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これだけ多用されるとありがたみを段々と感じなくなるような気もしますが、長く利用される言葉というのはそれだけ歴史の修練を受けているわけでやはり価値のある言葉であると思います。

 著者である谷沢永一氏は戦後保守派の論客として知られた歴史学者です。

その保守派歴史学者による日本史からわかる日本の強みについてまとめられた一冊が本書と言えます。

歴史を知り、そして現代に生かす、まさにあの名言を体現したような一冊というのが特徴的です。

・日本史は西洋の常識では語れない

 明治時代以降の日本が西洋に追いつこうと必死に外来の文化や技術を取り込んできました。一種の西洋コンプレックスから日本の歴史を西洋の観点から分析してしまうのは仕方のないようなことかもしれません。

ですが、著者はこの西洋の歴史における常識から考えると日本の歴史を間違って理解してしまうと指摘しています。

 例えば西洋における貴族と庶民の関係というとどうにもできない格差と階級による徹底した差別がありました。

では日本はどうかというとそうではないようです。西洋の貴族と違い日本の貴族の生活は質素なもので、大きな格差が階級間で存在しなかったのです。

 西洋の歴史はマルクスの指摘する階級闘争が当てはまるような歴史ですが、日本は階級間の移動も西洋よりもしやすく、努力をすれば階級関係なく登用される国だったのです。

西洋の価値観ではわからない文化や歴史を経験していきた日本を西洋の感覚では語れないのは日本の独自性を表すいい例だと思います。

・隠居文化

 最近Youtubeで成田悠輔イェール大学助教授やひろゆき氏を見ることが多いです。田原総一朗氏と両者が対談している動画は興味深く拝見しました。

両者共に日本社会の高齢化を問題視しているようです。ここで日本の歴史を振り返ると日本には隠居文化がありました。

 隠居とは企業の経営者などがまだ働けるにも関わらず第一線から撤退し、若者に立場を譲り、自身は余生を静かに過ごしたり後進の育成などに取り組むことです。

まさに今の日本社会の高齢化問題の解決案として学ぶべき知恵の一つだと思います。

 上下社会となるとどうしても上が居座り続けることを止めづらい雰囲気があります。ですから自ら退き、自身の経験を後進に語ることで社会の若返りと発展に貢献することは素晴らしいことです。

日本の地位ある高齢者がこのような歴史に学び若返りを図ることは日本社会にとって必要だと感じます。

「事業の進歩発展に最も害するものは、青年の過失ではなくして、老人の跋扈である」

これは住友財閥の二代目総理事(社長)伊庭貞剛氏の言葉です。

的確な言葉だと思います。

 受験勉強は暗記に偏った歴史ですが、歴史を学ぶ本質はそこではありません。だからこそ、こういう本から日本史の興味深い部分を学び取ってもらいたいです。

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